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人事労務担当者のための労働法解説(5)

【採用について】
普段何気なく採用活動を行っていると思いますが、採用には意外なリスクが潜んでいますので、注意が必要です。

1 採用とは?


 労働法の場面において、採用とは、使用者が労働者からの契約締結の申  込みを承諾し、労働契約を締結することをいいます。
 いったん労働契約を締結すると使用者による一方的な解雇が厳格に制限されている日本においては、より良い人材を採用したい、反対に問題のある人物を採用したくないという考えが働くことは当然のことです。
 労働契約も契約の一種である以上、契約締結は自由であることは当然ですが、他方で、労働法独特の規制もありますので、注意が必要です。

2 使用者側に採用の自由はあるのか?


 古い判例ですが、最高裁昭和48年12月12日判決(三菱樹脂事件判決)は、

   「憲法は、思想、信条の自由や法の下の平等を保障すると同時に、他方、 二二条、二九条等において、財産権の行使、営業その他広く経済活動の自由をも基本的人権として保障している。それゆえ、企業者は、かような経済活動の一環としてする契約締結の自由を有し、自己の営業のために労働者を雇傭するにあたり、いかなる者を雇い入れるか、いかなる条件でこれを雇うかについて、法律その他による特別の制限がない限り、原則として自由にこれを決定することができるのであつて、企業者が特定の思想、信条を有する者をそのゆえをもつて雇い入れることを拒んでも、それを当然に違法とすることはできないのである」

と判断しています。
 
 この判断のポイントは、
   
①いかなる者を雇入れるか、いかなる条件でこれを雇うかについては、原則として自由であること(採用の自由)
     
法律その他特別の制限がある場合には、採用の自由も制限されること

であり、採用は原則として自由だが、法律その他特別の制限がある場合は例外的に採用の自由が制限される場合があることを示しています。  

3 採用差別になる場合はどのような場合か?


 採用の自由に対する法律上の制限として、労働基準法3条は、

「使用者は、労働者の国籍、信条又は社会的身分を理由として、賃金、労働時間その他の労働条件について、差別的取扱をしてはならない。」

として、差別の禁止を定めています。
 
 国籍に関しては、国籍や本名を秘匿していたことを理由とする差別的取り扱いを違法とした裁判例があります(横浜地裁昭和49年6月19日判決)。
  
 信条には、政治的信条と宗教的信条の両方を含みますが、労働基準法3条は、特定の心情を有することのみをもって差別的取り扱いをすることを禁止するものなので、特定の信条を有すること自体を理由に求人の条件とすることは本条に反することになります。
 もっとも、信条に基づく労働者の行為が企業秩序を侵害する場合(職場内での過度の布教活動等)について、懲戒の対象としておくことはあり得るでしょう。

 採用時における具体的な注意点については、厚生労働省ウェブサイト内の「公正な採用選考の基本」というページでまとめられているので、参照されるとよいでしょう。

4 年齢差別の禁止?


 雇用対策法10条は、

「事業主は、労働者がその有する能力を有効に発揮するために必要であると認められるときとして厚生労働省令で定めるときは、労働者の募集及び採用について、厚生労働省令で定めるところにより、その年齢にかかわりなく均等な機会を与えなければならない。」

と定めており、募集や採用の際に、年齢制限を設けることは、原則として禁止されています。
 
 年齢制限の注意点や年齢制限の例外については、厚生労働省ウェブサイト内の「募集・採用における年齢制限禁止について」というページでまとめられているので、参照されるとよいでしょう。

5 男女差別の禁止?

 
 男女雇用機会均等法5条は、「事業主は、労働者の募集及び採用について、その性別にかかわりなく均等な機会を与えなければならない。」として、募集や採用の際に、男女差別を行うことを原則として禁止しています。  

 具体的に、以下のような対応をとると違法となります。

①募集・採用の対象から男女のいずれかを排除する
②募集・採用の条件を男女で異なるものとする
③採用選考において、能力・資質の有無等を判断する方法や基準について男女で異なる取扱いをする
④募集・採用に当たって男女のいずれかを優先する
⑤求人の内容の説明等情報の提供について、男女で異なる取扱いをする

 また、以下のような対応をとることは直接的な差別ではないが、実質的に男女差別につながるもの(間接差別)として禁止されます(男女雇用機会均等法7条)。

①募集・採用に当たって、労働者の身長、体重または体力を要件とする
②労働者の募集・採用に当たって、転居を伴う転勤に応じることができることを要件とする

6 まとめ


 以上のとおり、使用者には、原則として採用の自由があるといえども、各種の法律上、採用差別等が禁止されていることには十分注意すべきです。
 採用差別に該当する事項について採用面接等で触れることは、不法行為として損害賠償請求されるリスクもあるため避けるべきでしょう。
 そこまでいかなくとも、昨今では求人サイトの口コミなどに「あの企業の面接で○○について聞かれた」などと書き込まれたりすることで、採用活動に悪影響を及ぼす場合もあり得ますので、このような観点からも注意が必要といえるでしょう。

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