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フィンテックって、そう言えば最近どうなってるの? 世界のフィンテック潮流

はじめに

 最近、「フィンテック」について調べる機会があったのですが、その言葉自体の定義が曖昧で広範なため、全体感を掴むのに苦労しました。世間一般には以前ほど騒がれてもいないため、日常的に情報が入ってくるわけでもなかったせいもあると思います。今回は、フィンテックのトレンドについて、大きく3点を紹介しながら、調べたことをお裾分けできたらと思います。

 たいそうなタイトルがついてますが、せっかく調べたのでまとめておこうと思った次第です。全てを網羅できているわけではありませんし、既にこの分野に詳しい人にとっては当たり前かもしれませんが、日頃の業務に追われていて「そういえば最近、フィンテックってどうなったの?」という人の参考になれば幸いです。

1/ エンベデッド・ファイナンス

 一般にデジタル化が進むと業界はサービスやレイヤーごとに「アンバンドル」され、他業界のプレーヤーが垣根を越えて参入する傾向にあります。

 放送業界であれば、放送局が製作したコンテンツがNetflixなどで配信され、視聴者はGoogleやApple社製のスマートフォンでそれを視聴し、ネットワークのインフラはAmazonにより提供されているなどです。
(この時、コンテンツやハードウェア、OS、アプリ、ネットワークといった階層を「レイヤー」と呼びます)

 今後は、例えばこれまでピラミッド型の強固な「ケイレツ」で知られる自動車業界であっても、例外ではありません。自動運転のOSを提供する会社や、そのOS上で動作する部品やカーナビアプリを提供する会社が自動車会社から全く別の業界から出てくるかもしれないのです。

 こうした傾向は金融業界においても同様で、伝統的な金融機関が有していた決済・送金、融資・審査、資産運用、セキュリティ、仮想通貨といった金融サービスのそれぞれに特化した高付加価値なサービスが生まれています。
さらに近年では、こうしたサービスが非金融企業の提供サービス内に組み込まれるという「エンベデッド・ファイナンス」が登場するようになりました。

「Card as a Service」を提供するイネーブラー、Marqeta

 金融業界のレイヤー化・アンバンドルの例として、例えば非金融企業によるクレジットカード発行が増えています。これにはイネーブラーの存在が大きく関わっています。

 イネーブラーはライセンスを持つ金融機関と顧客接点を持つブランドとの中間に入りシステムを構築しています。APIを介して金融機能をブランドに提供することで、非金融企業であっても一からシステム構築をせずに金融サービスを提供することを可能としています。

 「Card as a Service」を提供するイネーブラーの代表例がMarqetaで、DoorDashやUber、Instacartのカード発行を裏で支援しています。Marqetaは2021年にNASDAQに上場し、当初は150億ドルの時価総額をつけました。

GAFAの金融参入

 GAFAも金融への取り組みの動きを強めています。Apple PayやGoogle Payは日本でも馴染みがあると思います。

 中でもAppleは金融への参入を積極的に進めています。Goldman Sachsと組んだApple Cardや年率4.15%の普通預金金利で話題となったApple Card’s Savingsなどです。Apple Card’s SavingsはApple CardつまりはiPhoneユーザーが作ることが出来る銀行口座となっており、アップルユーザ囲い込みのための施策となっています。

 Amazonでも同様に、Amazonで利用すると5%のリワードが付与されるAmazon Prime Visa Cardや、消費者がアマゾンに登録した決済情報をアマゾン以外のECサイトでも利用できるAmazon Pay、Goldman Sachsと組んでいる第3者マーケットプレイスで販売する中小の小売業者に向けたローン製品Amazon Lendingといった金融サービスがあります。

東南アジアの「スーパーアプリ」、GrabとGojek

 スーパーアプリとは複合的な機能を持つアプリのことで、代表例として東南アジアのGrabとGojekがあげられます。どちらも元々は配車サービスでした。

 GrabではフードデリバリーのGrabFood、宅配サービスのGrabExpressといったサービスのほか、電子決済サービス(GrabPay)を提供してきましたが、近年では融資(Grab Finance)、保険(GrablInsure)、リワード及びロイヤリティ・プログラム(GrabRewards)というような分野でも金融サービスを提供しています。

 GojekはGrabに先んじてスーパーアプリの形態を作り上げた企業ですが、Go-RideやGo-Carといった配車サービスに加え、フードデリバリーのGo-Food、宅配サービスのGo-Send、引っ越し、車の修理、マッサージなど様々なサービスに加えて、同様にデジタル決済(GoPay、GoPay Later)、保険(GoSure)、運用(GoInvestasi)、などの金融・決済サービスがあります。

 配車サービスやフードデリバリーを含むスーパーアプリは、位置情報やギグワークの収入といった独自のユーザデータを蓄積することができるため、そうしたデータを金融機能の発展にも活用しています。

中国「芝麻信用」の「信用スコア」

 エンベデッドファイナンスやBaaSとは少し話がそれますが、同様にデータを活用したメガプラットフォーマーの取組みとしては、中国の「芝麻信用(Zhima Credit) 」の「信用スコア」が有名です。

 芝麻信用はアリババグループ傘下の企業で、アリババグループといえば10億人を超える利用者を持つAlipayを有します。10億人を超えるユーザーの様々な決済のデータを元に個人や企業の信用情報が蓄積されており、それを活かした金融事業が展開されています。

 芝麻信用では大きく分けて「学歴」「勤務先」「資産」「返済」「人脈」「行動」(ショッピング・金融商品の利用状況や公共料金支払い状況)といった指標の組み合わせで採点されます。信用スコアが高いとデポジットが不要になったり、後払いができるようになったり、金利が優遇されたりと様々な特典があります。逆に低いとそのような恩恵は得られません。

 中国ではその後、政府が社会信用スコアへと応用を進めていると言われており、公平性やプライバシーの観点で問題がないのか、議論を呼んでいます。

2/ ファイナンシャル・インクルージョン

 ファイナンシャル・インクルージョン(金融包摂)とは、簡単に言えば、誰もが金融サービスへのアクセスをすることができ、その恩恵を受けることができるということです。日本に住んでいるとあまりピンと来ないかもしれませんが、アメリカですら銀行口座は誰もが持てるというものではありません。日本では口座保有にほとんどお金はかかりませんが、多くの国では口座保有に維持費がかかることがひとつの理由です。そうした状況も、フィンテックによって変わりつつあります。

ケニアのリープ・フロッグ、M-Pesa

 リープ・フロッグとは、途上国や新興国で最先端の技術が導入されることによって、途中の段階を飛ばして「一足飛び」に発展することを指します。ケニアではSMSを使ったバンキングシステム、M-Pesaが普及しました。

 アフリカでは多くの場合、携帯電話はプリペイド形式です。これは通話料を確実に回収するためです。端末を購入し、プリペイドで通話料をチャージします。このチャージした通話料は他人に送金が出来ますし、支払いに使うことができますし、現金に払戻すことができます。預金やローンを組むということもできるようになっています。つまり銀行口座と同じような役割を果たすわけです。

 ケニアにおける金融包摂率は2006年にはわずか26%でしたが、2019年のFinAccess Household Surveyによると、今日では国民の83%が少なくとも基本的な金融サービスを利用できるようになっているということです。モバイルバンキングとしてM-Pesaを使うことによって、多くの人が金融サービスの恩恵を受けることができるようになりました。

ミレニアルに支持されたBNPL、Klarna

 BNPLとはBuy Now Pay Later、つまり後払い決済のことです。後払い決済といえばクレジットカードが代表的ですが、クレジットカードを利用しないもしくはできないミレニアル世代には他の手段による後払いの需要がありました。

 そこで登場したのがスウェーデンのKlarnaに代表されるようなBNPLサービスです。クレジットカードと違い、与信審査が簡易的で、分割払いに手数料がかからないことが多くなっています。日本でもPaidyといったサービスが出現してきており、若者も後払いや分割払いが気軽に利用しやすくなっています。

 ベインの推定によると、年間BNPL取引総額は約64億ポンド(現在の為替レートでは1.1兆円強)で、前年同期比でおよそ60%から70%の増加と大きく拡大しています(2020年)。直近ではブームも落ち着いたという話もありますが、若者の買い方の「当たり前」は、上の世代のそれとは大きく異なっていそうです。余談ですが私も最新のアップル製品を購入する際にPaidyを使ってみて、その気軽さやUIUXの気持ち良さに驚きました。また、そもそもアップルがPaidyを大きく押し出していること自体も新鮮に感じました。

P2Pレンディングの雄、Lending Club

 P2Pレンディングとは、インターネットを通じて、銀行などを介さずに貸し手と借り手を結びつける仕組みのことです。Lending Clubはその代表例です。

 Lending ClubはNYSEに上場した2014年時点では時価総額は54億ドルをつけていましたが、その後は2016年の不祥事もあって、貸し倒れのリスクの高さなどP2Pのビジネスモデル自体の信頼まで失われるようになってしまいました。

 その後、Lending Clubは2020年に支店を持たないRadius Bankを買収し、銀行免許を取得。調達金利を下げるなどビジネスモデルの進化を図っていて、直近は業績も改善しているようです。P2Pのビジネスモデル自体も、コロナの影響を受けた中小企業の救済などをきっかけに見直す動きもあり、再注目されているタイミングです。

新興国のデジタルバンク、Nubank

 ブラジルのNubankは若年層やUnbanked 層に対して、便利で安価な金融サービスを提供し、今では約4800万人の顧客を抱える世界有数のデジタルバンクに成長しています。銀行免許を持たないネオバンクです。

 Nubank は、モバイルアプリで利用できる年会費無料のクレジットカードの提供からスタートし、2017 年には銀行口座に類似するデジタルアカウント、その後18年以降もデビットカード、個人向け無担保融資、保険、ネット証券に順次参入し、事業範囲を拡大しています。

 Nubank が急成長した背景には、新興国のブラジルならではの事情として、2017 年時点の銀行口座の保有率が7割、デビットカードとクレジットカードの保有率はそれぞれ約6割と約3割に留まっていた、ということがありました。

 同社 の2021 年9月末時点での顧客基盤の7割以上が 40 歳以下の現役世代や若年層で、その平均年齢は 34 歳ということですから、特に若い世代に支持されています。

3/ ディセントライズド・ファイナンス

 ディセントライズド・ファイナンス(分散型金融)とはブロックチェーン上で、分散管理する金融アプリケーションのことを言います。ユーザー同士が仮想通貨取引所を介さずに直接仮想通貨を取引することが、本来のディセントライズド・ファイナンスです。管理者が必要ないので、透明性が高い、手数料が安い、またインターネットさえあればすぐ利用することができるといったメリットがあります。
 しかしディセントライズド・ファイナンスはまだ実現に向けて技術的・法律的に課題が多く、現在のところは管理者を介在させた形での取引(後述のCEX)が一般的です。

Facebook「リブラ」の衝撃

 これはディセントライズド・ファイナンス以前の仮想通貨の話題となりますが、2019年6月にフェイスブックが発表した新たなデジタル通貨「リブラ(Libra)」は大きな話題を呼びました。

 リブラは全世界的なファイナンシャル・インクルージョンを目的としていましたが、それをプラットフォーマーではあるものの一企業にすぎないFacebookが主導したことで、政府や規制当局の大きな警戒感を招きました。

 その後Diemに名を変えた後も当局との折り合いはつかず、Facebookはこの計画を断念します。通貨発行権など最たる例ですが、国家の主権や専権事項すら脅かしかねないメガプラットフォーマーにとってのPA(パブリック・アフェアーズ)の重要性を示す好例となってしまいました。

 リブラ自体はFacebookにとっては残念な失敗でしたが、社会全体にとってはその後のCBDC(中央銀行デジタル通貨)へと向かうきっかけを作ったことで意味のある出来事でした。

暗号通貨市場に打撃を与えたFTX破綻

 暗号通貨といえば、2022年11月、世界最大手の暗号資産交換業者の一つのであるFTXが経営破綻を引き起こし、この影響が暗号通貨市場全体に今でも暗い影を落としています。

 暗号通貨の価格というだけでなく、いわゆるweb3と呼ばれるブロックチェーン技術を使った新領域全体でスタートアップの調達等に厳しい「冬の時代」をもたらしてしまいました。

 倒産する前のFTXは、Binance社と並び世界における代表的な暗号資産取引所でした。FTXやBinanceは、中央集権的に取引所運営を行うCEX(Centralized Exchange=中央集権取引所)というモデルで、本章のテーマであるディセントライズド(分散型)とは言えません。

 これは前述の通り、分散型のモデル=DEX(Decentralized Exchange=分散型取引所)は未だ技術的・法律的課題があることから、現在はこのCEXが主流となって規制当局と連携しているという事情があります。

今後はUniswapなどDEXの台頭に注目か

 FTXの破綻をめぐっては、そもそもCEXが中途半端に中央集権的であることから起きたという議論があり、(本来のweb3の精神に従って)人の介在余地がなければそうした事件は起きないという意見があります。

 UniswapなどのDEXの場合は、中央集権取引所なしでスマートコントラクトと呼ばれる合意に基づく動作を自動的に行うプログラムを使って運用されます。

 機械的に運営されるDEXであれば、FTXの時のようなガバナンスの問題など運営の「人災」のリスクは減りますが、その分投資家やユーザの「自己責任」となる領域が増えます。また、現在はまだセキュリティや取引手数料(ガス代)など、技術的な進化を待たなければ行けない側面もあります。

 本格的にDEXが拡大した場合は、税をめぐって国家と対立する可能性もありますが、それはもう少し先の話と思いますのでおいておき、当面は法律的な問題と技術的な問題で、CEXが中心となっています。

 ただ成長率という面ではDEXの成長は注目されていて、送金額ベースではDEXはCEXを超えてきているほか、取引高ベースでも、Uniswapの取引高はBinanceには及ばないものの、Coinbaseと肩を並べるようにはなっています。

DAOによる金融サービスの運営

 最後にDAOについても触れておきます。DAO(Decentralized Autonomous Organization)とは分散型自律組織、具体的にはブロックチェーン上で人々が協力して管理・運営される組織のことです。DAOではトークンを保有していれば、組織の意思決定に参加することができ、オーナーとして組織の持ち分を保有することもできることから、株式会社に代わる新しい形として注目されていることもあります。

 DAOの例としては、MakerDAOやハッキングを受けたTheDAOなどが有名ですが、「DAO的」な運営をされている組織としてビットコインやイーサリアムそのものが挙げられる場合もあります。

  P2Pレンディングを分散型金融(DeFi)として提供するCompound(コンパウンド)なども、DAOの運営がされています。Compoundを利用することでCOMPトークンというガバナンストークンが得られ、運営に関わる意思決定に参加することができます。

 これがDAOだ!という成功例が生まれるまでにはまだ時間がかかるかもしれませんが、組織運営自体も分散型にしていこうというのは真の民主化を求めるweb3の運動としては自然な流れだと思いますので、DAOの登場・進化というのは長期的には避けられない流れと思います。DAOは金融とも相性が良いため金融業界にもいずれ影響を与えることになるでしょう。

おわりに

 今回は、フィンテックのトレンドについて紹介しました。大まかな傾向だけを簡単に書くつもりが長文になってしまいました。なるべく(一時の流行というよりも)根本的・構造的な変化を選んだつもりなので、他業界について考える際にも参考になれば良いなと思います。
 また、(蛇足ですが)よく日本の盛衰を語る際に取り上げられる企業の時価総額ランキングにおいて、GAFAMなどテック企業の他は、金融業界の企業が多いです。わが国の国際競争力を論じるような場面でも、金融業界のことを知っておいて損はないのかなと思っています。金融専門の方からすると当たり前のことが多かったかもしれませんが、もし万一、私が間違って理解していることなどがあればご指摘下さい。
  以上、参考にしていただけたら幸いです。

参考サイト

https://www.jri.co.jp/MediaLibrary/file/report/researchfocus/pdf/13154.pdf

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