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クラインの壺の内側で

緊急事態宣言が10月1日に解除され、5日にPLANETS CLUBの「遅いインターネット会議」が観客を入れたリアル開催で行われた。イベントは「『市場から社会を変える』思想の限界と新展開について考える」で、ゲストが竹下隆一郎さんである。いつもはスマホで、オンラインで、アーカイブでの視聴だったが、その日は仕事の都合が良く、リアル参加を申し込んだ。積極的に外に出ていくことはあまりないのだが、最近のあまりの出掛けられなさが、リアル参加に踏み切った理由だと思う。リアル参加した記念に今回のイベントについてまとめようと思う。
 参加するからには事前に勉強すべきだと思い「竹下隆一郎」とスマホに入力した。「SDGsがひらくビジネス新時代」という本を9月9日に出版していて、「朝渋D&I会議」というオンラインイベントのゲストに10月3日参加することがわかった。外に出ずとも、右手だけで本の購入もイベントの申し込みも済んでしまった。楽な世界になったものだと思う。イベントのオンライン開催が当たり前になり、買い物もオンラインが一般化した世界である。

私のSDGs対する認識は、それを目的に企業は活動することは無く、企業そのものが持続できるように活動するついでに17個の目標から達成できそうないくつか選び、「当社はSDGsを達成します」と宣言するためにある、というものである。もちろんSDGs自体は良いことであり、当然すべきことなのだが、実際の現場では目的として考えられていない、と思っていた。
 「朝渋D&I会議」では、SDGsは基本的にやるべきことであり、今後考えない企業は機会損失をすることになる。17の目標のどれか一つをするものではなく、それぞれが繋がっているため全て行うべきと聞くことができた。
 「SDGsがひらくビジネス新時代」では、個人の価値観をSNSで大きく取り扱えるようになったため、企業も無視できない環境となった。個人の価値観、社会的な意義を示せない企業は新しい時代についていけず、衰退する。そうならないためにSDGsに真剣に取り組むべきと読むことができた。
 「皮肉な」綺麗事から「言葉そのままの」綺麗事へと変化するSDGsが、「半強制的に」ビジネスをひらく新時代になる。結局のところSNSに動かされた人とSNSに上手く乗れる大企業が勝ちやすい世界となる。そんなことを自分なりにオンラインで収集した情報から思っていた。

会議当日。迷いながらも会議が行われる建物にたどり着いた。駅前なのに迷ったのは「有楽町+三菱地所+ワーキングコミュニティ=高層の最近作られたおしゃれビル」と想像していたからである。どこから入るかも悩んでしまう始末。ようやく入れた駅徒歩1分の少し古めの建物の10階に着き、SAAIという会議の開催場所に入る。さすがにSAAIの内装はおしゃれだった。
 「SAAI」という名称は、彩(多様性)、才(異才)、祭(イベント)、斎(集中)の意を込めた読み 仮名“SAI”と、「差(=“SA”)」を「愛する(=“AI”)」という前述のコンセプトを体現する言葉の 2 つを組み合わせた造語だそうだ。
 座って一息つくと、ふらっと現れる宇野常寛さんと竹下隆一郎さん。いつもは画面の中にいる人たちが目の前に存在していて、等身大の人として動いていることになぜか一人緊張した。

会議が始まり、竹下さんから本の解説が行われた。SDGsが広く知られたのは、「金融+企業+グレタ+国連の流れ」があり、複合的な要因がある中、MIxしてSDGsは進められている。日本は個人の取組みが多いが、EUは国と企業で取組んでいて、社会の仕組み自体を変えていると説明があった。私が本を読んで思っていたような小さい話ではなかった。そこに差があるのは、私の視点がローカルで、竹下さんの視点がグローバルだからだと思う。自分の身近な社会とスマホで簡単に入る情報しか視線の先になかったからだ。また、宇野さんは「SDGsは思想たり得るのか?」という、私には見えていない別の角度から質問をしていた。私が家でオンラインから考えた思考の狭さに、オフラインのこの会議で気付くことができた。
 竹下さんがマイクをオンにしていなかったので、全く声が聞こえないアクシデントが実際にあったが、久しぶりに音量を調整できない生のボリュームの声を聞き、熱意が感じられた。少し前までは会議はリアル開催が当たり前だったが、オンライン会議が当たり前になった今、オフライン会議だからこそ気づくことがある。

会議が進む中、いつものスマホ視聴からでは分からないことに気付いていった。配信用カメラの後ろから見るので、目の前には当然カメラがあり、床には配線がある。カメラで撮影する人、パソコンで配信する人、進行する人たちがいる。スマホの画角外にいる人たちが視界に入ってくる。また、観覧の人の笑いや動きから、スマホのスピーカーからは出ない音が耳に入ってくる。オンラインでは映されない、出されない、カメラより後ろの情報も含めて、この会議は成り立っていた。それらの情報が重要だったということは、会議に参加した私が感じていた緊張や期待が証明していると思う。
 竹下さんを見ていて、人って話をしながらもこんなに足が動くんだなと目がいったのは、肩から上が映る映像での会話に慣れてきたからなんだと思う。オフラインとオンラインは表と裏で、裏の方が広い世界と思っていたが、会議にリアル参加して、オンラインが閉じた世界で、オフラインが開いた世界だと情報量の差から思った。

竹下さんの説明が終わった後、宇野さんから「2分後に有料が始まるからそこから色々な質問をしたい」と発言があった。その制限は、無料アプリに課金が必要なよくある仕組みとは全く違い、より重要な深い内容に入って行くために必要な制限である。残念ではあるけれど、その制限により発言を変に切り取らず、文脈が分かり、メタファーをメタファーとして理解できる人たちが、優良な情報を共有することができる。オンラインサロンの有料の仕組みは、閉じているため、悪意を避け、安全に優良な情報発信をするためでもある。
 その制限された空間では、もうオンとオフも気にもならずに話を聞ける時間だった。思想的にSDGsに対するのではなく、現実的にSDGsに対することで、今と先で問題を解決していく姿勢を見ることができた。オンとオフの表と裏の境界がなくなった世界の内側で、深く思考する時間を体験することができた。

会議が終わった後の会場は熱気を帯びて、それでいて爽やかで、いい試合が行われた体育館のような明るさがあって、気持ち良い疲労感があった。その疲労感は集中して聴いていたため、動かなすぎて痛くなったお尻と腰が影響していたと思う。
 今回の会議では、竹下さんと宇野さんは総論が同じでも、各論が分かれるという結論になった。ただそれはどちらが良い悪いではなく、お互いがお互いの進む道を確認し、認め合っているように思えた。目的地は一緒だけど行く方法が、集合してからみんなで行くか、現地集合で一人一人行くか、くらいの差だ思う。SAAIは差を愛するというコンセプトのもとに作られている。今回の差を愛するというと少し言い過ぎな気がするけれど、参加者全員の「理解(=rik“AI”)」があったと思う。

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