近況と告知 ねこによろしく(9)
近況と告知です。
1.書評・感想いただきました
WIREDに『フルトラッキング・プリンセサイザ』の書評が掲載されました。テクノロジーカルチャーの源流のような存在であり、創刊者のケヴィン・ケリー氏の著書は参考書籍として選書フェアでも挙げたほど影響を受けてもいます。嬉しかったです。
ほかに、海猫沢めろんさんによる書評が全国の新聞に掲載されました。言語芸術としての側面に言及いただき、ありがたいレビューでした。
私が確認できた書評・感想をこちらのnote記事にまとめています。
2.大原鉄平さんと対談しました
先日、作家の大原鉄平さんとの対談動画が公開されました。40代後半でデビューした新人作家同士、互いの作品について語り合っています。よかったらご覧ください。
大原鉄平さんのWebサイト
3.新作短編が掲載されました
『ことばと vol.8』に短編「警告してやる声が要る」が公開されました。
http://www.kankanbou.com/books/kotobato/0624
この作品は、「フルトラッキング・プリンセサイザ」と「メンブレン・プロンプタ」(フルトラP 収録)の間をつなぐ、2020年1月の出来事を描いています。
「警告してやる声が要る」の「私」が住む家は、「メンブレン・プロンプタ」で主人公のうつヰが仕事のために出入りしている”服の部屋”がある家です。
私が初めてうつヰのことを書いたのは、彼女がその部屋で一人、メルカリに古着を出品する作業をしている場面でした。時系列としては「メンブレン・プロンプタ」と同時期です。起点であるその作品もいつか公開できるよう、創作活動を続けていきたいと思っています。
また、野田秀樹・萩尾望都の戯曲「半神」に本歌取りをして制作しました。タイトルは戯曲冒頭のセリフから引用しています。(「半神」について書いた記事は、このnoteの中で最もアクセスが多いです。よかったらこちらもご覧ください)。小説の制作における「本歌取り」は既に発表した作品でも行ってきたことですが、短編でさらにその密度を高めて、言語芸術としての様式の開発に取り組んだつもりです。
読者の方のご感想など心よりお待ちしています。
4.デジタルハリウッド30周年
デジタルコミュニケーション学部の金森さんが、春に発表した卒業制作で国際的な賞を獲得しました。設置会社としても大学(DHU)としても大きなニュースで、デジタルハリウッド創立30周年の10月は忘れがたい月になりました。
コンピュータ・グラフィックスの専門誌『CGWORLD』は2024年10月号でデジタルハリウッドを40ページにわたって特集。記事広告ではないのです。ひとつの学校を通して業界と技術の潮流を見つめる分厚い内容になっていました。
表紙は私の敬愛する杉山知之学長。ご自身で背景画像のアートディレクションも手掛けました。AI生成による背景をLED投影して撮影しています。アート提供は白井暁彦先生。拙作「メンブレン・プロンプタ」のモチーフとなっている画像生成でも参考にさせていただきましたが、その先端の研究実践の一端を見ることが出来ます。
こちらは杉山先生のnote。初めて知るようだけどずっとそうだった、という一面が感じられ、毎回、楽しみにしています。
さて、告知です。
デジタルハリウッド主催で、「近未来教育フォーラム2024 The Great Transition~ポストAIは来ない~」が開催されます。AIエンジニア・安野貴博氏と人工生命研究者・岡瑞起氏がキーノートで登壇。
11月30日(土)15:00~19:00、御茶ノ水にて完全オフラインです。無料でご参加いただけます。
私も会場に居ますので、見かけたらお気軽にお声がけください。
5.ねこによろしく
さいきん読んだ『速く、ぐりこ! もっと速く!』(早乙女ぐりこ/百万年書房)には大いに感銘を受けた。本を開いて、読み終わるまで一度も閉じなかった。
筆致を追ううちに構成に痺れた。ちょうど半分の地点に日記が挿入される。その後、随筆に戻り、別の高さの解像度で語り直される。この撓みのある折り返しがものすごくかっこいい。全体を通じて三度言及される重大な記憶を視界の端に置きながら、異変を書き留め、描き改め、ぐりこは進んでいく。
あとがきまで入れると全203頁。先に書いた語り直しの撓んだ転換点は102頁。Webの紹介ページの目次には出てこないが、そこから始まる節のタイトルは「速く、もっと速く」だ。なお、この読み物において「あとがき」は付随的な要素ではなく、最後に置かれる核心のようでもある。
シンくんが言わないでいた時間の緊張と、ぐりこの記憶への言及が、紐の両端で引き合っているように感じてしまう。ぐりこの、と書くと小説に対する物言いのようで無礼かもしれないが、何が小説で、そうではないのか、ということはさておき、読み物として僕はこの終盤の繊細さに動揺するほど感動した。
何かを思い出している書き手が、書いている文章の中で掘り当ててしまう記憶、その距離感とリズムを、僕は今後の創作の手本にするだろう。やり残していることがあるように見える余白の微細な存在感に興奮して本を閉じた。たぶん、それを作家性というのだろう。
日記文学の力強さに揺さぶられ、唸っていたところに、第2回小鳥書房文学賞で「日記」をテーマにした受賞作の発表があった。そこに掲載されている千葉雅也さんの講評を読み、書くことについての新たな足がかりを得たのだった。
ところで猫らの暮らしは相変わらずだ。二匹の寝息が暗闇の中で聴こえてくると笑ってしまう。
先に来た白い方のは、実は今は丸刈りになっている。何年もかけてどうにもほどけなくなったフェルト状の毛があるので、いちどリセットすることにした。かわいそうな感じにならないかと心配していたのだが、意外にかわいくて驚いた。写真は、Instagram(こちらも実名でやっています)がまだ追いついていないので、もさもさ時代のものから。初出の写真はまずインスタで、と決めている。ただただ猫の記録を投稿していく、峻厳な運営を心がけています。
後から来た赤い方のは、出がけに目が合うと人中を震わせカカカと音を立てる。単に部屋を出入りしているだけの時にはしないので、服装や振る舞いから僕が本格的に出かけるつもりだと覚るのだろう。ドアの向こうからしきりに鳴いてほとんど悲痛なまでに声を上げて僕を呼ぶのだが、いざ対面すると抱き上げられようともせず去っていき、面倒な少年という感が強まっている。
過去記事のまとめはこちら
今回は以上です。
ねこによろしく。