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イタリアでLINEが広まらない理由 その②

前回、LINEがイタリア進出をしたが、そこまで広まらなかった様子を綴った。その大きな理由に、競合他社の存在がある。LINEより前に、浸透したので、大半が今更乗り換える必要はないと感じているのだろう。


WhatsApp が好まれる理由5つ 


イタリアの生活において欠かせないメッセージアプリは「WhatsApp」だ。
2009年にアメリカで始まり、2021年の時点で世界でのユーザーはなんと20億人とダントツのアプリ。世界ランキングでは、1位 インドの4億人の筆頭に、ブラジル 1億8千人、アメリカ、インドネシア、ロシア、メキシコ、ドイツ、イタリア3550万人、スペイン、イギリスがTOP 10にランクイン。
年齢は、若者を中心にシェアを広げ、年齢が上がっていくごとに下がるが、低いわけではない。

老若男女問わず支持されている理由を探っていこう。

一、  連携と転送

2014年には、Facebook の傘下となり、 Meta の運営。だから、Instagram とも連携。この繋がりが重宝されている。

WhatsApp に、電話番号を登録すれば、その人の顔や名前が表示される(本人が登録していれば)。どんな人か、知り合いかどうか、気になる人の番号を検索することができる。また、電話帳と同期づければ、誰がWhatsApp利用者かすぐに分かる。

あまりの独占ぶりに、政府はメスを入れ、法律によりWhatsApp 内の会話を、他社のアプリに転送できるように指示した。送られてきた文章や写真などを、LINEやMessenger に転送できる。これはありがたい。だが、その逆はできない。LINEはLINE内での転送のみ。ここに不便を感じる時がある。


二、  商売にも使われる

今や WhatsApp は、個人のものだけではない。2018年に商用のプラットフォームを導入し、大規模な人数にも対応した。今は、企業アカウントも一般的で、レストランや商店の注文や会社の問い合わせにも利用されている。さらには、ラジオやテレビのメッセージ投稿でも電話番号を伝え、どんどん送ってください!と募集をかけることも主流になっている。

メッセージアプリは、メールほど形式にこだわった文章を打つ必要はなく、知り合いのように、ラフに会話を始められる。ある新聞記事には、「最小限の労力で行動できる」という説明があったが、本当にその通りだ。

三、  音声メッセージ

イタリア人はテキストメッセージと同じくらい「音声メッセージを送る」。文字を打つより、声をそのまま届ける方が手っ取り早いと感じる人も多い。文字だけでは伝わりにくい気持ちを、声で伝える方が的確だ。

これはイタリア語の特徴だが、彼らは「言葉に感情を乗せるのが上手い」。だから街を歩いていてもみんなが役者に見える。インタビューをしても、流暢に意見を述べる人が多い。この背景に、誰もが自己表現をしながら育ったという環境も大きいだろう。

マイクやカメラを前にして硬直するのは、日本人のよくある光景。かつて働いたラジオでも、用意した文章を機会的に読むゲストの行為が好きではなかった。カメラの前でうまく笑えない私が言うのもどうだと思うが…

今となっては、どのアプリでも音声メッセージを送れる。LINEもMessenger も録音した音声を再度聴けるように「保留」し、問題ないなければ送信という流れ。一方、WhatsApp は、すぐに録音して送信できる。業界用語で「撮って出し」状態。だから、間違えてもそのまま送ることになる。でもイタリア人は、そんな失敗をものともせず、リカバーする力があるから、全く気にならない。

さらに、長く話す彼らは、録音ボタンを押しているつもりが指が外れていたり、途中でメッセージが来て途切れたり、録音できてなかったりする。そんな人たちの声を受けて、録音ボタンを押して上にスライドすると、南京錠がかかり「録音ロック」する機能ができた。そこまでして音声を撮りたいらしい。本当に、よく喋る人たちだ。


四、  スタンプは最小限で

LINEの最大の魅力である「スタンプ」は、イタリア人にとってそこまで重要ではないらしい。WhatsApp上で、イタリア人との会話で送られてきたことはほぼない。
ちなみに、夫に日本人の友だちとのLINEでの内容を見せた。絵文字やスタンプの多い会話を、子どもっぽく幼稚に感じるかと尋ねると、「そんなことないょ!文化が違うんだね」と。優しい。

しかし最近になって、スタンプが登場した。それも、Messengerと同じデザインも多いから、どっちで送ったのか分からなくなる。だが、そこまで重要なことでもないだろう。

彼らは前述の通り、文字や言葉に感情を入れ込むのがうまい。発言しないと、何も思っていないと思われるように、今の状況を表現する力を養ってきたと言える。だから、絵文字やスタンプを使う必要がないのだろう。


短大時代、英語の授業でアメリカ人の先生に、「なぜそう思ったの?」と質問されても、皆揃って「なんとなく」と答えるのが常だった。それを英語で説明せよと言われても、伝え方を知らない私たちは、「勘」や「一か八か」でという、根拠のない回答をしてきた。先生もこんな学生たちにお手上げだっただろう。

その一人だった私は、イタリアで生きていく術として、今では想いを言葉にするよう努力している。感情がないと思われないように、意志を持つ訓練の真っ最中だ。日本人にとって、「言い訳するな」と言われそうなことも、自分を守るために武器として必要になる。


さて、話を本題へ戻そう。

五、  デコレーションメッセージの存在

そして、イタリアでLINEが流行らない理由の一つに、「デコレーションメッセージ」がある。こんな言葉が存在するかどうかは知らないが、装飾された写真やGIFや短い動画を送る文化だ。

例えばこのようなもの。

「おはよう 良い水曜日を」

イタリアでは、特に年配者を中心に、毎朝このような画像を送り合っている。文字を打つことなく「元気?私も元気!」「あなたのことを想ってるょ」という気持ちを送っている。これは、生存確認とも言える。返信がなければ、何かあったことがすぐに分かる。

年配者だけでなく、全世代による送受信が行われる日がある。
パスクア(イースター)、復活祭、クリスマス、新年、国際女性デー、誕生日など、加工された画像の送り合い合戦が繰り広げられる。
誰かが加工したデコレーションメッセージは、著作権なんて考えられていない。ネットから取ってきたものを送ることも珍しくない。このあたりは、イタリアの権利への関心度にも近いかもしれない。さすがに Instagram では、明らかに他人の写真を載せている人を見なくなった。そこに悪気を感じていないから、ある程度上の世代の感覚とも言える。


義理の母は80代。彼女は、スマホもタブレットも使いこなす順応力がある。もちろん、WhatsApp ユーザーで、毎日誰かとメッセージはもちろん、通話もしている。彼女の写真フォルダはこの画像で溢れている。データが一杯になるから、保存しないように言いたいが、そこからさらに友だちへ転送するから、ストックが必要になるとか。
毎日、何十人もの人に「おはよう」「良い一日を」「素敵な週末を!」送っている。これは一種の朝活だ。さらに寝る前にも「おやすみ」「いい夢みてね」もあるから、家族以上の密な関係かもしれない。
やはり高齢とあって、スマホの使い方に苦戦することもある。自ら飛行機モードにしたり、Wi-Fiを消したりしているのだが、そこには気づかないらしい。そんな時は「助けて〜」とやってくる。これだけ友だちと親密なやりとりをしているから、一日の欠席なんてあり得ないのだろう。どの世代においても、ネット環境の不具合はストレスになるようだ。それでも60代の私の母よりは十分活用している。



今後の展開

LINE のスタンプや絵文字によって、個性や華やかを演出する楽しみより、簡単で使いやすい機能の方が、イタリアの万人に支持される理由かもしれない。もちろん、ユーザー数が圧倒的に多いということもある。

ここに立ち向かったLINE は勇敢だ。これから、アニメや漫画といった、世界から注目される日本の特徴を利用し、顧客獲得をしてほしい。このままWhatsApp の独占で行くのか、待ったをかけるのか楽しみで仕方がない。


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