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『UMAJOに魔法をかけられて』〜エピローグ〜"UMAJOに恋は難しい" 競馬小説

「ただいまぁ!おーい!
あるじが帰ってきたぞぉ」

日曜の父はいつも
夕方5時頃帰宅する

そして‥
必ずと言っていいほど‥


「今日もお土産だ!ほらっ!愛してるぜぇ」


私にお土産をくれる

1円の価値にもならない‥

私の名前の入った
ハズレ馬券を‥


今日は「ミカエルパシャ」だった

ハズレでも嬉しかった


「美香は当たらない」
(事故に遭わない)
という意味らしい


そんな父のハズレ馬券御守りを鞄につけて


今日もコンビニの仕事に向かった

私はこの仕事が大好きだ



毎日たくさん人と
触れ合えるから


そして‥



そのたくさんの中に




気になる人がいるから‥


その人は毎日のようにやってくる‥

"月曜日"は必ずやって来る


入り口のガラス越しに
彼を見つけた‥

今日も必ずお店の前で
ゴミを拾って‥


店に入る時も‥
他のお客さんが入りきるまで
必ず扉をキープして‥


その自然な優しさに癒された


そして今日も‥
お決まりの少年ジャンプを
ワクワクした顔で持ってくる

その顔は表紙の主人公と
同じ顔をしていた

合わせて彼は毎日
必ずコーヒーを買う

それを知っている私は
言われる前に
紙のコーヒーカップをレジに置く


彼と目を合わせたいのに‥
私の圧力のせいか


彼はいつも私の顔すら見ずに
お会計を終える‥


そして、甘いコーヒーが好きなのか
いつも砂糖を3つも入れる


だから、時々私は彼に見えないように
コーヒーマシンに

魔法のおまじないを唱える
"コーヒーがもっと甘くなりますよぉーに"

「気の利くお姉さんは
 今日も相変わらず美人すねぇ!

いつも来るお客の刑事さんが
お会計をしながら言ってきた


『毎日言われても
嬉しくありませぇぇん!』


彼に聞こえる様に言った
1回でもいいから彼の口から聞きたかった

でも‥そんな事は叶わぬ願いと
わかっていた‥


なぜなら私は‥


"UMAJOだから‥"


競馬が趣味の父の影響で
物心ついた時から見ていたのは
いつも土日の競馬中継

一年中見せられる父の実況つき
競馬中継に加えて

平日は父のダービースタリオンという
ゲームに付き合わされる‥

大好きな父のスパルタ教育により
いつの間にか
私も競馬の面白さにのめり込み

気がつくと予想も結構当たる
"UMAJO"になってしまった‥

もちろんこんな私に彼氏なんか
できるわけもない‥


この前友人の淳子に無理やり誘われた
合コンでも

『はじめまして‥名前は
"菅原美香"といいます。
趣味は競馬です!
好きなタイプは福永祐一さん
好きなYouTubeは
"ニートボクロチキン"です!』

‥‥‥

「おっ面白い子だね‥」

一発芸がスベッたような空気を感じ‥
ボケてもいないのに面白いと言われた‥

その後も周りの話に
ついていけない状況が続き‥
勇気を出して私から話題を振ってみた

「WBCの感動!感動といえば!
福永騎手の引退レースですよね!
2018年ワグネリアンとの
ダービー制覇は神騎乗で
感動しましたよね!?」

‥‥‥。

ボケてもないのにまたスベッた。

「ほ、本当にミカさんは
 ギャンブルが好きなんだね‥」

そっか‥そうだよね
一般的には
競馬=ギャンブルか‥

私の中で競馬は"ギャンブル"ではなく
"趣味"だった

競馬が大好きな私だが
馬券は買ったことがない‥

まぁ‥20歳になるまではもちろん
買うことができないが‥

小学生の頃から見てる私は
馬券を買わなくても楽しめた
そのなごりからか‥
今まで一度も馬券を買った事がない‥

こうして‥

生まれて初めての合コンに参加した私は
"UMAJO"の厳しさを
改めて思い知らされた‥

"UMAJOに恋は難しい‥"


季節は秋

緑色の制服は似合わなく気分が落ちた

それに加えて
いつもの赤い帽子のおじさんが大声で

「おいっ!
 エリザベス特集どこだ!?」

と先輩を困らせていた‥

エリ女は11月2週目だから来週だってのに‥
すぐにわかった私は

『エリ女は来週ですょー!』

レジから聞こえるように
大声で教えてげた

なんとか落ち着いたので安心していると
突然彼が目の前に現れ驚いた!

彼に言われる前に急いで
紙のコーヒーカップをレジに置いた‥


そんな時だった

「‥なんか‥大変そうでしたね‥」

突然の彼からの一言

あっ!さっき大声で『エリ女』と
大声で言った事を思いだした‥


競馬が詳しい女とバレてしまい
恥ずかしかったが‥

もう逃げきれない‥
豪快にフラれてしまえ!

私はヒカれるのを覚悟し
周りに聞かれないよう口を隠して
小さな声でカミングアウトした

『ごめんなさい!私‥実は‥
"UMAJOなんです‥"』

「‥‥MAJO‥‥!」


私のカミングアウトに
彼は驚いてる様子だった‥

"あーー!最悪やー!やっぱりオワター!
ギャンブル好きの女と思われてるー!
こんなギャン好き女のコンビニなんて
もう絶対来ないやん!"

心の中でショックを受けていると


「私も競馬大好きです!」


キセキだった‥

まさかの彼も競馬ファン‥

こうして
お互いが大好きな競馬のおかげで
彼と毎日話せるようになった‥


"G1の話"

"クラシックの話"

"伝説の名馬の話"

凱旋門賞の話やイクイノックスの話

たくさんの競馬の話をした

そしてたくさん彼と
話してわかった事


『君は競馬をやらない』
という事‥


どこかで聞いたフレーズだった

店内で流れるラジオから
あいみょんの懐かしい曲が流れてきた

"僕も競馬大好きです!"

彼が言ってくれた言葉は
社交辞令だとすぐにわかった‥

牡馬を「オスウマ」と言ったり‥

栗東を「クリヒガシ」と読んだり‥

菅原明良騎手を「アイドル」と
勘違いしたり‥

確信したのは‥彼の名前だった‥
"蛯名大成"おいおい!
騎手丸出しのフルネームに思わず
笑ってしまった‥

昔の騎手と最近の若手騎手は
知らない事で‥
彼が競馬をやらない事は
あきらかだった‥

それでも私は毎日競馬の話をした

競馬をやらないと知りながら‥
気づかないフリをして‥

私は話を合わせてくれる
彼の優しさに甘えた‥


"君は競馬なんてやらないと
思いながら‥
少しでも僕に近づいて欲しくて"

11月2週目の"エリ女"当日
今日も彼は今まで買ってなかった
社交辞令のスポーツ新聞を持ってきた‥

すると、彼は下を向き
スポーツ新聞を下にむけ
何やら見たことのある構えに入った

"もしや‥この構えは‥"


わたしは急いでバーコードスキャナーを
ストップウォッチのように持ち‥
彼の構えに備えた

「ブレイディベーグ!」

予想通りの彼のセリフに続けて

「0.37秒っ!最速です!」

絶対に"UMAJO"の私にしか出来ない
完璧な対応だった‥

それよりも競馬をやらないはずの彼による
"ニートボクロチキン"
お決まりのやりとりに驚いた‥

"ニーボカー"で良かった
名札につけたニーボクの2人に感謝した

そして、店を出る彼の背中に
"めちゃめちゃ勉強しとるやん!"と
聞こえぬぐらいの声で
褒めてあげた‥

それから新たな年を迎えて‥
"ニートボクロチキン"のおかげで
彼との距離も一気に縮まり

そろそろ"ミカ"と呼んで欲しく
なってきた風が強い1月末

重賞でも競馬をやるように
なった彼はいつも通り新聞を広げて
"ニートボクロチキン"の真似をしてきた

今回はその後
ネクロマンシー中井の
"印"でてますのお決まりネタを
新たにしていたが‥

めちゃめちゃ下手くそで笑えた
今度‥私がお手本を見せてあげよう‥


「今日の根岸S楽しみですね!」

彼でもいける話題をふった

「はいっ!楽しみです!
 フェブラリーに繋がりますからね!」

彼の顔はそんなに
楽しみそうではなかった‥


私は反省した


G1じゃないG3は
彼には荷が重かったかぁ‥


それでも本音は‥
その1つ前に行われるレース
"節分S"を話題にしたかったが

3勝クラスレースなんて
競馬をやらない彼が知ってるはずもなく
話題には出来なかった

こんなレースを話題に出来るのは
私の父くらいだ


そして‥

今日も帰ったら‥


また‥私の名前入り御守りが
1枚増えるんだろうなぁ‥


私は溜め息をついた


夕方4時過ぎ

店内ではスピッツの懐かしい曲
"愛のしるし"が流れていた‥

彼が今朝ニーボクの真似をした
下手くそ"印"を
思い出して笑ってしまった

あと少しで仕事が終わろうとしていた

その時‥


ドアの前にスーツ姿に
着替えた彼が立っていた

夕方のまさかの本人登場に
私は驚いた


深呼吸をした彼はドアを開けて

私の前に来た


胸を何度も叩き
胸ポッケから
名刺の様なものを出しレジに置いた


すると彼は私からペンを借り名刺に
何かを書き込み

「良いでしょうか?」

と言い名刺を私に向けた

それは、名刺ではなく馬券だった

今日本当は話したかった
"節分S"の


"ミカッテヨンデイイ"に
『?』が書き足された馬券だった

真剣な顔で私を見る彼



『ミカッテヨンデイイ?』


美香って呼んでいい?



意味がわかったあまりの嬉しさに

顔が赤くなったのが自分でもわかった


そしてコンビニで身につけた
上手い返しを思いつき

ペンで"?"を消し

新たに"!"を書きたした

「美香って呼んでいい!」


早く呼んで欲しかった


赤い帽子のおじさんが
後ろで会計を待っていたが
無表情な真顔先輩に任せた

意味がわかった彼は
少年の様に喜び
ジャンプし

無表情真顔先輩に抱きついていた

彼の目に涙が溢れていた

でもこれは"嬉し涙"ではないかも知れない


私は確かめた


「ちゃんと呼んでくれるんですよね?」


彼は小さな声で


『みか‥‥‥さん』


"さん"かよー!と
思ったがその度胸の無さが
彼らしくて良かった


どれだけ彼に度胸が無いか
ネクロマンシー中井の"印"
で教えてあげた


我ながら上手かった
"度胸無い印に"
無表情な真顔先輩も少し笑っていた


彼からもらった御守りを手にとり


通勤鞄につけていた
馬券キーホルダーを開けて

父の御守りの裏に
彼の御守りを入れた


彼がしきりに
御守り馬券を誰からもらったか
気にしてたが教えなかった


私は2枚の御守りに守られながら

家路についた‥

『ただいまぁ!おーい!
あるじが帰ったぞー!
美香ちゃん!今日も愛してるぜぇ』


「ハズレたでしょ!?」

『正解!』

結果はもちろんわかっており

予想通り御守りが飛んできた

"ミカッテヨンデイイ"の
ハズレ馬券‥

私の山のように積まれた
御守りコレクションは
今日だけで2枚増えた‥


ハズレ馬券は"愛のしるし"

1円の価値にもならない
ハズレ馬券でも‥

私を想って買ってくれてる


"それだけで愛のしるし"


いつか聞きたい

彼からの

『愛してるぜぇ』
言う姿が想像出来なく笑えた



〜エピローグ〜
【UMAJOに恋は難しい】

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