『イリアス』と『オデュッセイア』を読み通すための道案内 (9)
『オデュッセイア』の大枠
『オデュッセイア』はトロイア戦争終結後の話である。
だから、トロイア戦争それ自体とは切り離して読むことも可能ではある。
ただし、折々に言及される内容が、戦争のあの場面この場面に関することだから、それらを知らないとチンプンカンプンで、置いてきぼりにされる感じを受けるだろう。
筆者は、物語としては『オデュッセイア』の方が『イリアス』より面白いと思う。『イリアス』の方は戦史だから、淡泊なのだ。
だから、時間の順序は逆になるけれど、『イリアス』の前に『オデュッセイア』を読む方が良いかもしれない。
『オデュッセイア』のテーマは前に述べたとおりである。
イタケの王・オデュッセウスが自分の国に帰還するという話なのだが、同時にそれは、祖国に部下を連れて帰るのに失敗するリーダーの話でもあり、知略に長けた男が困難を乗り越える話でもあり、息子テレマコスの成長の話でもあり、夫の帰りを待つ妻が貞淑を貫徹する話でもある。
二点ほど補足する。
オデュッセウス王が不在の間、イタケ国は無法地帯のようになっている。オデュッセウスの妻・ペネロペに対して求婚者がやってきて再婚を迫り、狼藉を働く。
これには、女は一人では生きられないという時代背景がある。
未亡人は再婚しなければならない慣習だった。
ペネロペは、夫が生きているか死んでいるか分からないので、宙ぶらりんの状態にとめおかれているわけである。そこに有力者たちが再婚を迫って、連日やって来ているという状況である。それをペネロペは引き延ばして、織物を織ってはほどいてを繰り返して三年を稼いだというわけである。これが一点目。
二点目。
当時は、ゼニア(Xenia)と呼ばれるもてなしの習慣があった。
これは、等しい身分の者どうしの間で、食事や贈り物を分かち合うというものだ。そのとき、相手が誰かということは問わない。尋ねるとしても、それはもてなしが終わった後だ。
だからオデュッセウスは、行く先々で見た目で高貴な人と判断されて、自分の身元を明かすことなく手厚いもてなしを受ける。イタケのオデュッセウスの館でも、相手が来れば、まずはもてなしをするのである。それが、嫌な求婚者であっても。
登場人物
ここでは先に挙げた人物以外で『オデュッセイア』に登場する人物・怪物を書き足すこととしよう。
(次回に続く)
最後まで記事をお読み下さり、ありがとうございます。賜りましたサポートは、執筆活動の活力とするべく大切に使わせていただきます。