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オイルシェールから再エネへ、そしてブロックチェーンへ「エストニアのエネルギー事情」#エスホリマガジン 〜木曜日担当 いけっち編〜

Estonia Holic(通称エスホリ)メンバーが、毎週テーマを変えてマガジンを更新!エストニアやエスホリについて配信します。今週のテーマは#これから深めたいエストニアの〇〇です!

木曜日のいけっちです。
エスホリマガジン、第4週&最終週となりました、今週のテーマは、#これから深めたいエストニアの〇〇
本業で、エネルギー関係、特に電力関連のビジネスを専門領域としている私としては、エストニアのエネルギー事情が気になります。

ということで、ちょっと調べてみたところ・・・やっぱりユニークですね。
さすが、エストニア。

いきなり結論を纏めてしまいますが、エネルギー視点でのエストニアは、

【エストニアのエネルギー事情のユニークさ】
エネルギーをオイルシェールにかなり依存している唯一の国
しかし、オイルシェールは環境問題もあるので、再生可能エネルギーの普及を目指しており、その中で、仮想通貨・ブロックチェーンと絡めた新しい取り組みがいろいろと始まっている国

となります。①もユニークですが、②はさすが電子立国エストニアですね。

それでは、少し具体的に見ていきましょう。

【目次】
1.エストニアのエネルギー事情概況
2.なぜそんなにエネルギー生産ができているのか?(⇒オイルシェール)
3.エストニアの再エネの状況
4.再エネと仮想通貨・ブロックチェーン

1.エストニアのエネルギー事情概況

まず、ざっとエストニアのエネルギー事情を把握するために、日本との比較をしてみたいなー、と思ってググってみたら、日本とエストニアのエネルギー関係の統計が、同じ指標で出ている良いサイトがありました。ちょっと古いですが、まずは以下を見てみましょう。
エストニアのエネルギーと電気の順位一覧
日本のエネルギーと電気の順位一覧
(数値は、どちらも2012年)

いくつか数値をピックアップしてみましょう。

①エネルギー生産量/消費量(石油換算)

まず、エネルギー全体についてですが、
エストニアは、
・エネルギー生産量:約5,057千トン
・エネルギー消費量:約5,721千トン
 ⇒生産量/消費量=約88.4%
・1人当たりエネルギー消費量:約4,317kg

対して日本は、
・エネルギー生産量:約27,201千トン    ⇒エストニアの約5倍
・エネルギー消費量:約451,501千トン     ⇒エストニアの約90倍
 ⇒生産量/消費量=約6.0%
・1人当たりエネルギー消費量:約3,539kg    ⇒エストニアの約82%

となります。ちなみに、両者の人口は、かなりざっくり言えば、
エストニア:約130万人
日本:約1.3億人
と、約100倍の差があります。

それも考慮して、ざっと纏めると、
エストニアは、日本と比べると、エネルギーの生産も相当できており(エネルギー自給率が高い、という意)、また、エネルギー消費量で見ると、総量は少ないものの、国の規模の差を考慮して1人当たりのエネルギー消費量で見てみると、日本よりも大きい、
と言えます。

日本より、一人当たりでのエネルギー消費量が大きい点は、少し意外でした。日本の方が、製造業などエネルギーを大量に使うような産業が発展しているのでは、と思うのですが。
理由まで、この資料からは分かりませんが、寒い国なので、暖房の熱需要などが多いのでしょうか。
(その辺りの理由は、これから深堀したいポイントですね!
ご存知の方は教えてください!)

②電力:発電量/消費電力量

次に、電力に絞って見てみましょう。
(単位がピンと来ないかもしれませんが、日本との比較で何となく規模感を感じ取ってもらえれば充分です。)

エストニアは、
・発電量:約12TWh(テラワットアワー)
・消費電力量:約8TWh
・1人当たり消費電力量:約6.3MWh(メガワットアワー)

対して日本は、
・発電量:約1,026TWh                         ⇒エストニアの約85倍
・消費電力量:約1,003TWh       ⇒エストニアの約125倍
・1人当たり消費電力量:約7.8MWh  ⇒エストニアの約1.2倍

1人当たりエネルギー消費量で見ると、日本よりエストニアが上回っていましたが、1人当たり消費電力量では、日本が上回っていますね。つまり、エストニアは、電力以外のエネルギーを日本よりも多く使う、ということが分かります。
原因まで分かりませんので、あくまで想像ですが、やはり暖房等の熱需要の差なのかな、と思います。日本だと暖房もエアコン=電気で熱を取ることが多いかと思いますが、寒い国だと、セントラルヒーティングが中心でその燃料は電気以外であることが多いかと思いますので。
(この辺りの裏付けも、これから深堀したいポイントですね!
ご存知の方は教えてください!)

ここで一つ注目なのが、エストニアの発電量と消費電力量の比率ですね。
発電量(12TWh)が消費電力量(8TWh)の約1.5倍とかなり上回っており、これは日本では考えられないですね。
これは、他国にそれだけ発電した電力を輸出している、ということになりますね。電力は基本的に在庫ができませんので(蓄電池はまだそれほど大規模には入らないので)。
日本の場合は、電力が基本的に在庫できないうえに、島国日本では、他国と送電線が繋がっていませんので、電力の輸出は基本できず、発電量と消費電力量は日本という閉じた中で、バランスしている必要があります。よって日本では、この差が開くことは考えられないですね(差が開くと停電します)。

その辺り、次の項でさらに見ていきましょう。

2.なぜそんなにエネルギー生産ができているのか?(⇒オイルシェール)

まず、エストニアが電力を輸出しているのか?という点を確認してみましょう。

以下のStatistics Estoniaのサイトに2017年の電力生産の状況が纏まっています。

Statistics Estonia: Electricity production increased last year (3 September 2018)

これによると、やっぱりお隣ラトビアにかなり電力を輸出していることが確認できます。

エストニアは電力が輸出産業になっている、ってちょっと意外じゃないですか??

では、なぜ小国エストニアがそんなに発電できるのか?その燃料・資源はどうなっているのか?
ちょっと不思議ですよね。

先ほど1項で見た、2012年の統計を見ると、
発電量に占める石炭火力発電の割合:約85%
と、石炭が圧倒的に高いことが分かります。

え、石炭??

エストニアってそんなに石炭採れるのでしたっけ?

世界の石炭生産量のランキングを見ても、エストニアはランキングに顔を出してきません。

そこで、ちょっと調べてみたところ、エストニアで採れるのは、正確には、石炭ではなく、オイルシェールなんですね。

シェールガスは聞いたことがあっても、オイルシェールは聞いたことがない、という人もいるかと思いますので、Wikipedia を元に、いくつか言葉を簡単に説明します。

・シェール:頁岩(けつがん)という岩のこと
・オイルシェール:油を含む頁岩のこと。(※岩のことを指す)
・シェールオイル:オイルシェールという岩から生成した油のこと
・オイルシェールガス:オイルシェールという岩から生成したガスのこと
一方で、近年よくニュースで耳にする、「シェールガス」というのは、
・シェールガス:頁岩層という頁岩の地層の隙間に溜まったガス、のことです。
つまり、オイルシェールとシェールガスとは全く別ものです。

手元にある『エストニアを知るための59章』(明石書店)によると、

オイルシェールを発電の主燃料としているのは、世界でもエストニアだけである。

とのことです。いやー、ユニークですね。

同じ本からいくつか引用すると、

・エストニア人にとって、オイルシェールは、「われわれの茶色の金」と呼ばれる貴重な資源
・1980年代には、世界の採掘の3分の2はエストニアで行われていた
・採掘量は、1980年代は年間4,600万トン

とのことです。
尚、先ほどのStatistics Estoniaの資料によると、2017年のオイルシェール採掘量は、2,200万トンだそうです。
さらに、2017年のオイルシェールから生成したシェールオイルは100万トンで、輸出もかなりされているようで、ベルギー、オランダ、スウェーデンへの輸出が多いようです。
発電した電力だけでなく、オイルシェールから生成したオイルも、エストニアの輸出産業になっているんですね。

日本がエネルギー資源が無くて戦争へ進んだ歴史を踏まえると、エストニア人が、オイルシェールを、”茶色の金”と呼ぶのも納得できますね。

でも、オイルシェールは化石燃料ですから、CO2排出⇒地球温暖化など、環境面への悪影響はあります。
そこで、エストニアでは、最近、再生可能エネルギー(再エネ)にも力を入れているようです。
次は再エネについて見てみましょう。

3.エストニアの再エネの状況

先ほど、引用した以下サイトに再エネ発電量のグラフが載っていますね。
Statistics Estonia: Electricity production increased last year (3 September 2018)

2008年頃から、①木材等のバイオマス(Woodfuel and waste)、②風力(Wind energy)が急激に伸びています。

また、同資料の本文を読むと、2017年の再エネ発電量は、前年比で13%増えた、とあります。
再エネの普及に力を入れていることが分かります。
(具体的な国の政策は是非深堀したい!)

特に風力は年15%の割合で増やしているようで、最近は風力に特に力を入れているようですね。
寒くて、雪も多いでしょうから、やはり太陽光だと効率が悪いのでしょうか。
日本は、水力を除けば、再エネの中では圧倒的に太陽光が多いですから、この点も違いますね。

木材が多いのも特徴的ですね。森林が多いエストニアらしいです。
木材パレットは、2017年は120万トンを生産し、デンマークやイギリスにも輸出しているそうです。
木材ではありますが、シェールオイルの話だけでなく、再エネ分野でも、エネルギー(の源)がエストニアの輸出産業になっていることが分かりますね。

総発電量に対する再エネの比率が明確に出ていませんが、発電量の割合から見て、ざっと12~14%ぐらいといったところでしょうか。

日本だと、2017年の自然エネルギー比率は15.6%という、統計が出ています。(太陽光だけだと5.7%、風力だけだと0.6%)

環境エネルギー政策研究所:2017年暦年の国内の全発電量に占める自然エネルギーの割合(速報)

4.再エネと仮想通貨・ブロックチェーン

最後に、エストニアの電子立国らしい取り組みを、エネルギーの面からも見てみましょう。

①仮想通貨・ブロックチェーンによる電力取引の事例

エストニアの電力会社であるElering社と、リトアニアに本社を置くベンチャー企業のWePower社が共同で、ブロックチェーン技術を活用してエネルギーのデータをトークン化する大規模な実証プロジェクトをエストニア国内で実施するそうです。

日経XTECH:ブロックチェーンによるエネルギー取引、エストニアで実施へ
欧州で初めてエネルギーデータの「トークン化」を可能に

このWePower社もなかなか面白い企業でして、再エネ発電所建設などの資金を仮想通貨を使ったクラウドファンディングで集めている企業です。
顧客側からすると、仮想通貨を使って、少額から太陽光発電所の(一部の)オーナーになれる、ということですね。
エストニアでも既に営業展開済のようです。

WePower社 Webサイト(日本語あります)


②再エネのマイニングへの活用

エストニアの電力会社であるエストニア電力(Eesti Energia社)は、エストニア西岸沖のサーレマー島にある、風力タービン7基、発電能力6メガワットのサルメ風力発電所にマイニング機を設置し、安価な風力発電を利用して、24時間体制で仮想通貨マイニングをする、とのことです。

APPTIMES:エストニア、風力発電を利用した仮想通貨マイニング開始へ

エストニアはそもそもマイニングに適した場所のようです。

以下、blockhive社がエストニアでマイニングを開始した旨のリリース記事から、引用します。

blockhive: エストニアでのマイニング事業 “Eesti Mining”

多大な電力を使用し、マシンからも大量の熱が放出されるマイニングファームにとって、電気代がヨーロッパの中でも最も低い水準にあること、そして、年間180日以上が平均気温10℃を下回る涼しい気候であるエストニアは、パーフェクトな立地と言えます。

とのことです。
さらに、blockhive社によると、blockhive社がマイニングを行う、PAKRI Science and Industrial Cityでは、マイニングで発生した熱を買い取る仕組みもあり、さらにコストを抑制できるそうです。

さらにさらに、

“Eesti Mining”がユニークな点は、デジタルウォレットアプリケーション“eesty wallet”と連携していることです。当社が2018年にリリース予定の“eesty wallet”のユーザーには、仮想通貨の送金など、アプリケーション経由の取引を完了する毎にESTYトークンが支払われます。トークンはマイニングのハッシュパワー(ハッシュレート)の購入に使用することが可能です。

だそうです。

日本では、電力コストが高く、あまりマイニングが進まないのでは、とも言われていますが、再エネは限界費用ゼロですし、うまく使えれば、日本でも可能性があるかもしれません。

①のブロックチェーンを使った電力P2P取引は、日本でも既に実証は始まっていますし、①②合わせて、エストニアの事例などはいろいろと参考になるところかと思います。

電力などエネルギーって、普段、当たり前に使えるインフラ過ぎて、あまり気に留めないかもしれませんが、今後、ただ使うだけでなく、個人も含めていろいろなプレイヤーが電力を取引し合う、そんな世の中になることでしょう。もちろん、環境にやさしい再エネで。
自然の条件に発電量が左右される再エネだからこそ、それをうまくプレイヤーが互いに取引して融通し合うことがビジネスになり得る、ということですね。

今回のテーマが、「これから深めたいエストニアの◯◯」ということで、ちょっとエネルギー事情を調べてみましたが、もっと、深堀していきたいですねー。例えば・・・
・エストニアのエネルギー事情についても、ぱっと統計数値見て、理由を想像しているだけなので、実態どうなのかなー?とか、
・再エネの普及のために、国の政策は何をしているのかなー?、とか、
・エネルギー関係の新しいビジネスはどんなものがあるのかなー?、とか、
・日本でもできそうな新しいビジネスモデルあるかなー?、とかとか。

興味は尽きませんが、エストニアのエネルギー事情って、なかなか情報が取りにくい所が難しいですね。
今後もアンテナ張っていきたいです。

電子立国のイメージが強いエストニアで、これだけ
”エネルギー分野がエストニアの輸出産業になっている”
って、皆様、意外ではなかったですか??
私はかなり意外でした。ちょっと注目したくなりますよね!?
(まぁ、天然ガスとかは輸入しているんですけどね。)
もっと詳しい情報をご存知の方は、是非、情報交換させてください!!

さて、これでエスホリマガジン木曜担当いけっちの回はひとまず終了です。ご精読ありがとうございました。
第1週から第3週までの他の記事や、他の方の記事も是非ご覧になってくださいねー。
エスホリメンバーでリレー形式で、それぞれの興味を元に書いていますので、誰が読んでもエストニアに興味を持てるポイントが必ずどこかにあるかと思います!

明日は、旅する書評家ゆうゆうさん!よろしくお願いします!

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