モバイルバッテリーを持っていくということ

日本では、新幹線と違い、飛行機では保安検査がある。

保安検査では、私たちが毎日使っているものが、
思いもよらない理由で飛行機には持っていけず、
捨てなければならなくなる。

空港職員はそんな毎日使っているものの、
危険性を説明しなければならないのだが、
理解してもらうのは難しい。

そんなあれこれをするために、
毎日を走り回っている。

そんな一幕


搭乗口にて、アナウンスをする。
「○○行き✕✕便をご利用の̻▢▢様、いらっしゃいましたら、
 搭乗口係員にお知らせください」

私が搭乗口に到着してから、10分
呼び出しはしているものの、お客様はいらっしゃらない。

「お客様いらっしゃいませんね…」
アナウンスをかけていた私に、同僚が声をかけてくる。

「そうだね、まだいらっしゃらないから、
 時間をあけてアナウンスしてみるしかないね」
お客様がいらっしゃらないことには始まらない。

「アナウンスのお客様は何の対応ですか?」
そう同僚が尋ねてくる。

「私のお客様は、開被検査だね」
搭乗口でお呼び出しすることは、いろいろある。
その中でも、開被検査は搭乗口での対応に時間がかかることが多い。

「中に何が入ってました?」
開被検査とは、飛行機の客室内ではなく、
受託手荷物として、預けた荷物に、確認が必要なものが入っていた場合、
搭乗口にて検査することである。
つまり、開被検査をするということは、何かが入っていたということだ。

「…モバイルバッテリー入ってるみたいなんだよね」
そう答えると、同僚の顔が安心した顔になった。

「モバイルバッテリーですか
 よかったー」
モバイルバッテリー以外で開被検査をすることもあるのだが、
物によっては警察沙汰になる。
とりあえず、モバイルバッテリーなら、件数も、対応も多いので、
対応するのは難しくない。
もちろん、お客様が納得してくださるかは別の問題だ。

「また少ししたらアナウンスするね」
アナウンスを回数したとしても、いらっしゃるとは限らない。
それなら、時間を少しあけてアナウンスをしたほうがいい。


搭乗案内をする時刻が来たので、
この○○行き✕✕便の搭乗口責任者から言われる。
「開被検査のお客様はいらっしゃらないけど、
 搭乗案内始めるね」

「了解です!!
 開被検査のお客様から申告あったら、私のところまで案内お願いします」
担当が決まっていないこともあるが、私は開被検査を担当するように、
指示を受けているので、他の同僚には他の仕事に専念してもらおう。


もう一度、アナウンスをしてみるしかない。
「再度、お呼び出しを申し上げます。
 ○○行き✕✕便をご利用の̻▢▢様、いらっしゃいましたら、
 搭乗口係員にお知らせください」

すると、イヤホンを外しながら、
黒いキャップをかぶった男性が同僚に声をかけている。

無線で、情報が流れてくる。
『開被検査のお客様から申告いただきました。
 向かっていただきますので、対応願います』

やはり、先ほど同僚に話しかけていたお客様が、
開披旅客のお客様だったようだ。

『了解しました』
無線に応答し、検査係員に声をかける。

「お客様いらっしゃいましたので、
 準備をお願いします」
私たち空港職員では、検査の資格を持っていない。
検査をするのは検査を専門とする協力会社に依頼をするほかない。


こちらに向かって、黒いキャップをかぶった、
男性がこちらに向かってくる。

「すいません、アナウンスで呼ばれたんですけど…」
そう声をかけていただいた。

「お呼び出し失礼しました。
 預けていただいたお荷物について、確認があり、
 お呼び出しをさせていただきました」
まずは、呼び出しのお詫びしたのち、
なぜ呼び出したのかを説明をしよう。

検査する対象である、ボストンバッグを検査台の上に、
検査員に上げてもらう。
「こちらのボストンの中に、
 モバイルバッテリーが入っているようなのですが、
 いかがでしょうか?」
そう伺ってみる。

「あ、もしかしたら入ってるかもしれません」
思い出したのか、ハッとした表情で、そういった。

「ありがとうございます。
 では、確認をさせていただきますが、
 既に検査済みですので、お手を触れない様、お願いします」
ここで、難色を示される方もいる。

黒いキャップをかぶった男性は、渋々といった感じで、
「わかりました」
と答えてくださった。

検査員が手袋をつけて、カバンを開ける。
「どのあたりに入れたか、覚えてますか?」

検査員が男性に尋ねるが、表情は芳しくない。
「いや、わかんないですね」

検査員が検査結果のシートを見ながら、
どのあたりにあるか、確認をしているようだ。
「おそらく、このあたりにあると思うんですが…」

そういいながら、探すと
名刺入れくらいのメッシュ状のポーチが出てきた。

「これですかね?」
検査員が男性に聴いてみると、思い出したのか、
「あ、そうです」
と答えていた。

バッテリーが見つかったということは、
あとは、容量の確認をするだけでいい。
しかも、あのサイズであれば、容量オーバーということはないだろう。

ポーチを開けて、確認しているが、時間がかかっているようだ。

「どうしました?」
検査員に私が尋ねると、
「容量は確認できるんですが、リチウムイオンか確認できなくて…」
そう検査員の方は、手間取っている内容を教えてくれた。

私も内容を確認してみることにした。
「私も見ていいですか?」
検査員から手渡しをしてもらって、確認をしてみる。

ワット時定格量が160Whではあるようだが、
使われている物質については記載がない。

「お客様、申し訳ありません。
 こちらのモバイルバッテリーですが、確認してみたところ、
 リチウムイオンであるかの確認が取れませんでした。
 そのため、モバイルバッテリーは持ち込むことが出来ません」
そう伝えるしかない。

「え、そうなんですか!?」
黒のキャップをかぶった男性は、面を食らったようだった。

「はい、リチウムイオンを使用しているものであれば、
 容量は問題ないのですが、確認できない以上、
 運ぶことが出来ません」
説明としては、こう説明するしかない。

「え、じゃあどうしたらいいですか?」
運べないということを説明すると、
こう言われることが多い。

「申し訳ないのですが、このモバイルバッテリーは、
 破棄していただくか、陸送を行うしかありません。
 しかし、この✕✕便に乗っていただくには、
 破棄をいただくしか、ありません」
不明な物品を載せることはできない以上、
このような説明をするしかないのだ。

「いや、乗れないのは困るので、捨てます」
男性は渋々といった表情で、そういった。

「ありがとうございます。
 では、同意書にサインをお願いします」
そういって、同意書とペンをお渡しし、記載をいただいた。



さて、今回はモバイルバッテリーを題材にお話しした。

モバイルバッテリーはスマホの普及とともに、
多くの方が持つようになった。

モバイルバッテリーが危険物という認識はないだろう。

機内持込・お預け手荷物における危険物について
というものが、国土交通省のホームページに書いてある。

それにも記載されているが、リチウムイオン電池と書いてある。
しかし、それ以外はダメだとは書いてない。

しかし、リチウムイオン電池が使われているのか、
ほかの物質が使われているのか、確認できない限りは載せられない。

何が使われているのかがわからなければ、載せられないが、
リチウムという物質も安定している物質とはいいがたい。
それは、総務省消防庁が行った検討報告書が見れるくらいだ。

モバイルバッテリーを購入する際には、
・リチウムイオンが使われている製品なのか
・ワット時定格量160Wh以下か
の2点は確認していただきたい。

特に、公式のホームページか説明書、製品自体への印字の
いずれかを確認をお願いしたい。

なお、ワット時定格量の確認方法は、
ワット時定格量(Wh)=定格定量(Ah) × 定格電圧(V)
で計算できる。

しかし、製品によっては、
mAhと表記されている場合がある。
その場合には、
ワット時定格量(Wh)=ミリアンペア(mAh) × 定格電圧(V) ÷ 1000
で計算できる。

こんなことを言っている人がいたと、頭の片隅に置いておいてほしい。


リチウムイオンバッテリーについては、
YouTubeで「リチウムイオン バッテリー 爆発」
など検索するといくつか出てくるので、
ご理解をいただけるだろう。

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