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バリエーションを考える

数年前に行った学生の、国語の模擬授業がなかなか面白かった。

20種類以上の雑誌を見て、その中で3つの雑誌に絞りそこにある占いを比較すると言う授業であった。女性の大人向け、女性の若者向け、男性の若者向けの三つの雑誌に絞って、その占いの内容から、どの雑誌なのかを当てると言う15分の授業であった。

読解とメディアリテラシーの授業としては面白いなあと思って、そのことを評価した。

ところが、その学生が昨日研究室に別件でやってきて、変なことを聞いてきた。

「先生、あの授業のゴールは何でしょうか?」

『え、それは君が決めることでしょ?』

「そうなんですけど、どうも分からなくなってしまって」

という会話になって行った。

これ、結構根が深い問題だなあと思ったのだ。

『いま私が持っている一回生ゼミでは、手遊び歌を皆に教えると言う演習をしています。ゼミで相談して、一つも被ることの無いように発表しなさいと言ってやっています。そして、一つの発表が終わったら、そのバリエーションを考えなさいと言って、やらせています。ところが、これが結構難しいようでなかなかできません』

「はあ」

『君も同じかもしれませんね』

『君たちは、4つの中から1つの正解を選ぶということをずっとやってきました。つまり選択肢は最初から与えられていて、その中に正解があるという学習を訓練して来たので、されてきたので、そうなるのかもしれないなあ』

「……」

『君は、「4つの選択肢の中に答えは無くて、正解の選択肢は5番目でそれはこれです!」って先生に言ったことある?』

「ありません」

『でしょ。私は中学生の頃からやっていましたよ(^^)』

『与えられたものからだけでなく、自分から作り出すということを、残念ながら日本の学校教育、国語教育ではほとんどやっていないのではないかと思うのです。だから、君がそう思ってしまうのも、ある意味し方が無くて、君は被害者かもしれません』

「……」

『だからと言って、これからも被害者であることは許されません。君は加害者になってしまう可能性があります』

では、これどうしたら良いのだろうか。

学生とあれこれ話した後に、私ならということで幾つか示した。

1)20冊の雑誌にある占いの一覧を資料として渡す。
2)20冊を占いを比較させ、特徴は何かを考えさせる。

これはまあ直ぐにできる。

他にも

1)雑誌ではなく、他のメディアで占いを比較して見る。テレビ、ラジオ、ネットなど。
2)そのメディアごとの特徴の比較を行う。

などなどがある。

これを、教師の指示でやらせる場合もあるだろうが、子供たちがそこに気がついて追いかけ始めると、追究になる。

『前回の授業は、その後に続くメディアリテラシーの授業の、例題になるなと私は見ていました。私はメディアリテラシーで身につけさせたい力が見えているので、この授業の先が見えていると言うこともあります。だから、勉強がまだまだの君には難しいとも言えます。ですが、逆に言えば勉強をすればよいわけです。そうすれば、知識は入ります。

しかし、もう1つありますね。そうです。バリエーションを考える。作り出すと言うことです。これはもう授業だけでなく、日常生活でも考えるべきでしょう。いま目の前にあるもののバリエーションを考える。文房具でもいいし、台所用品でもなんでもいい。完成されていると思われるもののバリエーション、改良版を考える訓練を続けることです。

必要性や不満から入っても良いです。兎に角、目の前のものに少し手を加えると言うことを考え続けることをする。広げる訓練をするということです。4つの選択肢の中から1つの正解を選ぶのは、そこで思考は停止します。しかし、考えると言うことはそういうことではなく、分からないことが分かったらさらに分からないことが見つかって、先へ先へと進むものです。その楽しみを与えられるような授業を作って欲しいですね』

自分の作った授業に違和感を持てるようになったのだろう。
少し進歩した学生だと思う。

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