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YouTuberは終わったのか?

はじめに

炎上するYouTuber

 YouTuberは、2023年も引き続き良くも悪くも世間の注目を集めました。
 地上波ドラマ出演などポジティブなニュースもあった一方で「炎上」も多く、これまでスキャンダルとは遠かった人気グループ「東海オンエア」にもとうとう「お家騒動」が発生しました。

 こうした最近のYouTuberの「炎上」は単なる「有名税」というだけではありません。背景にもう少し根深い構造の変化がありそうです。

最大手事務所「UUUM」の盛衰

 2010年代後半、YouTuberは注目を集め続けてきました。例えばYouTuber事務所最大手のUUUMは上場後の時価総額が一時、アミューズとエイベックスの時価総額を足しても上回るなどと話題になったこともあります。

 しかし現在はUUUMの業績はその後下降線で、現在の株価はピークの10分の1以下となってしまっています。

将来なりたい職業ランキングにも変化

 また、YouTuberといえば、子供のなりたい職業ランキングで上位に入ってきていことでも話題となっていました。小学生には今も人気の職業ではあり続けているものの、高校生ではなりたい職業ランキング8位に落ちてしまっています。

 このように、YouTuber人気には、最近では少し翳りが見えるようです。
 そこで今回はYouTuberの現在地と今後の可能性について扱ってみたいと思います。

 なお、このnoteを読んでいただいている読者の方々は、YouTuber本人というよりは、企業の立場からYouTuber(またはYouTuber的なインフルエンサー及びその事務所など)との向き合い方について考えている方などが多いのかなと思いますので、そうした方々の参考になるものにできたらと思います。(そして、さほど詳しくない方向けです)

YouTuberのこれまで

 まずはYouTuberのこれまでについて簡単に復習しておきたいと思います。

テレビ1強時代の終わりとYouTubeの成長

 YouTuber台頭の背景として、最も大きいのはメディア消費の変化です。
 20代ではYouTubeの利用頻度がテレビを超え、企業の広告費においても2021年にネット広告が4マスを超えました。動画メディアにおいてテレビ1強の時代は終わり、新たな動画メディアの中心としてYouTubeの利用が進んでいます。

インフルエンサー(KOL)の台頭

 2点目は「個人の時代」の到来です。SNSなどの発展により、そもそもYouTuberに限らず影響力のある個人がメディアとしての役割を果たすようになってきました。(「web2.0」の時代)

UGCの発展

 さらに、日本においてはコミケやニコニコ動画、ボカロなど、もともと個人によるコンテンツ(UGC)を楽しむ文化やクリエイターの存在があったため、YouTubeやSNSによる個人の作品投稿は、諸外国と比べても盛んに行われることに繋がったものと思います。

YouTube冬の時代?

「MCN」ビジネスモデルの限界

 このように時代の追い風を受けて急成長したYouTuberですが、冒頭で触れた通り、最近はそう順風満帆ではありません。

 既に述べた通り、一時期時価総額1000億円を超え「アミューズとエイベックスの時価総額を足しても足りない」と話題だったUUUMは、直近の決算では上場以来初の営業赤字となっています。

 実は、Googleからの広告収入に頼ったUUUMのビジネスモデルに限界が来ることは早くから指摘されていたことでした。先行する米国YouTuber市場において事務所(米国ではMCNと言われていました)の業績が一足先に悪化していたのです。(ここはUUUM社の経営陣も主要投資家も課題認識はあったと思います)


TikTok発の「ショートショック」

 ここへさらに、いわゆる「ショートショック」が襲います。TikTokがZ世代からの支持を土台に急拡大を遂げYouTubeもその影響を無視できなくなります。YouTubeでは対抗策として「YouTubeショート」が導入されましたが、YouTuberや事務所からすると、ショートで再生回数は伸びたものの広告収入は減少することになりました。


相次ぐ有力「YouTuber」の脱退・解散

 結果として、特に2020年以降、有力「YouTuber」の事務所脱退や解散が相次ぎました。
 コロナなどもあって原因は複合的と思いますし、そもそも収入が減ったこととは別問題として、「(不当に)中抜き」されているのではという不満があったりしたかもしれませんが、これまでは「成長はすべてを癒す」という側面があって問題が表面化しづらかったのは事実かと思います。

 いずれにしても、ここで指摘しておかなければいけないこととしては、YouTuber事務所(MCN)のビジネスモデルの破綻とともに、そもそもフリーであろうと事務所に所属していようと、YouTubeそのものによるマネタイズが最近ではとても困難になっている、という点です。

YouTuberの今後の生存戦略

YouTubeの「宣伝媒体」化と、TikTokの台頭

 YouTubeという媒体はマネタイズの目的では使いづらくなりました。しかし、メディアとしての影響力は引き続き強まっています。
 そのため、企業やタレントの「宣伝媒体」としてはますます活用が進んでいます。YouTubeそのものでマネタイズするのでなければ、YouTubeで宣伝することで長期的にはマネタイズを図ることができます。

 同様の目的ではTikTokの台頭も著しいですが、どちらが出自かはあるものの、多くの企業やタレントが今や両方の媒体で活動している、という場合が殆どかと思います。

 個人の時代に自己プロデュースして生きていく個人が増えてきている、という傾向は変わらず、そこでYouTuberなのかTikTokerなのか、またはインスタグラマーなのか、といったことの境界線が無くなってきた、というイメージです。 

YouTubeに代わるマネタイズ手段は?

 ここで、YouTuber(今ではマルチな媒体に投稿するインフルエンサーかもしれませんが)の側の視点に立つと、YouTubeに代わるマネタイズ手段はどうしても必要になります。

 先行する米国の事例を見ると、注目されているひとつの形がP2Cブランドと呼ばれるものです。これは、いわゆる「D2C」のインフルエンサー版と考えるとわかりやすいです。
 例えば登録者2億人超の米YouTuber、Mr.Beastは全米300か所にファストフード店をオープン。Emma Chamberlainは「Chamberlain Coffee」で700万ドルを調達しています。

日本独自の進化「VTuber」

 ところで、米国にない日本独自の進化としては、「VTuber」が人気を集めており、運営企業が大型IPOとなってビジネスとしても注目されています。

 VTuberの事務所は、まさに今後「UUUM」同様の経過を辿るのかどうかが注目されているのですが、YouTubeからの広告収益に頼らず、IPを活かしたグッズやイベントによる収益をあげていて、少なくとも現時点では一線を画したビジネスモデルにできているといえそうです。

 こうした傾向は生身のYouTuber本人の生存戦略からすると競合してマイナスな面もあるかもしれませんが、企業の側からすると注目しておくべきトレンドかと思います。

 蛇足ですが、同様の観点からは生成系のAIの進化なども引き続き注目しておくべきポイントで、例えばイギリスのエンジニアが開発したVTuberであるNeuro-samaはゲームプレイや発言がAIによって行われています。視聴者の誘導による不適切発言でアカウント停止になった過去もあるものの、Twitch登録者43万人、YouTube登録者17万人を超えています(本稿執筆時点)

YouTuberと社会

YouTuberが残したもの

 「YouTuber」の社会現象化は、インターネット動画をとりまく環境に、独自の経済圏や視聴文化、企業との関係など、多くのレガシーをもたらしたといえます。

 例えば、インターネット動画を専業とするディレクターや構成作家、マーケターなどの新しい職業が生まれていて、いま企業が「うちの会社もYouTubeチャンネルを運営するぞ」と思い立った場合には、制作費を用意すれば専門チームにある程度任せることができます。これは、5年前は中々できなかったことです。

企業のYouTuber活用

 YouTuberが話題になったことで、企業がインフルエンサーとコラボしてマーケティングや商品開発を行う事例が生まれるようになりました。

 コラボによって成功した事例も出ている一方で、炎上リスクも存在することから、現状、インフルエンサーの活用をめぐる企業のスタンスは二極化しているように見受けられます。

 今後、こうしたクリエイターや消費者の巻き込みは、色々と構造的な問題もありますが、企業の側の活用の手法論の進化によって解決できるところも多いと思うので(場数の問題)、今後ある程度は一般化していくものと思います。

YouTuberは社会に必要か?

 なにかと「お騒がせ」なことも多いYouTuberですが、「YouTuber」ブームとは何だったのか?どんな意味があったのか?もう一段広げた視点で、最後に見ておきたいと思います。

 ここでは「YouTuber」が新たに提供した価値を、従来型のテレビの生態系と比較しています。提供価値は、視聴者と広告主にとっての価値に分けています。YouTuberはYouTuberで、視聴者・広告主とも、それまでのテレビのエコシステムでは届かなかった層に対して、新しい価値を提供しているといえます。

 (今はTikTokが、その後さらに新しい層に新しい価値を提供しているという構図になっていますが、業界の変化を単なるブームとして表面的に捉えずに、背景にある新しい顧客新しい顧客のニーズを意識しておくことが重要です)

おわりに

 ここまで、YouTuberのこれまでとこれからについて記載させていただきました。YouTuberの盛り上がりと落ち着きにはここ5年で大きな波があったと思いますが、変わらない大きな潮流もあると思います。
 最後に、既に述べてきたことと重なりますが、改めてYouTuberブームの根底を流れる中長期的・不可逆な変化について、3点、掲出しておきたいと思います。

YouTuberの一般化

 まず、ブームが終わったとはいえ、それだけ一般化したという点は改めて指摘しておきたいです。一昔前の企業HP・SNSと同じように、企業や個人のYouTube運用がより一般的になり、YouTuberでなくてもYouTubeへ動画投稿をする時代になっています。

動画の時代

 この一般化の背景として2つあり、ひとつは動画化の流れです。
多くのインターネットコンテンツは今後、(通信品質の改善やAIの導入等により)動画化が進むというトレンドがあります。既にこれまでテキストや画像で消費されていた類のコンテンツが最近は動画で消費されており、特に若年層でその傾向が顕著です。

「個人の時代」へ

 もうひとつの背景は、個人がメディアになる時代に向かっているということです。UGC(ユーザ生成コンテンツ)はこれからも増え続けるでしょう。ユーザに対して「広告」する(広く告知する)というよりも、いかにユーザに宣伝してもらうかかが重要です。

 YouTuberを単なるブームとして片付けず、このような潮流を見てみると、また向き合い方や、今後に向けた準備もできるのではないかと思います。
 参考になれば幸いです!




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