電子帳簿保存法 ──中小企業の現実的な対応について──
はじめまして。いけだです。
経理を仕事にしてこの春で4年になります。
次々に襲いくる制度改正のおかげで、毎年新たな気持ちで仕事に臨めています。。(死)
今回は、電子帳簿保存法(電帳法)について弊社での対応も踏まえまとめてみました。
1.はじめに
目下、中小企業が直面している経理事務上の課題としては、
①インボイス制度(2023年10月〜)
②改正電子帳簿保存法(2024年1月〜)
③定額減税(2024年6月〜)
が挙げられます。
同時に、総務人事担当の方は2024年問題にも直面しているかもしれません。
インボイス制度同様、悪名高い電子帳簿保存法ですが、2024年1月1日の改正法施行後も制度の周知が図られていないことは非常に懸念されることです。
このnoteは
・検索して出てきたサイトを見ても到底対応できる気がしない。
・国税庁のサイトは見るたびに説明が変わっている気がしてよくわからない。(正解)
・なんでもいいから一番簡単な対応法を教えてくれ。
と言ったご意見に応えるものにしたいと思っております。
2.改正電子帳簿保存法の概要
まず、改正電子帳簿保存法のポイントは3点に分かれます。
(1)電子帳簿等保存
(2)スキャナ保存
(3)電子取引
(1)、(2)は対応するか自由です。
現状困っていなければ強いて対応する必要はありません。
(1)電子帳簿等保存(従来どおりで可)
帳簿に関して、中小企業は会計事務所に丸投げの場合が多いので自社で対応できることはあまりありません。
帳簿書類は、書面で作成した場合も、会計ソフトを用いて作成した場合も、従来どおり紙で保存することが原則となります。(所法148、法法126等)
【余談】
「優良な電子帳簿」の要件を充たして、その届出を行っている場合には、修正申告などの際に納める過少申告加算税が10%→5%になりますが、手間の割には恩恵が少なく、強いて対応する必要性を感じません。
(2)スキャナ保存(従来どおりで可)
書面で受け取った取引書類をスキャナにかけてデータ化した場合、一定要件を充たせば原本の書面は破棄して構わないというものです。
取引数が多い業種の場合には一考の余地があるでしょう。
これについても、従来どおり書面で受領した取引関係書類は書面で保存することが原則となりますから(所法148、法法126等)、強いて対応することはないということになります。
問題は(3)です。
(3)電子取引(要対応)
従来、電子データでやり取りした取引関係書類は紙に印刷して保存すればよく、原本となる電子データを破棄しても構いませんでした。
今後は、電子データでやり取りしたものは電子データのままで保存することが義務付けられます。
これが今回一番の問題です。
ここで注意したいのは「紙に印刷したものを併せて保管」しておくことまで禁止ではありません。
印刷禁止ではなく、電子データ(原本)の適切な保存が重要!と覚えましょう。
次章以降では電子取引に絞って話を進めていきます。
3.電子取引とは
電子取引とは、取引先と電子データで取引情報(注文書、請求書、領収書など)をやり取りする取引のことです。
この際の電子データを「電子取引データ」と呼びます。
(1)取引情報に含まれる範囲
取引情報は書類で言えば次のものが該当すると考えられます。
見積関係 見積依頼書、見積書
注文関係 契約書、注文書、受注書
納品関係 送り状、納品書、検収書
支払関係 請求書、領収書
これに限らず、取引における業務フローで通常やり取りされる書類は全て対象になると考えるべきでしょう。
(2)電子取引の具体例
①Amazonなどネットショップ
Amazonでは請求書も領収書もホームページ上で表示されます。このようなネットショップ(ECサイト)は今やたくさんあります。
②メールにPDF添付
電子メールに請求書、領収書のPDFを添付してやりとりしている場合です。
③クラウドサービス
取引先からクラウドサービスを通じて電子請求書を受け取っている場合です。
④USBやDVDなどの記録媒体
インターネットを通じたやりとりに限らず、USBを手渡し、郵送しても電子取引になります。
⑤ペーパーレスFAX(落とし穴)
ペーパーレスFAXはあくまでFAXだろ?という気持ちになりますが、電子データでやりとりしているのでこれも電子取引になります。
(なお、受信と同時に複合機から出力する場合は電子取引とみなされず、紙保存のみで結構ですが、ペーパーレスFAXにした意味はなくなるでしょう。)
いかがでしょうか。
中小企業でも①、②あたりは思い当たりがあるのではないでしょうか。
次の二章では電子取引にどう対応すべきかを見ます。
4.電子取引への対応(前提編)
電子取引データの保存には3要件があり、国税庁の資料を見ていてもこれにばかり気を取られてしまいますが、実務対応上はもっと大事な前提もあります。
(1)電子取引データの保存形態
①必要に応じて変換して保存しましょう
たとえば、次の保存方法はすべて認められます。
(i)ホームページ上に表示された領収書
・ページをPDF化して保存
・スクリーンショットを撮って保存
(ii)取引先から受領した請求書のPDF
・そのままPDFとして保存
・画像ファイルに変換して保存
単にファイル形式(拡張子)を変えたり、スクリーンショットを撮ったりといった変造のおそれがない変換は問題がありません。
統一したファイル形式で保存するようにすると便宜にかなうでしょう。
②取引情報を識別して保存しましょう
たとえば、メールでやり取りをする場合です。
(i)取引情報がメールにPDF添付されている場合
・PDFだけ保存すれば可
(ii)取引情報がメール本文に記載されている場合
・メール自体をPDF化したり、スクリーンショットを撮るなどして保存
便宜を考えれば、メールでの取引情報のやり取りはPDF添付に限るなど取引先と調整することも必要になってくるでしょう。
(2)電子取引データの集約
電子取引データを経理事務担当者に集約するのが先決です。営業担当と経理担当で電子取引データが分散している場合は一元管理を図りましょう。
集約できていなければ検索性もへったくれもありません。
データ量が少ない場合は電子メールで送ってもらったり、USBなどで授受することで十分だと思いますが、ある程度の量がある場合にはGoogleドライブなどクラウドサービスに各担当者から投げ込んでもらう形での集約が適切といえそうです。
5.電子取引への対応(3要件)
具体的な対応として次の3要件が重要です。
(1)改ざん防止のための措置
(2)ディスプレイ、プリンタの備付け
(3)データの検索性の確保
(1)は真実性の確保、(2)(3)は可読性の確保と国税庁の資料では謳われています。
(1)改ざん防止のための措置
タイムスタンプ付与済みの電子取引データを受け取る場合を除き、次のいずれかの措置を講ずる必要があります。
①タイムスタンプの付与
②訂正削除履歴が残るシステムの利用
③事務処理規程の制定
①タイムスタンプの付与
「タイムスタンプ」は紙ベースでいえば公証人の確定日付が対応します。
その時点でその書類が存在したこと、後日改ざんされていないことを証明できる理想的な手段です。
ただ、概ね7営業日以内、最長でも2ヶ月以内にタイムスタンプを付与することが求められ、従来の業務フローの見直しを迫られる可能性があります。
また、タイムスタンプは一般的には有料のサービスですので一定の費用を要します。
②訂正削除履歴が残るシステムの利用
単に電子データを訂正削除履歴が残るシステムに保存すればいいというわけではなく、「データの授受」「データの保存」の両方をシステム内で行う必要があります。(国税庁一問一答 問39)
つまり、メールで受け取った電子取引データをvalut機能付きのGoogleドライブで保存したとしても、データの授受はシステム外のため、要件を充たしていないことになります。こうなると他の措置を併用するしかなく、現実的な方法とはいえません。
また、データをシステム外に持ち出せば要件を充たさなくなるため、実質的にシステムの乗換えができないという問題もあります。
③事務処理規程の制定(おすすめ)
事務処理規程を制定し遵守することも改ざん防止のための措置となります。
柔軟に自社の都合に合わせることができ、あらゆる事態をカバーできるので、これだけでも十分ですし、タイムスタンプを導入している場合の併用としてもおすすめできます。
(i)まず、事務処理の責任系統が不明確な会社では責任系統を取り決め、責任系統が既に整っている会社では責任系統を確認します。
(ii)その上で、電子取引データの訂正削除の際には責任者の承認を受け、削除訂正履歴を記録することを定めます。
書式は国税庁からも出ていますが、弥生のものが文章がこなれており、自社向けに書き換えやすいと思われます。
参考URL: 弥生株式会社
https://www.yayoi-kk.co.jp/lawinfo/denshichobo/d_file/jimushorikitei_hojin.docx
(2)ディスプレイ、プリンタの備付け
経理事務担当者のパソコン、プリンタで十分です。
念のため、操作説明書などを備え付けておくと税務調査の際に戸惑いません。
(3)データの検索性の確保
電子取引データを検索して見つけ出せるよう、次のいずれかの措置を講ずる必要があります。
①ファイル名の工夫
②索引簿の備付け
③検索性の確保が緩和される場合の措置
①ファイル名の工夫(おすすめ)
ファイル名を「日付、取引先、金額」を組み合わせたものにし、ファイル名から検索できるようにする方法です。
例えば「20240117_○○工業_500000」とします。
ファイルを書類の種別ごと(注文書、請求書、領収書など)のフォルダに分けるか、一括管理の場合はファイル名に書類の種別も盛り込むと利便性が上がるでしょう。
②索引簿の備付け
Excelのテーブル機能を使うなどして「日付、取引先、金額」で検索可能な索引簿を作成する方法です。
ただし、従来の業務フローにないものを増やしてしまうと業務が煩雑になってしまうおそれもあります。
③検索性の確保が緩和される場合の措置
次のいずれかの場合には検索性の確保について緩和されます。
(i)前々期の売上高が5000万円以下
(ii)電子取引データを印刷して、取引先、日付ごとに整然と保存している
この場合、税務職員の求めに応じて電子取引データを提供できれば結構です。
(ただし、求めに応じて提供できるためには、電子取引データを特定のフォルダに保存しておくことが必要でしょう。)
現実的にはデータの量が多ければ、必然的に検索機能が求められると思いますので、③についてはデータの数が少ない会社向けとなります。
6.猶予措置
システムの準備が間に合わない、資金や人材の不足などの理由で、前章に書いた措置を取ることができない中小企業もあるでしょう。
この場合、次の措置を講じてください。
①電子取引データを印刷して、取引先、日付ごとに整然と保存する
②税務職員の求めに応じて電子取引データを提供できるようにする
猶予措置について特段期限は設けられていませんが、相当の理由がなければ猶予措置の適用は認められません。なるべく早く原則対応ができるよう心がけたいところです。
ところで、
この猶予措置を原則対応と比較してみると…
(1)「改ざん防止措置」 ×
(2)「ディスプレイ等の備付け」 ×
(3)「検索性の確保」 ③(ii)と同一内容→○
となりますので、追加で(1)(2)を充たせば原則対応に昇格させることができます。
とりあえず猶予措置で対応するが、原則対応も視野に入れている事業者の方は、あと(1)(2)を充たせばいいんだ!と覚えていただければと思います。
7.最後に
駆け足で説明しましたが、いかがだったでしょうか。
電帳法、まずは自社がすぐにできる対応から始め、あとからより良いシステムに置き換えていくのも賢い選択だと思います。
分からないからやらないではなく、今できる手をしっかり打っておきましょう。
参考URL: 国税庁
https://www.nta.go.jp/law/joho-zeikaishaku/sonota/jirei/tokusetsu/pdf/0023006-085_01.pdf
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