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認知症の母と沖縄移住 08 下見・グループホーム

せっかくなのでグループホームも下見しておくことにしました。

入居者がそれぞれ個室で寝起きし、昼間は共用のリビングで一緒にレクリエーションや会話を楽しみ、体の機能が残っている人たちは調理や掃除を手伝って、共同生活を送る施設です。

母はこれまで都内で2軒のグループホームを経験し、特に2軒目のグループホームとは相性も良く、ほかの入居者とも円満に共同生活を楽しんでいます。

できれば沖縄でもグループホームで共同生活を……とは思っているのですが、移住先でグループホームに入居するには、大きな関門があります。

グループホームは、地域の居住者のためのサービスです。原則は、その市区町村に三か月以上、住み続ける、もっというと、その市区町村で三か月以上、介護保険サービスを利用した実績がないと入居できないことになっています。

神戸で独り暮らしをしている母を、私たち夫婦が住んでいる東京の下町にあるグループホームに呼び寄せる時も、この三か月の壁が立ちはだかりました。

グループホームの責任者に何人か話を聞きにいきましたが、皆、台本でも読むかのようにこう答えました。

まずは私たちの自宅に呼び寄せて、同居で介護をしながら、デイサービスを利用するか、あるいは近所の有料老人ホームに入居させるかして、三か月の介護保険サービスの利用実績を作ってから、グループホームへの申し込みが可能になると。

しかし、あらゆる原則には例外があります。地域住民限定のサービスであっても、区長が特別に必要と認めた場合には、特例として、他の市町村からの越境入居が認められるというのです。

この時も、特例措置を利用して、越境入居を果たすことができました。母がどうしても越境入居せざるを得ない理由……介護をするのが一人息子である私と妻しかいないこと、神戸でグループホームに入居するよりも、私の住む下町のグループホームに入居した方が、緊急時に家族がすぐに駆け付けられることなどを書き記し、区長あてに特例申請書を提出したのです。

沖縄でも同じように特例申請によって、越境入居を果たすことができるのか。可能性を知りたくて、入居予定のマンションがある市役所を尋ねていったのですが、市の福祉課の担当者は口を濁して、答えてはくれませんでした。

特例はあっても、できるだけ伏せておきたい。それが、行政官としての模範的回答なのだろうなと思い、あっさりと引き下がることにしました。

もし、ここで強気に出ると、あとで行政の助けが本当に必要になったときに、報復されて助けてくれない恐れもあるからです。

それに市内のグループホームはどれも満床で、入居待ちの予約リストができており、越境を受け入れる余裕はなさそうでした。

不思議なことに沖縄のグループホームはどれも定員が9人のみ。グループホームの定員は、1フロア(一つの階)につき9人で、最大で2フロア18人までとなっており、都内ではだいたい、どこも18人になっていました。

どうしてグループホームが不足しているのに、最大の2フロア18人ではなく、その半分の1フロア9人になっているのですか?

そんな疑問をぶつけてみましたが、市役所の担当者は同僚と顔を見合わせて、目を丸くしています。

えっ、東京では1フロア9人じゃないんですか? ということは、定員上限まで? へえー。

逆に東京のシステムの方が珍しく映るようでした。

結局、定員を半分の1フロア9人に抑えている理由はわかりませんでしたが、グループホームの定員数の少なさと、入居待ちのリストを考えると、特例措置を使って越境入居をするのは難しそうです。

元々、地元のご長寿たちが受けるべきサービスなので、その列に割り込もうという意図はなく、もし、仮に地元のご長寿たちに需要を満たし、そこに少しばかりの空きがあれば、入れていただききたい。

いわば駄目で元々という気持ちで問い合わせてみただけなので、今回はほぼ断念することにしました。が、東京とは少し運営方法が異なるようなので、是非、様子を知りたいと思い、直接、グループホームの責任者に連絡を取って話を聞いてみました。

訪問したのは、病院に併設されているグループホームです。母が東京の下町で入居しているのも、病院と併設の施設で、少しでも体調に異変があると迅速に対応してもらえる点が気に入っていました。以来、グループホームを探すなら、まずは病院と併設型のところをと考えるようになったのです。

コロナ騒動の影響で、施設の中に入ることはできませんでしたので、施設外の共用スペースで話を伺いました。

ホームと併設されている病院には入院病棟と入院患者用の給食室があり、そこでホーム入居者のための食事も一緒に作っていました。医療機関との連携がスムーズなだけでなく、栄養管理の面でも、安心して任せられそうです。

レクリエーションに加えて、天気の良い日には、テラスに出て日光浴を楽しんでもらっているというのも魅力的でした。私の母は極度の冷え症で、机の前に座ったら、その場にへばりついて地蔵にように動かなくなり、どんどん手足の体温が下がっていきます。足首の冷たさは、本物の地蔵顔負けです。

温暖というか、高温多湿で、風の多い沖縄で日光浴――。冷え症の母にとっては願ってもないサービスです。

それだけではありません。私が、都内の下町のグループホームで週1回、三線を弾き、母を含む入居者全員と一緒に童謡や唱歌を合唱しており、沖縄の施設に呼び寄せた後も、弾き語りと合唱を継続したいと告げると、家族によるそうしたボランティア活動は大歓迎とのことでした。

施設内立ち入り禁止ということで、職員さんたちの動きを見ることはできませんでしたが、環境だけを見ると、かなり理想的な施設に映りました。

費用は9万8500円。内訳は家賃が5万4000円、食材費が3万900円、水道光熱費が1万500円、リネン費が3100円。

それとは別に介護保険の1割負担分が3万8000円。

合計すると、13万6500円。

現在、お世話になっているグループホームに比べると、4万円近くもお安くなっていました。

もちろん、事前に市役所で聞いていた通り、ここのグループホームも5人待ちの状態でした。

市には、特例を利用して越境入居をする制度はありますか?

グループホームの責任者の方に尋ねてみると、あるにはあるけれども、地元のご長寿が5人も待っている状況では、特例が認められる可能性は低いのではとのことでした。

ごもっともです。

最後にもう一つ、疑問をぶつけてみました。沖縄ではグループホームがどこも満床で、入居待ちの列ができているのに、どうして法定定員の半分である1フロア9人に留まっているのでしょうか? 沖縄には低層住宅が多いので、2階分のスペースを確保できないのでしょうか?

グループホームの責任者の方の答えはこうでした。

2フロア分18人に倍増すると、24時間3交代で回している介護士の数も大幅に増やさなくてはいけない。でも、介護の担い手不足で、そこまでの人材を確保できない。。。

なるほど、人材確保の問題かあ。難しいなあ。

いずれにしても、市役所の間接情報だけでなく、グループホームの現場で直接、話を聞くことができて、気持ちがすっきりとしました。

都外から東京に越境入居するケースとは異なり、県内から沖縄のグループホームへは、特例措置を使って越境入居することはかなり難しい。

内地の人間が、認知症の親と一緒に沖縄に移住するためには、移住先の近所で有料老人ホームを見つけるのが、最も現実的のようです。

このことが理解できただけでも、大きな前進です。

あとは、実際に移住した後に近所の有料老人ホームで環境の良さそうなところを片っ端からローラーをかけ、環境が良くて、スタッフの能力も高く、かつ空きが出ているところを探し当てるだけです。

区役所からは、有料老人ホームの無料紹介センターの連絡先も案内してもらいましたが、実際に電話をかけて、すぐに期待薄だと気がつきました。

病院を併設しているか、病院がすぐ近くにあり……とこちらの希望条件を伝えようとしたところ、即座に電話口に鼻笑いが響きました。

ふふっ、条件をつけていくと、どんどん見つけにくくなるので……。

要は、高齢者や家族の希望を聞いている余裕はない、紹介センターが選んだところを有り難く受け入れろということのようです。

こういう紹介所、あるいは地域包括支援センターとはこれまでにも何度か折衝したことがあり、痛い目を見たことがあります。

彼らは、施設の介護の質や、利用者との相性はそっちのけで、自分たちと利害関係の深い事業所を勧めてくるケースが多く、利用者やその家族にとっては頼りにならないどころか、混乱の火種をまき散らす、やっかいな存在です。

結局、最後に頼りになるのは、自分自身の目で確認し、足で稼いだ情報――。

彼らとのやり取りを通じて、そんなことも学びました。

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