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上司が欲しくて株主になってもらいました

ひとりで戦う限界

仕事は慣れたら、辞め時?

2019年のクリスマス、私は無性に「上司」が欲しくなりました。
なんとなく始めた事業はある程度安定感が出始めて、しかし一方で、その「安定」はこれまで私が最も避けてきた状態でした。

仕事に慣れてきたら、それはその仕事の辞め時である、とさえ周囲に豪語していたこともあったくらい、「慣れ」や「安定」に対する嫌悪感が(当時は特に)ありました。

サラリーマンなら転職できるけど、自営業はどうやって辞めたらいいのでしょう?

起業家も、UP or OUT?

なんとなく起業してからというもの、周囲の人が私にしてくれたアドバイスは、「他者の資本を入れたら大変」「資本政策は後戻りできない」「小さい会社のオーナーもそれはそれで悠々自適」といったものでした。

完全に騙されていた!と思います。
(というか、私の方が受け取り方を間違っていました。。時代のせいもあると思いますが。。)

起業家は、会社の成長以上に成長することはありません。
自分の成長が生きがいの人間にとって、会社が成長しないことは耐え難いことだったのです。

外部資本を入れようが入れまいが、当初からUPorOUTでやるべきでした。

「株主」に「上司」役をやってもらう

というわけで、なんとなく一定の業績をあげることができるようになった、5年目の冬、(というと聞こえはいいですが、成長に壁を感じていたとも言えます)会社の殻=自分の殻を破るために何とかしなければと考えついたのが、「上司」を得ることでした。

思えば、大学卒業後サラリーマン生活10年余りの間に、すっかり上司が必要な身体になってしまったのかもしれません。

私の場合は、コンサル時代の「偉い人」に出資のお願いをしにいきました。
その結果、幸い、現役時代であれば容易に話しかけられないレベルの方々に引き受けていただくことができました。
(辞めてから5年以上が経過していたにも関わらず、感謝しかありません。。)

株主に還元する仕組みを考える

どう還元するのか?

ところで、出資してもらうにあたっては、株主に経済的なメリットが必要です(当たり前の話ですが)

ベンチャーキャピタルに出資してもらう場合には、企業価値の向上(キャピタルゲイン)によって報いることになりますが、その路線で行く場合には、企業価値の向上だけでなく現金化(エグジット)する道筋をつけなければいけません。

インカムゲインで報いる場合には、利益をあげて配当金でということになりますが、その場合、株主から会社へは成長よりも分配を求める力が働きます。

当社の場合、インカムゲインだけで報いるのではもともとの目的とずれてしまいますので、結果としては、純資産に株価を連動させるという、両者の中間のような形をとりました。

参考株価を決める

株価は、本来は会社と出資者の間の交渉により決まるものですが、今回のケースでは、予め会社が買い取る価格(の決め方)を決めています。

それによりエグジットの計画が不透明な場合でも、投資家はキャピタルゲインを得ることができます(税務上は配当と見なされる場合があります)

デメリットとしては、純資産を積み上げるために早期に利益を出していかなければいけないということがありますが、当社のように少しずつ利益を出しながら成長を志向する会社にとっては現実的な手法と思います。

もし将来、大きく投資して企業価値を高める戦略に転換した場合でも、株の引き受け手がいれば(市場からの需要があれば)対応できないわけではありませんので、当社にとっては最適解だったと思います。

株主になってもらう目的

会社の側から見ると、このような資金調達は当然ながら大規模な資金需要を満たすものではありません。

あくまで本稿の冒頭に述べたような、「上司」、つまり人生の先輩方から知恵を借りて、応援してもらうためのものです。

ベンチャー企業によっては「顧問」としてホームページに著名な経営者・文化人が並んでいることもあるかと思いますが、それと同じ趣旨の、別形態かと思います。

出資者の側から見ると、「顧問」や「社外取締役」に比べると、ある程度出資金の範囲でリスクが限定されて、お引き受けいただきやすい面もあるのかなと思います。

環境づくりも自分の能力のうち

上述の当社のような形態は、当社のような経過を辿った会社(サラリーマンから独立して低リスク低成長で立ち上げた場合など)には、おすすめの形と思います。

実態としては、純資産をKPIとした成果報酬型顧問契約に近いのかもしれませんが、株主側にとっては、エグジットが見えれば大きなアップサイドもあるのと、会社側にとっては、「株主」というのは「顧問」とは異なりますから、第三者の目が入ることで成長はもちろん、中小・零細企業特有のガバナンスやモラルに対する牽制にもなります。

「上司」のメリット

こうして、念願の「上司」を得たことで、良かったことを書き置きます。

「上司との付き合い方」は人それぞれだと思いますが、私の場合は、視座を高め、いまの自分の会社の論点を教えてもらう上で大変有り難い存在だと思います。

人によっては、経営者特有の「孤独」が苦しいという人や、何かの岐路に立って自分ひとりでは判断に迷うという人もいると思いますが、私の場合は、いま解くべき問題がハッキリすることの方が、スッキリすることでした。

自分がアガる環境をDIYする

それから、低レベルに聞こえるかもしれませんが、(10年間のサラリーマン癖が抜けていないのかもしれません・・)自分のモチベ管理上の効果はやはり大きかったと思います。

もともと起業後も「ハングリー精神が足りない」といろんな方から励まし(お叱り?)を受けており、レッドブルを飲むなどしてみましたが改善せず、悩んでいました。

モチベのスイッチは人それぞれですので、自分に合う向上法を知ることは大切です。その上でモチベが自動的に維持され、拡大再生産されるための環境構築もDIYでというのは、サラリーマンにない要素かなと思います。
(サラリーマンの時は転職の時に考えることでした)

「上司」以外のメリット

蛇足ですが、2019年冬、上司を得るために導入した「株主」という存在は、別の副次的な効果をもたらしました。

私にとって、その後到来する「WEB3」の世界を理解するためのちょっとした機会にもなったのです。

WEB3は「所有」のためのインターネットとよく言われます。

今回、一旦は「株式」というWEB2時代のスキームで、自らの会社の所有権やそれを分割することについて考えたことで、これから到来が予想されるWEB3の解像度を高めることができたと思います。

「株式会社」の今後

学校では教わらない「資本政策」

そもそも(WEB3より前の)従来の「株式会社」や「資本政策」についても、通常であれば学校などで学ぶ機会はありません。

「投資」というと、一般に株やFXといった「資産形成」「財テク」のイメージが先行している印象がありますし、「起業」というと、「登記」や「税務」といった手続き面が注目されることが多いように思います。

しかし、「株式会社」や「資本政策」といった「資本主義」のシステムに対するリテラシーは今後重要になってくると思われます。今、話題の「WEB3」も、従来の資本主義システムをアップデートするものであり、一定、「BEFORE」の知識を前提としているところがあります。

そのため少しハードル高く感じてしまうかもしれませんが、今のうちに理解を深めておくことは重要と思います。

WEB3と2のハザマで

WEB3を見据えた点で言えば、当社の場合、2019年冬の時点で株式について考えることができたことが、その後のサクラストークンの配布やDAO運営に繋がっていると思います。

よく指摘されていることですが、今の日本の法制上、純粋なトークノミクスのみでのDAO運営は難しく、従来のエンティティと併存させて・・という形が現実的です。

ただ、それはそれで良い面もある気がしてまして、段階的移行を踏むことで表面上の“WEB3”とならずに本質的な「株式会社」のDXに繋がるということもあると思います。

(特に中小企業においては、従来、所有と経営、従業員の区別があまりない場合が多かったと思いますが、WEB3含めた技術革新により、会社のあり方もDXされることが予想されます)


本稿では、未上場(零細)企業である当社が、どのような株主対応を行っているかについて、紹介させていただきました。

資金需要のそう大きくないビジネスで起業する場合も多いと思いますが、そうした場合でも、自己資金や借り入れのみで事業を推進するよりも、一部株式を第三者に持ってもらって起業することはおすすめです。

いますぐ起業する立場にない方でも、(例えば、ご子息が起業するなど?)未上場株に関わる機会は少しずつ増えていくかと思いますので、参考にしていただけましたら幸いです。

なお、第三者の資金を預かるにあたっては、様々な法規制があります。もし参考にしていただく場合でも、実際には弁護士や会計士の先生ら専門家の指示に従って下さい。また、本稿は何ら投資を勧誘するものではありません。出資や会社経営は、自身の責任で行って下さい。

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