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雑感|スタートアップとエコシステム

最近よく「日本もスタートアップ育成のために『エコシステム』を整備するべき」といった論調を耳にする。

たしかに、世界に目を向ければ、深セン(IT・ハードウェア)、ロンドン(フィンテック)、パリ(ライフスタイル)、テルアビブ(IT・ライフサイエンス)などなどで、スタートアップへの支援体制が都市レベルで構築されていて(※1)、なるほど、日本の『エコシステム戦略』は遅れているようにみえる。
なので、国が発表している「スタートアップエコシステム拠点形成戦略」やそれに続く具体策(※2)なんかも、(実現性やコスパはともあれ)真っ当な取り組みだと思うし、応援したい・貢献したいと思う。

ただ、僕の思い過ごしかもしれないが、『日本のエコシステム構築計画!!』は下図みたいに、内部資源というか関係当事者の能力開発に終始していると感じる。エコシステム(=生態系)との類比でいうと、ミミズやらクスノキやら、タヌキといった個々の生き物をどう保護したり、繁殖したりするかに集中していて、エコシステムという複雑系をどう構築・発展させるかという方向を(半ば意識的に)無視しているのだと思う。この状況は、少し古いが2014年のHBRに掲載された「What an Entrepreneurship Ecosystem Actually Is」(※3)で描かれている幾つかの「misconceptions and mythology」に近いと懸念さえする。

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「じゃあ、どうすりゃいいのよ?対案だせよ」というツッコミをいただきそうだが、ひとつのヒントは、これまたHBR(2019年)だが、「In the Ecosystem Economy, What’s Your Strategy?」というLBS教授の論考(※4)にあると思う。
この中では、エコシステム・エコノミーでとるべき戦略について、チェックリストのようなものが幾つか書かれている。例えば、「Can You Help Other Firms Create Value?」、「Can Your Organization Adapt?」などが、そうだ。こうした質問はー目的語というか主語というかのYou=企業だからかもしれないがー他者との関わり合い・相互依存関係をどう構築していくべきかという点に意識が向くので、非常に示唆に富むと思う。

畢竟、冒頭の「『エコシステム』を整備するべき」という主張は、「整備する」という発想がそもそも間違っていて、エコシステム=生態系は、生き物の生存競争が形成するものだから、「『エコシステム』が形成されるのをどのように手伝うか」を目的にすべきなのかもしれない。

このあたり、自身でも考えがまとまらないので、また考えてみたい。


参考にした文献・情報

(※1)地域別情報や日本との対比は、ジェトロのレポートがよくまとまっていた。

(※2)例えば内閣府の取り組みなど。

(※3)2014年の米国の論文なのに、日本が注力している起業家への支援策(の一部)の効果が否定されていてつらい。HBRは初回は登録なしでも、何本か無料で論文読めるようになっているので、関心があれば読んでみてほしい。

(※4)この論考内での「エコシステム」はスタートアップの周囲に限らず、どちらかというとネスレやグーグルなどの大企業が取り上げられている。またエコシステムもどちらかというと「楽天ポイント圏」的な(楽天でてきませんが...)いわゆるビジネスモデルやら「○○経済圏」とも互換性のある用語になっている。ちなみに、日本語版はDIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー2020年2月号に載っている。



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