学習に必要な時間を左右する5つの要因について

#医療教授システム学

#医療ID

今回は学習率を左右する5つの要因について説明したいと思います。

学習率は次の式で定義されます。

学習率=学習に費やされた時間/学習に必要な時間

例1:Bさんがマスターするのに2時間必要な課題に対して2時間勉強した場合の学習率は2/2=1(100%)になるので、この場合、Bさんはその課題を完全習得できる、となります。

例2:Cさんがマスターするのに4時間必要な課題に対して2時間しか勉強しなければ課題の半分(50%)の出来になるのは仕方がありません。

キャロルは学習率の式を次のように展開しました。

画像1

学習率の分子に当たる学習に費やした時間は、学習機会と学習持続力により求められ、一方、学習率の分母である学習に必要な時間は、課題への特性、授業の質と授業の理解力によって規定される、と考えます。

アメリカ心臓協会の一次救命処置コース(BLSコース)を例に学習率の5つの要因について説明します。

学習に費やした時間の「学習機会」とは、BLSのそれぞれのレッスンに割り当てられた時間のうち、学習者1名に能動的に学ぶ機会のことを言います。例えばインストラクター1名、受講者4名でCPRのレッスンにマネキン2台と40分が割り当てられている場合、受講者1名あたりの学習機会は最大で20分になります(受講者2名でマネキン1台を使ってそれぞれ20分練習すれば40分になります)。インストラクターが受講者に講義をしたり説明をする場合はその時間が40分から削られるので、受講者当たりの学習機会はその分短くなり、その結果学習率は低下します(他の4つの要因が同一の場合)。

BLSコースのインストラクターへの一言アドバイス:インストラクターがお喋りしたり余分な講義をするとその分だけ学習率は低下します。

学習持続力は学習意欲と考えて良いでしょう。東京ディズニーランドに行くと遊びに夢中になりいつの間にか夕方になってしまった、という経験は多くの人にあると思います。TDLは遊びの持続力を引き出さすデザインや演出がされています。それを学習に応用した(学習意欲の設計)のがケラーのARCSモデルです。時間モデルでは与えられた学習機会のうち、受講生が実際に学ぼうと努力して、学習に使われた時間の割合を学習持続力と呼びます。学習持続力=学習意欲が低いと、せっかく与えられた学習機会をフルに活用していないので、学習機会がそのまま学習に費やされる時間になりません。学習機会は均等でも学習持続力=学習意欲の差によって学習に費やされる時間=学習の成果に個人差が出てしまうことにあります。

BLSコースのインストラクターへの一言アドバイス:受講者がやる気を持てるようにインストラクターの話を受身的に聞かせるのではなく、受講者を能動的に活動的にさせます。また受講者の心理状態が学習への取り込みに最適な状態になるように、学習のじゃまになる刺激(雑音、高すぎる・低すぎる室温、見えにくいビデオ・聞き取りにくい音声、インストラクターが視野に入るなど)を取り除きます。

次に学習率の分母=学習に必要な時間に関係する3つの要因について説明します。

課題への適性とは、学習者にとって理想の授業が行われたとき、ある課題を達成するのに必要な時間の長短によって表せる学習者の特性を課題への適正といいます。例えば、2人の学習者(Aさん、Bさん)に対して理想的な学習環境を整えたとして、課題達成の所要時間を測定します。Aさんは1時間で課題達成したのに対し、Bさんは2時間で課題達成したとすると、その課題に対してはAさんのほうがBさんより課題への適性が高いと考えます。課題への適性が低くても授業の質と授業理解力という2つの要因により学習に要する時間全体を制御できる場合もあります。

課題への適性は、課題ごとに異なると考えます。ある課題に対して適正が低いからといって、その他の課題についても適正が低いという思い込みに陥らないためにも。ある特定の課題を学ぶのに要する時間の長短は、その学習者の天性の才能やこれまでの学習経験によって積み重ねてきた学習技能や既存の知識全体に影響を受けます。また同時に、その特定の課題を学ぶために直接必要な前提事項や関連事項を前もってどの程度学んできたのかによっても影響を受けまず。言いかえれば、何でもスイスイこなす天才も、ある課題にコツコツ取り組んできた努力家も、課題達成に必要な時間が同じならば、その課題に対する適性は同じだと考えます(能力の差ではなく学習率を構成する要素の差で考える)。

授業の質
学習者の課題への適性の範囲で短時間のうちにある課題を学べる授業かどうかを授業の質としてとらえます。学習者の課題への適性に応じて、その学習者に分かりやすい=時間内に課題を達成できるようになる、授業ができれば、その授業の質は高いとみなします。一方、課題への適性が高い学習者に下手な授業をすれば学習に要する時間は余計にかかってしまい、その結果学習率は低くなります。

BLSコースで言えば、同じ教材を使って同じ程度の課題への特性を備えた学習者でもインストラクターによって課題達成の成果=学習率異なってきます(インストラクターAが担当した受講者と、インストラクターBが担当した受講者で成績に差がでる原因になる)。

質の高い授業の要件=メーガーのつの質問と関連、として何をどう学習するかが学習者に伝わっていて、はっきりとした形で材料が提示され、授業同士が有機的に次につながっていて、授業を受ける学習者の特性に応じた配慮がなされていることが挙げれられています。

最後に授業理解力について説明します。
授業の質の低さを克服する力を授業理解力と呼びます。一般的な言語能力と考える力が高い学習者は、授業理解力も高い傾向があります。その理由は、質の低い授業において、一般的な知能(考える力)の高い学習者は、不親切な授業で丁寧に説明されてない事柄どうしの関連を、自分自身で推測する必要があっても補うことができ、言語能力の高い学習者は、知らない言葉が出てきてもその意味をつかむことができるからです。したがって、授業理解力の高い学習者は質の低い授業においても余計な時間を必要とせず課題をこなせるが、授業理解力に欠ける学習者は授業の質の低さの影響をまともに受けてしまい、それだけ学習に必要な時間が増加することになります。

授業の理解力は、ガニェの9教授事象を自分の学習に応用する能力と考えると良いでしょう。ガニェの9教授事象は教授する際の認知的な出来事を整理し、効果的・効率的・魅力的な学習を設計する方法ですが、学習者が自分の学習の効果・効率・魅力を向上するためにも利用することができます。どんな授業や研修を受けても、また本を読んでも、自分の腑に落とし学習成果をあげる(=スキーマ化し長期記憶として取り出しやすい形で収納する)ためにはガニェの9教授事象を応用することが必要になります。

以上、になります。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?