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僕は剣道が嫌いだ。

悪口を書こうと思う。剣道は素人のまま逃げ出した身なので、有段者が見たらおかしな内容もあるだろうが許してほしい。
僕個人の体験であり、すべての人に当てはまるわけではないのも分かった上で読んでください。

僕は元々そんなにスポーツマンではないが、中学の頃はゆるめの運動部に入っていた。高校に進学すると、いろんな運動部がブラックと聞いたため文化部の幽霊部員になっていた。
友達もいない高校生活であったが、自分なりには楽しかった。高校3年の7月、運動部が引退して受験勉強にエネルギーをシフトする時期に、なぜか僕は剣道を始めることとなった。

 私の住んでいたところは、九州という地方だからなのかはわからないが剣道が盛んに行われている地域だったと思う。田舎ではあるが、それなりに剣道人口がいて、剣道教室もサッカースクール並にあったのではないかと思う。小学校の級友に剣道をやっているという人は割といたように思うが、詳しいことは覚えてない。
剣道を始めるに当たり、インターネットで地域の剣道を教えてくれる場所を探した。「大人でも大丈夫!初心者未経験者歓迎」というバイトみたいな誘い文句をホームページに掲げた剣道場に見学に行き、習うことを決めた。

最初は、面や胴など打つときのフォームを習った。おじいちゃん先生がとても優しく教えてくださったが、とても楽しかった。型という決まった流れの演舞のようなものも教えてもらい、それらだけやっているうちは幸せだった。
不思議なのは、大人も誘っているホームページなのに、肝心の大人は有段者の指導者たちだけで、他は小学生、たまーに中学生がいるような感じであったため、同年代がいない僕はなかなか浮いていたように思う。

週2-3回の自由参加であったため、僕は週2で道場に通っていた。そんな生活を1ヶ月過ごせば、おじいちゃん先生は家の都合で来れなくなることもあり、僕は子どもたちに混ぜてもらって指導者の先生方に教えてもらうこととなった。といっても、指導者が一対一で教えられる程の人数はいないため、交代制ではあるが小学生とやる機会も多かった。
相手は小学生とはいえ先輩なので、吸収できることはしようと努めた。
8回面を打つと、8回面を打たれるというものや、切り返しという斜め(頭の上から30度くらい左右)から左右の面打ちをするというやつ、後は前後にステップしながら面の素振りをするというもの(日向坂で会いましょうの初回らへんで丹生明里さんがやっていたと思う。)が、恐らくルーティンだったと思う。
8回の面打ちの時に、先生を習って体格差があるときは少し屈んだりして打たせやすいようにしていたが、そこでガキ大将キャラの田島くんは僕の後頭部にわざと面を打った。防具の下でくすくすしているのは明らかであったが、隣りにいた先生は何も言わない。8回もされれば、頭の周りに星とひよこがグルグル回り始めた気がした。クソガキ、ではなく田島くんの快進撃はそれだけではなかった。
左右の切り返しの面打ちは斜めよりやや立てた方向から右左右左と相手が構えた竹刀に向かって打つ。斜めから。田島くんは90度寝かせた状態で竹刀を振り回しており、その様はヘリコプターみたいだった。当然「横からくるぞ、気をつけろ!」なんて言われてないから、僕の側頭部にガンガン当たった。終わったあと、僕の丈夫な鼓膜に心の中で感謝しつつ、(こんな剣道もあるのかな)と思っていた。当然ヘリコプター、じゃなくて田島くんはニヤニヤ笑っていた。対照的に隣りにいた指導者は静かにしていた。なにか弱みでも握られてたのか?とは思わなくもないが、取り敢えずそのままヘリコプターみたいにどっか飛んでけという僕の願いは、オスプレイのようにデカい田島くんのグラマラスボディが重りとなって阻んだのだと思う。
そして前後のステップの面打ち。下って構えて前にステップして打つ、というものだが、これは相手に打つのではなくその場で打つものであった。期待を裏切らない田島くんは、ピョンピョンジャンプしながら竹刀を振っていた。流行りのエアロビなのかズンバなのか、いやいやここは剣道場であれば防具をつけている状態だ。エクササイズたじ、いや、田島くんはここだけは真顔でやっていた。
こんなウォーミングアップを毎回やっていた。指導者は小学一年から始めたらしい剣豪の田島くんに何も言わない。田島くんは六年生であり、周りの小学生のリーダー的な立ち位置で威張っていた。そして、「あの下手くそは、」と僕のことで悪口を言っては、仲間内でクスクス笑っていた。田島くんの他にも、"いい性格をした"小学生が数人いたが、大体田島くんに剣道の綺麗さを少し足した小学生といったところなので割愛する、といっても、結構ヘリコプターだったし、肝心の型もおざなりであった。不思議なのは、一番汚い剣道で特に連戦連勝の剣豪でもない田島くんがリーダー格であったことだ。恐らく経験年数なのだろうか。

田島くんや他の小学生にはよく教えていただいた。道場の清掃は、初心者にだけやらせること、初心者や新参には排他的であること、胴を打つときは野球のスイングを意識すること、小手は相手の小手(防具)ではなく、肘と手首の間の防具がないところを思いっきり叩くこと。
ある時、お母さんに「道場のモップがけしなさい」と言われた田島くんは、「あいつ(ぼくなどの初心者)にやらせればいいじゃん」と言って見事にお母さんに怒られていた。そしてその怒りをヘリコプター全開で僕にぶつけていた。僕が帰るときも、挨拶を無視し、僕に聞こえるように小学生同士が悪口を言っている。その気になれば、体格が勝っている僕が力一杯竹刀で叩くことも出来ただろうが、大人げないので一切しなかったけど、今だったらもっと怒っているかもしれないなぁ。。。

実は、僕の他にもう一人、50歳くらいの優しそうなおじさんも同時期に入門していた。名前を駒井さんという。駒井さんは寡黙であったが、悪い人ではなかった。高校の授業でやったことがあっただけで、最近思い立って入門したと言っていた。
しかし、小学生の横暴は駒井さんにも災いし、駒井さんは冬将軍が来る前には来なくなってしまっていた。

小学生を注意しない指導員の先生方は、表面上は優しかったかもしれない。いや、数人除いてそんなに話したこともないのだ。ある指導員は、小学生の適当な「め〜ん」という間の抜けた掛け声を見過ごし、僕の精一杯の「メエエエエエエン!!!!」に「声が小さい!」と何度もやり直しをさせた。愛なのだろうか、いや、叱るだけで何も改善点を言わない人だったからそれはないかもな。ある時は声の小ささに怒り、思いっきり竹刀で頭を叩かれた。面を打たれたのかもしれないが、頭はゴツーンといたく、それでやり直しさせられている僕を田島くんは聞こえるように馬鹿にしてきた。
ある指導員は気分にムラがありすぎた。聖人君子のようであったが、虫の居所が悪いと初心者勢の僕と駒井さんに静かにキレている感じの指導をしていた。
指導者はみな、小学生が我流の剣道をしてることに目を瞑り、悪口を平気で言っているのを聞こえないふりであった。剣道は武士がルーツであろうし、剣道の教えはもっと崇高なものだろうと思うが、へっぽこ剣士の横暴が日常な剣道場であった。指導員同士も年齢や経験年数、段位がバラバラであり、お互いに切磋琢磨しているというよりは個人プレーであった。
週2-3で週1からの参加でOKな教室という説明であったが、週2以上来ないと無視に近いことを指導員にされたこともあった。大人げない。こんな時期に始めた僕も悪いが、受験が近く模試で土日潰れることもザラであったため、週1でしか行けないときもあった。そういうときに限っておじいちゃん先生はいないし、小学生はヘリコプターでオスプレイみたいに飛んでいってくれないし、指導員には気に入らないのか目をつけられ教育という名のシゴキが入る。僕は嫌になったので、年末でやめたと思う。正確に言うとフェードアウトした。流石に共通一次前だったし、その後は二次試験の勉強もしてたし。
剣道が嫌いになったのは、以上の流れがあったからだ。それでもできる限り通って、苛立っても人にぶつけないで対外的には平静を装っていた自分は偉いと思う。他の受験生が追い込みをしてる中、僕は型を森林公園の中で練習していたりしたときもあった。いい経験であったが、結局初心者も歓迎しなければ新参者はいじめに合う排他的な世界に嫌気が差した。
受験が終わったあとに、剣道経験者の人にこのことを話す機会があったので話したが、どこも似たような感じだという。武士道とはなんだろうか、剣道はしごきやいじめも剣道なのか、こんな世界なのか、そう思うと、剣道に興味を持った頃とは大分印象が変わった。
もちろん世の中すべての剣道場がこうではないと思う、実際知らないので、こうではないことを祈る。ただ、僕の入門した道場はだめだった。脱走した僕は浪人であるかもしれない。ちなみに受験は浪人せずに済んだので良かった。

受験後、僕は一つ思ったことがある。結局剣より銃の方が強いのでは?と。いつか田島くんが剣を持って襲ってきたときは、ショットガンでらくらくと応戦してあげようと思い、初心者向けのショットガン教室をインターネットで検索した。勿論そんなものはなかった。代わりに自動車学校に通い、田島くんの剣VS僕が運転する車の異種格闘技戦が行えるようになったとさ。

なぜこれを書こうと思ったかというと、この前たまたま剣道場の近くを通ったときに、ドクターヘリの音がして思い出したからだ。思い出すとムカつくが、所詮新参者にできる抵抗などなにもないのは今も変わらず思っているため、こうしてノートに書いた。
田島くんは今頃どうしてるのか、立派なヘリコプターになれたのかな、と思ったところで今回は終わろうと思う。相変わらずしまりのない文章は御愛嬌。

 追記
リトルバスターズ!というゲーム、アニメで宮沢くんが剣道をやっていたときに「めーんじゃなくてまーんっていってるだろwww」みたいな書き込みを見たことがあるけど、有段者の方は「ウェェェェェェェェ!!!」っていう人もいたし、「デァァァァァ!!!」っていうリンクみたいな人もいた。僕は「メエエエエエエエン!!!」と「マアアアアアアン!!!」の間くらいだったと思う。これでも必死だったんだけどね。

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