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【インタビュー】逆転の発想からの復活  ~感動する料理を目指して~ ②

前回の記事はこちら。

お客様のニーズに応えない、この指止まれ方式

宮本さんの過去のブログに
「お客様のニーズに応えてきたが、全ての人に好かれるのは無理なので、人の期待に応えたり、喜ばせたりすることを諦めて、自分の本当のニーズを大切にするようになった。すると、去っていくお客様もいたが、自分の思いに共感してくれるお客様に応援されて、結局はお店が上手くいくという経験をした」
ということが書かれていた。
そのことについて問うと、「この指止まれ方式ですね」と答えた。自分が本当にいいと思った食材で、自分が好きな料理を作り、その料理を食べたい人が宮本さんの指に止まるというやり方だ。だから、当然嫌われることもある。

例えば、茶わん蒸しや天ぷらのような昔ながらの日本料理が好きな人もいる。「1万円払ったのにエビフライが入ってなかった」と言われることも。しかし、そこを迷って茶わん蒸しや天ぷら、エビフライを出していたら、自分の本当のニーズを無視することになる。嫌われるのも覚悟の上で、「ごめんなさい」と言って自分が好きな料理を出す。

そんな宮本さんも最初はお客様のニーズに応えていた。それなりの売り上げにはなるが、どこか不自然で、自分たちのやることではないという違和感があった。

大きな転機は東日本大震災だった。
余震が続き、国全体に自粛ムードが漂う中、追い打ちをかけるように計画停電で営業が思うようにできない。客足が途絶えた。そういう時に限って社員はたくさんいる。今までにもピンチはあったが、今回ばかりは店をたたまないといけないという思いが頭をよぎった。社員の方がドキドキして「大丈夫ですか?」と聞くので、「もう貯金もないから給料が払えない。潰れるしかない」と正直に言った。すると、社員の一人が、貯金していたお金を貸してくれた。
「有難く借りました。もちろん返しましたよ。今、その子が地元に帰って、うちのサイトを全部作ってくれているんです。もともとホールを担当してくれていて、PCが得意で、ホームページの会社を自分でやるという話になったので、お願いしました」

震災までは三陸の女川から魚をすべて仕入れていたが、「2時にセリがありますよ」と話した後に一カ月間連絡がつかなくなった。関係者は皆助かったが、全てが流されてしまった。
多くの人が被災地の復興支援をする中、宮本さんは支援どころではなかった。周りには言えなかったが、むしろ自分が支援してほしいというギリギリの状態だった。

逆転の発想から感動する料理を探求

その状態からどのようにして「みや」は復活したのか。
「お客さんが全く来ないんです」と相談をしたときに、「値段を上げてみたら?」とある人に言われた。
「えっ、マジか?!」とお客さんが来ないのに値段を上げてどうするんだと驚いた。すると、「宮本さんがどういうお客さんと付き合いたいかなんだよね」と。
どういう意味なのかを問うと「宮本さんが知らない間に、宮本さんを思っている方がたくさんいるから」と言われて、「そうなのかなぁ」と考える。
ちょうど自分たちのニーズが「美味しい料理を出す」というものだったので、食事を出すのではなくて感動する料理を出そうという思いに変わってきた。感動する料理とは、見た目もそうだが、口に入れた時のギャップ。「ワォ!」という驚きだ。お客様の想像を超えるような料理だと言う。

お客様が感動する料理を作るためにまずやったのは、自分が感動するような料理を食べに行くことだった。口に入れた時のギャップや自分たちが知らない和食を超えた世界に驚き、感動した。フレンチやイタリアンなど、違う世界から学ぶことがたくさんあった。
今でも休日には勉強のために様々なジャンルのレストランに通う。料理はマインドフルに食べるという。左脳的にロジカルに食べると料理はおいしくないからだ。今を楽しむという意識にしないと、職人であり経営者でもあるので、色々なことを考えてしまって全く楽しめなくなる。コース料理を注文して、写真を撮り、あとで振り返る。サービス、雰囲気、時間配分、料理の分量、料理の構成などの全体のバランスを参考にする。そうした探求心が感動する料理を常に更新しているのだろう。

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丁寧な仕事が幸せな社会をつくる

そして、色々なことが丁寧になったという。不特定多数に作る料理は、時間に追われてどうしても雑になってしまう。飲食店の売り上げは客単価×客数なので、客単価が上がったことで客数が減って、丁寧にできるようになった。
それだけではなく、実は売り上げを伸ばすのも簡単だった。1,500円くらいのランチをやっていたころ、どうやったら売り上げを伸ばすことができるかをずっと考えていたが、例えば、夜に2万円のコース料理の方が2名来ると、飲み物込みで5万円の売り上げになる。5万円売り上げをあげるためには1,500円の料理だと33人必要だ。33人お店に来てもらうのと二人お店に来てもらうのでは、二人の方が断然楽だ。
「それに二人をもてなす方が丁寧にできるし、そうするとまた来て下さると思うんです」
ところが33人を相手にすると、顔も分からないし、なかなか丁寧にできない。

方針を変えたことでリピーターが増えたが、嫌われもした。「値段や料理が変わったね」とよく言われた。しかし、「みや」はどこにでもあるような店から唯一無二の店になった。そうすると自ずとファンは付くのだ。

顧客のニーズに合わせて値下げ競争をしている現状がある。すると売り上げも下がり、従業員への給料も下がる。それだけでなく、実は顧客をも不幸にしているのではないか。
西村佳哲・著『自分の仕事をつくる』には、
力の出し惜しみをした『「こんなもんでいい」と思いながらつくられたものは、それを手にする人の存在を否定する。』
『多くの人が「自分」を疎外して働いた結果、それを手にした人をも疎外する社会が出来上がるわけだが、同じ構造で逆の成果を生み出すこともできる。』
と書かれている。
作り手は「どうせ私はこの程度のものしか作れない人間だよね」という仕事をすることになるから自己評価が下がる。受け取り手も「どうせ私はこの程度の価値の人間よね」という感じになる。しかし、丁寧に作られたものは、相手を大切に思う気持ちが伝わり、結果的に社会自体が幸せになっていくことに繋がっているように感じる。

「社員が幸せであれば売り上げが上がる」を実証したい

店をやっていて喜びを感じるのは、お客様が満足そうな表情をして帰って行く時だ。毎日、見送りするときに、本当に美味しかったと思っているか、満足しているかはお客様を見ればリアルタイムに分かる。人は感じていることが顔に出るものなのだ。

経営者として大切にしていることは何か。
「やっぱり社員が幸せになることかな。売り上げが上がるから社員が幸せというのもすごく分かりますが、逆に、社員が幸せだったら売り上げは勝手に上がっていくのではないかという逆説的なことも考えていて。でも、まだきちんと実証できていないので、それは実証したいですね」

「みや」には、他にはない社員向けのサービスがある。一番上のコース料理を社員全員が月に一回試食することができる。宮本さんが目の前で作って、カウンターでもてなす。社員が喜んでいるのが目に浮かぶようだ。自分の店の最上級の料理を味わうことで、間違いなく仕事は変わるだろう。
「丁寧に作られたものを食べるとやっぱり体は喜びます。給料アップももちろん大事なんですが、そういう体験も必要かなと思ってやっています」

自分のニーズにとことん向き合う職人 宮本さんが作り続ける「感動する料理」は、様々な人たちとの化学反応で生まれていた。さらなる進化を目指して、宮本さんは今日も丁寧な仕事をする。

(2019年5月17日インタビュー)

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