【短編小説】世界の人口
友達である誠くんの家に行った。
誠くんは結構お金持ちで、家も周りに比べるとかなり大きい。
ゲームと宿題をするという口実をこじつけ初めて行った誠くんの部屋は、本当に僕と同じ年齢である人の部屋とは思えなかった。
部屋の中へランドセルを投げ捨てた誠くんの背中から覗き込むと、目に飛び込むのは重厚感のある机、そしてその上に乗っている球体。
広めの部屋の中でひときわ目を引くのがそれだ。
僕はやけに気になって、誠くんに尋ねる。
「ねえ、この……オブジェ? 見ていい?」
「いいよ。あ、でもあんま触んないようにね」
「わかった」
おそるおそる近づいて、ぐっと顔を寄せた。
実物は見たことがないけれど大体水晶玉くらいの大きさで、青や黄色の光を激しく明滅させている。
決して目にうるさくはなく、ずっと眺めていられそうだった。
「これなに?」
僕の後ろから着いてきた誠くんは、オブジェが飾ってある棚の板に優しく指先を滑らせて言う。
「これは、世界の人口が現れてるんだ」
「人口?」
「そう。日本に人は一億二千万人くらいいるだろ? それの世界バージョン。青く光ると人が死んでいて、黄色く光ると人が産まれてるってことを教えてくれるんだ」
そう僕たちが会話している間にも、オブジェは明滅を止めない。
産まれたり死んだりを教えてくれていると思うと、たしかに青色は光源に収束する様に光っているし、黄色は小さく爆発した様に光っている。
よく見てみると、光った場所が地球儀の様に見えなくもない。
では、これに人口を表していると言うのなら、随分と大切なものなのではないか。
見てくれもさほど頑丈そうではない、むしろもろそうな作りをしていそうだ。
「これってさ、壊れちゃったらどうなるの? 分からなくなるだけ?」
質問を投げかけながら誠くんの方を見る。
誠くんはそのオブジェをボールを握るように持ち、見たことのないような薄笑いを浮かべた。
「実は人口が反映されてるんじゃないんだ。これが”創り出してる”」
ぞわ、と背筋が凍る。
青と黄色に照らされた誠くんの顔からは、何の感情も読み取れなかった。
「これを壊したら、この世界ごと消える。これはこの世界の【核】なんだよ」
言い終わった誠くんは、オブジェを台座にやや力強く置いた。
がつん、と音を立ててオブジェは台座に収まる。
ぐんと僅かに重量が軽くなった様な、変な感覚がした。
ぶつかった場所、南半球の大陸からは、
青の光が溢れていた。
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