ぼくらのなつ。 Part 3
僕らは試合に勝ち続け時が経った。これまで4年生(C)の試合では、大会等はなくただ試合をするだけだったが、5年生(B)からは大会が解禁されることになる。
僕らはこの大会が待ち遠しかった。大会は毎年不定期であったりするのだが、大きい大会は冬と春と夏の長期休みにある。
ただ、正確に言うとこの大会は6年生冬にはない。4年冬、5年春、5年夏を1年とするのだ。要するに、僕らは4年冬から大会が解禁され、6年夏を最後に大会が終わるわけだ。
そんな冬前。正直僕たちは慢心していた。あの翔がいて負けるはずがない。当時は本気でそう思っていた。当然優勝だ、と。
4年生の冬休みに入り、大会が始まった。形式はトーナメントだったりリーグ戦だったりまちまちだ。僕らの最初の大会はトーナメントだった。
ここでこの大会の結果から先に言わせてもらおう。僕らは大会、初戦で敗北した。
僕らがこれまで負けた試合なんて片手で数えられる程度だったのに、大会初戦はあっさり負けた。なんでだ。あんな強かったのに。
しかし理由は明白であった。慢心と緊張である。僕らは翔がいるから勝てる、と翔の上に胡座をかいて余裕ぶっこいていた。そんなんで僕らがいつものプレイをできるはずがない。
また、翔に重圧を背負わせすぎでもあった。翔1人に責任をおわせた形になったから、翔がガチガチになっちゃって、僕らはまともに戦えなかった。
僕らは泣いた。泣きじゃくった。なんで勝てないんだ。こんな気持ち初めて。こんな悔しいのは初めて。苦虫を噛み潰したような苦しい心持ちだった。僕らはこの屈辱を今でも忘れていない。
ここだった。僕らの目が覚めたのは。これまでは真剣な試合でないので翔だけで勝てたが、大会はそうはいかない。それに、野球はみんなでやるスポーツなんだ。1人が頑張ったところでみんな頑張らないと勝てないんだ。
そんな当たり前の事実に気づいてからは僕は猛練習を始めた。毎日素振りを100回をノルマとし、走り込みだってした。とにかくあんな気持ちになりたくなくて。翔にあんな気持ちにさせたくなくて。僕はがむしゃらに頑張ることしか知らなかった。
「絶対、次の春か夏で見返そう」
「今度は俺が翔を勝たせてやるんだ」
これだけを胸に、僕は練習した。この時期が1番頑張っていたかもしれない。
もちろん、ほかのチームメイトも目の色が変わっていた。このままじゃ勝てない。翔に辛い思いをさせてしまう。勝ちに植えていた上、翔を尊敬通り越して崇拝していた僕らは本気だった。
バカのように猛練習を続けた僕らはあのころの僕らではなかった。前より野球が上達したのに加え、精神面でも卓越していた。そんな僕らの気持ちをぶつけることになるのは、僕らが大会として初めて経験することになる、5年生の夏。初めての、ぼくらのなつ。である。
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