『イリアス』と『オデュッセイア』を読み通すための道案内 (3)
対処法
以上のとおり、『イリアス』『オデュッセイア』が読みにくいのは、それなりの理由があってのことである。
では、どうすればよいか。
一つの方策は、『イリアス』『オデュッセイア』を読むことを回避することである。翻訳本を読まずとも、内容が分かりさえすればよい、という場合だ。
この方策でよければ、三つのやり方がある。
一つ目のやり方。
マンガで読む。
『まんがで読破 イリアス・オデュッセイア』イースト・プレス 2011年
マンガで十分という人は、これを読めばよいだろう。
端折られているエピソードはあるが、大きな筋は同じだ。一冊で二作品ともカバーされている。
二つ目のやり方。
別の本を読んで済ませるという方法がある。
手に取りやすいのは、例えば次の本だろう。
阿刀田高『ホメロスを楽しむために』新潮社 1997年
これで、『イリアス』の内容も『オデュッセイア』の内容も分かる。
ただし、これは個人的な好き嫌いの問題であろうが、不要なおやじギャクや鼻につく文章表現が多いので、これはこれで読み通すのに苦々しい思いをするかもしれない。
なお、『ホメロスを楽しむために』というタイトルは、「いきなり読んでもホメロスは楽しめない」ということが含意されているようで興味深い。
三つ目のやり方。
映画を観て済ませるという方法がある。
手に入りやすいものとして、
『トロイ』 2004年
がある。
この作品は『イリアス』に対応している。
主役のアキレウスを演じるのはブラッド・ピットだ。
ただし『イリアス』よりもカバー範囲が広い。(いちおう、開戦の発端からトロイの陥落までが描かれている。)
けれど、いきなりこの映画を観てもチンプンカンプンで、『イリアス』のことが分かったという気持ちにはならないだろうと思う。
なぜなら、まず、登場人物が多い。誰が誰なのか、誰が敵で誰が味方なのかを把握するので精一杯だろう。
その上、かなり重要と思われるストーリーが改変されている(例えば、どの武将がどの場面で死ぬといった類い)。だからこの映画は、原作を読んだ人には評判が悪いだろうと思う。
アキレウスがパトロクロスの敵討ちとしてヘクトルとの対決に勝利し、木馬の策略によってトロイを陥落させるところがクライマックスである。そこに、敵から獲得した女・ブリセイスに対するアキレウスの想いが重なるが、なぜにそれほどまでにブリセイスのことを大切に思うのかが分からず、感情移入できない。
しかし、『イリアス』が描いたトロイア戦争の雰囲気を味わうにはよいだろう。
続いては、
『ユリシーズ』 1954年
この作品は『オデュッセイア』に対応している。
イタリア映画である。オデュッセウスをカーク・ダグラスが演じている。
こちらも大筋においては原作と同じである。
ただし、二時間に満たない作品。コンパクトになるよう、ストーリーが改変されている。特に、王妃ペネロペが、汚らしい物乞いの男が夫・オデュッセウスだと気づく重要なエピソードが省略されている。
しかしながら、『オデュッセイア』はどういう話かを手っ取り早く把握するには良いだろう。
(次回に続く)
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