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TVアニメ『21エモン』原作との比較

 ここまでTVアニメ全話と劇場版のストーリーをなぞるガイド、そして主要キャラクターの紹介記事を投稿してきました。今回は一連のアニメ『21エモン』記事を書く発端となり、テレビでのアニメ版視聴から30年を経てようやく読んだ原作マンガに関連して、1991年から約一年間放映されたTVアニメ版と、その20年以上前に連載されていた藤子・F・不二雄氏の原作マンガとの比較について述べていきます。これまでの関連記事と同様に、ネタバレ前提でお伝えします。(内容の一部は別記事「TVアニメ『21エモン』キャラ紹介」と重複します。)

キャラクターの外見

 原作を見たときにアニメとの違いとして最も目につくのが、エモンやルナをはじめとした一部キャラクターの外見です。私自身がTVアニメ版を愛好しながらも、なかなか原作を読む気にならなかった理由のひとつに、漫画本の表紙などで目にしたキャラの外見に馴染めなかったことがあります。
 原作の主人公エモンはアニメ版と比べるとかなりコミカルなタッチで、頬に子供っぽい赤丸が描かれ、尖った上唇のとぼけた表情をしています。これは、アニメ版の意志が強く明るい性格の少年に見える、キャッチーなエモンの描き方とは、与える印象がかなり違っています。そしてエモンに限らず人間のキャラクターの等身は全般にデフォルメ気味に描かれ、原作では中学二年生と設定されているエモンや、ルナを始めとした同級生、エモンの母親などは、実年齢よりもかなり幼く見えます。
 このあたり、SF作品であると同時に原則はドタバタギャグコメディとして描かれた原作漫画に対して、コミカルな部分は残しながらも洗練されたデザインに書き換えたアニメ版との違いでしょう。加えて『21エモン』に限らず、同原作者の比較的古い時代に描かれた漫画のアニメ化作品に同じく該当する特徴として、原作から20年という時代の隔たりが反映された結果と考えられます。

主人公エモンの人物像

 今回、原作を読んで全体を通して内容的に最も気になった違いが、主人公エモンの宇宙冒険に対する思いと、自身が21代目として父親に家業継承を期待されているホテルつづれ屋に対するスタンスです。
 アニメ版のエモンは、客足が極端に少ないことで一時は税金や水道光熱費などの支払いも滞るつづれ屋の窮状や、同級生で大ホテル経営者の子息であるルナとリゲルへの対抗心から、時にはホテルを継ぐ宣言をすることもあります。しかしこれは決して本意ではなく、第一話の冒頭から家出して宇宙船に密航しようとするアニメ作品全体を鑑賞していれば、エモンが本当に望む夢は宇宙パイロットとして宇宙冒険の旅に出ることで一貫していることは明白です。そして、エモンが宇宙に対して抱く強い情熱に対しては、後に結婚して妻となるルナもこれに惹かれている様子が描かれます。
 一方で原作版のエモンは宇宙旅行に行きたいといってもアニメ版ほどの情熱を見せるでもなく中途半端で、いざ宇宙に出ても困難に遭うたびに「やっぱり地球が良かった」と後悔することが多く、つづれ屋での安楽な生活を懐かしむ姿がたびたび描かれます。さらにつづれ屋を継ぐ理由についても、アニメ版のようにホテルの窮状を見かねてというより、その多くは楽だからといった消極的な動機にすぎません。
 二つを比べるとアニメ版のエモンは積極的に夢に向かって突き進み、原作では優柔不断で幼さを多分に残した少年と、主人公像の相違は小さくありません。このような違いにも関わらず、アニメ版が小学6年生、原作が中学生と、より言動が幼い原作版のほうが年長になっている設定は、今回原作に対して違和感を覚えたポイントのひとつでした。

地球と宇宙のエピソード配分

 SF作品である『21エモン』を特徴づける要素として、ホテルつづれ屋を訪れる宇宙人宿泊客を中心に地球における出来事を描いたエピソードと、エモンの宇宙(地球外)の旅を描くエピソードのふたつに分かれる点が挙げられます。『ドラえもん』を代表に「日常に不思議な要素が混入する」という原作者にとっての王道パターンをアレンジして舞台を未来に置き換えたのが前者、そして純粋なSF冒険ものを描いたのが後者で、F氏の作品としてはやや異質な構成と言えそうです。
 ここで個人的な話ですが、5年前に久しぶりにアニメ『21エモン』を見直してやや意外だったのが、記憶していたよりも地球でのエピソードが多い、または宇宙のエピソードが少ないことでした。おそらく終盤の三人組の宇宙旅行や、ルナたちとの木星行きのエピソードへの印象や思い入れが強かったためだと思われます。
 ただし、今回原作を読んでわかったのは、原作はこのアニメ版よりもさらに宇宙でのエピソードの割合が低いことです。実際に話数をカウントしてみた結果がこちらになります。
アニメ:17/38話(※ほぼ総集編である最終話を除く)
原作 :17/50話
 全体に占める割合はアニメ版の45%に対して原作が34%と、原作のほうがアニメ版よりも宇宙でのエピソードが少ない構成です。先ほどは私個人の主観として宇宙エピソードのほうが印象に残っているとしましたが、ネット上で挙げられる『21エモン』の有名なエピソードといえば、「ゼロ次元」「寄生するパッピー人形」など、終盤の宇宙における比較的ハードなSF回で、私の印象とも重複するところがあります。原作での宇宙を舞台にしたエピソードの魅力と、その割には全体に占める割合が少ないことから、TVアニメでは宇宙旅行エピソードを多めに構成する結果になったのかもしれません。

ルナの重要度、アニメ版の恋愛要素

 『21エモン』のヒロインは、弱小ホテルつづれ屋に隣接してそびえ立つ巨大ホテル・チェーン、ギャラクシー経営者の一人娘であるルナです。
 原作でのルナはヒロインとして扱われはするものの、どちらかといえば偶然隣に住んでいる少女という程度の扱いで、エモンとルナも互いにあまり異性であることを意識していない様子です。ここでもやはり、原作で描かれる人物像は、中学生という年齢設定より幼く感じます。また、アニメ版のルナが地球でのエピソードで毎回のように登場し、木星旅行にまで自ら志願して同行するのとは違い、原作での登場は限定的です。
 原作ではひとりの同級生に過ぎないルナに対し、アニメにおけるルナは、行動力、洞察力、協調性に優れ、普段は冷静でありながら、ことエモンとホテル・ギャラクシーのことになると積極的な美少女として掘り下げられています。そして最終回でエモンと結婚して夫婦である姿を見せるルナは、原作には存在しない恋愛の要素を持ち込んだキャラクターとして、TVアニメ版には欠かせない重要人物となっています。これは原作で仮にルナがいなくても作品に対する印象がさほど変わらないのとは大きな違いです。
 今回改めてTVアニメ版全話を視聴して気付いたのは、物語序盤での二人の関係性は原作に近かったこと、そしてルナから主人公エモンとへの想いが回を重ねるごとに増していることです。これは、当初は単に漫画の1エピソードをもとに25分弱のアニメのエピソードの尺を埋める目的でヒロイン・ルナを多用していたのが、結果的にエモンとルナの関係性を深める形になったのではないかと推測しています。アニメ版『21エモン』に含まれる淡い恋愛要素は、開始当初はスタッフも想定しなかった展開なのかもしれません。

アニメ版不採用が多いゴンスケ回

 原作漫画からTVアニメ版に採用されたエピソードは、原作全50話のうち22話程度と、その半数にも至っていません。そして採用されないエピソードのうち特に目立つのがホテルつづれ屋でボーイとして働く、本来は芋掘りロボットであるゴンスケの活躍をフィーチャーしたお話です。
 このなかでも、ゴンスケが購入した土地から偶然、天然資源が発掘されて大金を獲得する展開は、この資金で購入したシップでエモンたちが終盤の宇宙旅行に出発する流れに繋がり、原作のゴンスケは宇宙船のオーナーに当たります。一方、アニメ版終盤の宇宙旅行でエモンたちが乗船するスペースシップは、ウキキの木からエモンに贈られた金塊と、ガトミック提供のエンジンによるもので、実質的にエモンの自力によるものです。この点から、ことあるごとに金主であるゴンスケが主導権を握る原作の宇宙旅行とはかなり趣が変わっています。
 アニメ版のゴンスケも金には執着はしますが、原作のゴンスケの守銭奴ぶりはアニメ版を遥かに凌駕するもので、宇宙旅行中も金をバラまいて困難な事態を解決しようとするシーンも見られるなど、徹底した拝金主義者として描かれています。読み手によっては原作のゴンスケはかなり鼻につくキャラクターで、多くの人が目にするTVアニメに直接導入すれば視聴者に嫌悪感を持たれる可能性もあったでしょう。おそらくこのことから、金に固執するゴンスケの姿を描くオリジナルエピソードをあまり採用せず、アニメ版ではロボットでありながら人間臭いアクの強い性格は残しつつも、どこか憎めないキャラクターとしてゴンスケを書き換える選択がなされたのではないでしょうか。

モンガーの可愛さ

 TVアニメ版の魅力のひとつはモンガーの可愛さにあると言って差し支えないでしょう。原作のデザインでは、ややケダモノ的でコミカルさが強調されるモンガー像に対し、アニメでは他のキャラクターと同様に洗練されたキャッチーなマスコットキャラクターに変換されています。
 そして映像作品であるTVアニメとして大きかったのが、後に『ポケットモンスター』で世界的なキャラクターとなるピカチュウの声優を担当することになる大谷育江によるモンガーの演技でしょう。「モンガー」の鳴き声や、語尾に「ムイ」「モア」をつけるモンガー独特の語彙と話し方は、演じ方によっては不自然さや興ざめな印象を与えることも十分に考えられますが、大谷氏が演じるモンガーはあくまで自然で、モンガーの感情を過不足なく視聴者に伝えてくれると同時に、愛玩動物のような可愛さが十全に演出されています。
 アニメ版のモンガーは、エモンの宇宙旅行への情熱と並んで、そのテレポート能力で物語を牽引するだけでなく、もう一人の相棒ともいえる不仲なゴンスケとは漫才さながらのやりとりを見せ、ときにはシリアスに偏る展開を違和感なく緩和させる役目を果たしています。大谷氏と作画演出によるモンガーのキャラクター像と独特の存在感は、アニメ『21エモン』に欠かせない要因で、原作には存在しない特徴のひとつです。

まとめ

 ここまで挙げた以外の原作とアニメの主な違いとして、原作には存在しない、または重要ではないキャラクターの扱いがアニメ版で増える点にあります。ただし、この点については既に別記事の「TVアニメ『21エモン』キャラ紹介」でもキャラクターごとに触れているため、今回の記事では省略します。該当する主なキャラクター名だけ挙げておくと、リゲル(カメキチ)、スカンレー、ハルカ、ルナの父親などがこれに当たります。
 最後にこれまでに挙げた項目を踏まえ、私が見た『21エモン』における原作とアニメ版の主な違いを集約します。
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①作風
 ドタバタギャグが主体の原作に対して、アニメ版はモンガー・ゴンスケのコンビを中心にコミカルさは残しつつも、主人公エモンの宇宙旅行への情熱を前面に押し出し、一部は淡い恋愛要素も追加するなど、複合的な内容に仕上がっている。

②キャラクターの掘り下げ
 全般に出来事の面白さを優先した原作に対し、アニメ版では主要キャラクターの掘り下げや追加キャラの描き込みが為され、エピソードだけではなくキャラクターの魅力を楽しむことができる作品に変化している。

③マイルドさ
 原作からキャラクターの外見を大きく書き換えることで、モンガーやヒロインのルナなど、キャラクターの可愛さを強調したうえで、ゴンスケの守銭奴エピソードを抑えるなど、アニメ版では、より一般に受け入れられやすいようマイルドさと時代の変化を考慮した調整がなされている。
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 原作とアニメ版の比較は以上です。改めて原作に当ったうえで、個人的にはやはり原作ではなくTVアニメ版の『21エモン』を愛好していることから、アニメ版に好意的な比較考察になりました。
 アニメ『21エモン』に関する記事はこれで7本目です。次回、全般に対する雑感や書き残し、まとめなどを綴って一連の記事を締めくくります。

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