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恋は風が強くなって冬の匂いがした #金曜トワイライト

先の見えない頃、何もない頃の恋。それは純粋だったのでしょうか。

一つだけハッキリしているのは、繋がることが難しかった時代の方が『嘘』が少なかった気がします。繋がる事が難しいからこそ「嘘」をつきたくない。みんなの本能がそうさせたのでしょうか。いまよりも「嘘」をつく事が罪深く感じた時代だったのかもしれません。スマホもネットも無い頃の恋。SNSネイティブ世代には想像もつかないでしょう。

先なんて見えなくて、すべてが透きとおって心細かった。甘美なのは過去なのでしょうか、それとも失われた「何か」なのでしょうか。平日と休日の境い目から愛をこめて。


#金曜トワイライト

「PETER CINCOTTI:ピーター・シンコッティ」ニューヨーク生まれ・育ち、4歳でピアノ演奏、9歳で曲作りを開始、ハイスクールの頃からマンハッタンのジャズ・クラブに出演し、17歳のときにはモントルー・ジャズ・フェスティヴァルに招かれる。19歳で制作されたデビュー・アルバム『ピーター・シンコッティ』は全米トラディショナル・ジャズ・チャートで1位を獲得(歴代最年少記録)名プロデューサー、デヴィッド・フォスターも絶賛。才能とは彼の事を云うのだと思う。この曲は、甘く切ない都会の恋の香りがします。ご一緒にどうぞ。

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僕たちは窓際のテーブルで向かいあっていた。彼女はルーズリーフを出して広げました。

『ここに手をのせてみて』
『うん。。』

B罫の用紙に手を置くと、彼女は指の輪郭に沿ってシャープペンシルでなぞった。手首までまわると紙には手の形が描かれます。彼女は紅茶。僕はコーヒー。ただお茶をしているだけで幸せでした。

『こんなにちがうんだね』

彼女は描かれた手に合わせて、自分の手を合わせると嬉しそうでした。その顔をみて、僕も幸せな気分に包まれました。

あの頃の自由が丘は、ちょっと古びた商店街と、住宅地に隣接したカフェが入り混じった、まだ開発されていない町でした。

魚菜学園という料理専門学校が唯一のデカいビルで、昭和の面影が濃い小さな町。そしてまだ神社の向かい側に小さな映画館がありました。目的もなくブラブラして歩く。彼女の小指と薬指を握りしめました。

『映画でも見ようか』

手を引いた。初めて彼女と手を握った。少しだけ心臓が早くなる。彼女はうつむきながら頷いたように見えました。


・・・・・

雑誌『ぴあ』には学園祭カレンダーが載っている季節の頃。休み時間に、CanCamとかFineをひらいては『イッセーのせ!』で、1番可愛いと思う子を指差して遊んでました。

僕はバスケ部だったけど、メンバーはあまりイケてなかったので、アメフトやサッカー部の連中とばかり遊んでました。学園祭に行くと当時の流行は『フィーリング・カップル 5対5』でした。

男女が5名ずつテーブルに向き合って座り、いくつか質問をして、気に入った相手の番号を札で示すってやつ。外すと少し恥ずかしいけど、当たっても超恥ずかしかった。あの頃には「気恥ずかしさ」がまだ残っていました。

僕が5番で、彼女は1番の席に座っていました。「男子5人+女子5人」の中で僕たちだけが結びつきました。取り立てて『華』があるわけではないけど、セミロングに色白で透きとおった鼻筋の子でした。

「おめでとうございまーす!ではお2人は記念撮影しまーす!」でお開きになった。仲間はゾロゾロと教室の外に出て行ってしまう。彼女と僕だけがその場に残されて、気まずい空気だけが残ります。そして僕たちは電話番号を交換しました。

『僕のはコレ。。よかったら。。電話番号教えてくれる?』
「あ。。名前なんだっけ?』

気まずさが増して教室を出た。校舎の外に出ると、友達からはやしたてられる。あの頃、違う学校の子との出会いは大冒険だったような気がします。電話番号はもらったけど、そのあと電話するのは気が重かったものです。


あの頃、すべてが透きとおってたのに、先は見えなくて心細かった。僕は手を広げて彼女を抱きしめて、キスをした。はじめてのくちづけは、風が強くなってきて冬の匂いがしました。

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空を見上げると、まあるい月が僕たちを見つめていた。ただ愛おしくて、じんわりとしました。濁流にのまれる流転の人生がはじまる前のこと。激しさが増す人生のすき間にあった「なぎ」の時期。

あれよあれよと波間に消える泡のように時は過ぎてしまいました。いまとなっては思い出しても意味の無いことだけど、あの時ほど透きとおった恋はなかった。だからって、どうしようもないのだけど。あの風の冬の匂いは忘れない。あの時期、あの場所で、あなたと一緒にいた事も。


#金曜トワイライト

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7月から書き始めた12本目の金曜トワイライト。来週が9月最後の金曜日で一区切りになります。その先はどうするのか?まだ何も決めていません。

これまで、考察視点の文章ばかりnoteに書いてきましたが、主観視点の文章を書くきっかけを与えてくれた嶋津さんに感謝です。▼


考察脳から、恋愛脳への転換は苦しいものですが、楽しくもあり、切なくもあります。それは翌週の月曜日には確実に、考察脳へ転換せざるを得ないからでしょうか。それとも考察脳に戻す時ほど後ろ髪が引かれるからでしょうか。

ずっと恋愛脳で生きていければどれほどいいでしょう。文学賞に出して受賞して時代の風に乗ればそれも正夢になるのでしょうか。「スキなことをして生きてゆく」には何かが足りないのではなくて、何かを捨てることなのだと思います。

枯れゆく季節になりましたが、「素敵な平日と休日の境い目」をお過ごしください。では、また金曜日にお会いしましょう。


#金曜トワイライト

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