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スタートアップCEOの壁打ち相手への道―2000年NYダブルクリック本社の出来事

若い世代との対話を通じて多くのことを学びました。彼らの無限の可能性に触れることで、自分も好奇心を失わず、成長し続ける楽しさを強く感じています。スタートアップの生存競争は厳しく挑戦の連続ですが、その中で得られる喜びや分かち合える「何か」は言葉では表現しきれません。「ボクがスタートアップから学んだこと」シリーズを書くに至った「ゼロイチを生み出す背景」を書き残しておきたいと思います。

池松潤/Jun Ikematsu
コミュニケーションデザイン/事業計画/エクイティストーリー/エンタープライズ営業コンテンツ/マーケティングなど。慶応義塾大学卒/大手広告代理店を経てスタートアップの若手と世代間常識を埋める現役57歳。ときどき婦人公論に雑誌コラムなど。 ⇒ https://lit.link/junikematsu


2000年それはNYのダブルクリックからはじまった

前回のnoteで1995年のネットビジネスを書きました。それから5年後。僕たちは、それなりに社内のポジションを築き、それなりに社内で発言力を持つようになりました。

そして僕たちは、2000年1月に、NY(ニューヨーク)にいました。当時その周辺はシリコンアレーと呼ばれていて、5番街沿いブロードウェイあたりから23丁目に建つフラットアイアンビルあたりのミッドタウンをさしていました。今ではもっと広いですけどね。まだ狭かった。西海岸・カリフォルニアを中心に広がるシリコンバレーに対抗して、スタートアップが集まっていることを表して派生した造語でした。


ダブルクリック本社訪問

ダブルクリックとは、世界最大のアドネットワーク技術を提供していました。紆余曲折あって現在はGoogle傘下で、広告配信ツールとインフラを提供している会社になっています。

ダブルクリックは、2つの偉業があります。1つ目はウェブサイトの広告枠を束ねたアドネットワークを作ったこと。それは、広告主を集めて、広告表示を管理するアドサーバーから世界中のWEB閲覧者に向けてバナー広告を配信していました。2つ目は、その広告配信技術を確立したことです。

広告に「在庫」という概念を確立したのはダブルクリックでした。当時、ダントツの売上と時価総額を誇っていました。いつの時代もテックは、お金の扱いが上手いのとセットだと思います。

本社は体育館をリノベーションしたオフィスで入口にハーレダビッドソンが飾ってあったのを覚えています。

中に入ってオフィスを案内されていくと、縦型のサーバーが1,000台以上並んでいてチカチカと小さな光を放っていました。

「ココで、いつ、どこに、どんなバナー広告を、どんな頻度で出すか。市場のセリが瞬時に決まっている。それから動画広告のADサーバーも開発しています」

NY本社の日本担当が淡々と説明を続けていましたが、僕たちは、ただ呆然とDECのサーバーを眺めているだけでした。

「コレかぁ・・・・」

皆んなそこでは口には出さなかったけど「これは広告取引のオープン化」であり「プラットフォームが進化している最先端の現場」だと思いました。脳でなく身体で理解したのです。

「まるで電子化された証券取引市場みたいな感じだな」
「コレが、これからの広告ビジネスなんだ」と。



広告取引モデルの大転換が始まった

ホテルに帰って僕たちは深くため息をつきました。

A:「動画もやるって言ってたけど、CMも格納されちゃうのかな」
B:「いや、すぐには無理だろう」
C:「常態化するのは10年後の2010年くらいかな」
D:「旧来の広告会社のやってるCM取引は、魚のフグのセリみたいなもので、黒い袋で外には見えないように手を握ってやってるようなものじゃん」
E:「今から作っても無理だな。規模が違いすぎる」

これは、今まで電通がボトルネックを押さえていました。その「メディアの取扱量と番組枠利権」がパラダイムシフトしていくことです。これからは「プラットフォーマー」の時代なのだとわかったのです。これは今の時代では当たり前のことですが、四半世紀前にはどれほど衝撃だったかご理解頂けるでしょうか。ゲームチェンジを肌で感じた僕たちは、この難題にどう対処すべきか、帰国後も話し合いは続きました。


I-modeの急発展と、ガラパゴス化へ

その頃の日本は、ドコモが初めてインターネット接続したケータイ電話「I-mode」が急速に普及しはじめた頃。それは世界に普及することなく、数年後にはやがて「ガラパゴス」と揶揄されるようになりました。

この「ガラパゴス」とは外部とは隔離されて独自に進化を遂げてきたといわれてた「ガラパゴス諸島」のことです。やがてI-modeも同様になっていくのでした。例えば、テレビのワンセグやお財布ケータイ、絵文字も日本だけの機能だったからです。頑張っても世界には普及しませんでした。そしてiphoneが世界標準のポジションをかっさらっていったのです。

もちろんADサーバーもダブルクリックの独断場でした。一時は博報堂も上場するならその資金をバネにダブルクリックやGoogleを思い切って買ってしまった方がイイのではという話しもしましたが、その意見に真面目に取り合う役員などいませんでした。その他にもいくつもの挑戦をしましたが、愚痴のようにnoteに書くものではないので割愛したいと思います。

「やっぱり日本は極東の小さな島国で、世界は遠いのかもなぁ」

しかしその後、ダブルクリックがアナログの住所録データを取り込もうとしたことをきっかけに、プライバシー侵害の一大訴訟キャンペーンで急落していくとは誰も予想していませんでした。

ましてやその数カ月後に、ネットバブルが崩壊してしまうことも想像してませんでした。世界が激動していくなか、僕たちは「江戸時代のお侍さん」のように「躍動する世界」を呆然と眺めていただけだったのかもしれません。

「何を話しても無駄」

やがて社内でネットビジネスを語ることも少なくなっていきました。その状況は「出る杭は打たれる」ようなもので「年長者から若い世代への戒め」のように思えたのです。そして「突き抜けることは、城の外に出ること」だと解って会社を出ていくものが増えていったのです。やがて僕自身もそうなるとはこの頃は思いもしませんでした。このことも書くと長くなるので別の機会にしたいと思います。

ホリエモンのライブドア事件は2005年。「出る杭は打たれる」そして「この国ではやり過ぎてはいけない」というのを、当時の若い世代が学んだのは確かだと思います。

NY出張に行ったメンバーもやがて散り散りになって、それぞれの現場業務に戻っていきました。転職や副業など一般的ではなかった時代です。言葉にこそしませんでしたが、大きな会社の中心でイノベーションを興すことがどれほど大変かを理解したのだと思います。

「無念だなぁ」

メンバーの殆どはやがて会社を去っていくのですが、皆んなでこの想いを忘れないようにしようと話したのを覚えています。

いまの日本は、多様性に溢れた世界だと思いますが、DXとか生成AIの時代になっても、JTC(Japanese Traditional Company/日本の古典的な大企業)には、依然としてこの空気が流れているのではないでしょうか。

しかし「しなやかに」抵抗勢力をかわしていく若い世代が増えてきたことも事実です。多くのスタートアップが上場して未来を築いています。若い世代がこれからも新しい時代を創っていくでしょう。未来は若者のためにあるのですから。

半世紀生きていると「なにかに夢中になれる」ことがどれほど楽しくて大事なのか分かります。漢字で「夢中」とは「夢の中に生きている」と書くのです。好奇心を失わず「夢中を応援したい」と思います。あともう少し「スタートアップCEOの壁打ち相手」をすることで、少しでも役立てれば嬉しいです。

このコラムは、2000年を懐かしんだり、悔いたりするのではありません。「イノベーションの構造を近世史から学ぶ」備忘録として書きました。


2000年の事件・ニュース

20世紀最後の年で、「ミレニアム」と呼称された。SMAPの香取慎吾が扮する慎吾ママの「おっはー」、「IT革命」が新語・流行語大賞の年間大賞を受賞した。また、警察不祥事・食品事故・医療ミスの多発と隠蔽など、社会信用失墜の年であった。児童虐待・少年犯罪が深刻化。日本初のストーカー行為を規制するためのストーカー規制法が施行された。

1月:コンピュータの2000年問題が注目されたが大きな問題は起こらず無事年越しを迎えた
2月: 大阪府知事選で太田房江が当選。日本初の女性都道府県知事が誕生
3月:「PlayStation 2」発売。発売後3日間で約98万台を販売
4月:小渕首相、脳梗塞で緊急入院。その後5月14日に死去。
5月:西鉄バスジャック事件、ストーカー規制法公布
7月:金融庁が発足。
9月: 営団地下鉄南北線目黒駅 〜溜池山王駅、都営地下鉄三田線目黒駅 〜三田駅が全線開業。目黒駅から東急目黒線へ直通。
10月: 第二電電・KDD・日本移動通信が合併してKDDIが発足。日本初のネット専業銀行ジャパンネット銀行が発足。
12月:BSデジタル放送開始。都営地下鉄大江戸線が全線開通。世田谷一家殺害事件。インターネット博覧会(通称・インパク)開幕。

※3月31日の有珠山噴火、7月8日の三宅島噴火、9月4日の駒ヶ岳(北海道)の噴火と火山噴火が相次いだ。

ではまたnoteでお会いしましょう。



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