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人事労務担当者のための労働法解説(11)

【休業手当について】
労働基準法26条に休業手当の定めがあります。
どのような場合に休業手当を支払う必要があるのか、いざというときに焦らないためにも、きちんと押さえておくとよいでしょう。

1 休業手当とは


労働基準法26条は休業手当について以下のように定めています。

(休業手当)
第二十六条 使用者の責に帰すべき事由による休業の場合においては、使用者は、休業期間中当該労働者に、その平均賃金の百分の六十以上の手当を支払わなければならない。

ノーワークノーペイの原則からすると、休業している場合には賃金請求権は発生しないことになりますが、労働者の生活の不安定さを緩和することを目的として、「使用者の責に帰すべき事由による休業」の場合には、平均賃金の6割以上の休業手当の支払いを使用者に義務づけたものです。

2 休業手当の発生要件と罰則


労働基準法26条によれば、休業手当の発生要件は、

① 使用者の責に帰すべき事由によって

② 労働者が休業したこと

です。

この①、②の要件を満たすことによって、使用者には、休業した労働者の平均賃金の6割以上の休業手当を支払う義務が生じることになります。

労働基準法120条1号は、休業手当の支払い義務に違反した場合の罰則として、30万円以下の罰金に処すると定めています。

3 「休業」とは


労働基準法26条における「休業」とは、労働契約が存続していることを前提として、労働義務のある時間について労務提供が履行されないことです(昭和24年3月22日基収4077号参照)。

人数、期間を問わず、労働日の一部について労務が履行されなかった場合も含まれるとされています。

4 「使用者の責に帰すべき事由」とは


実務上問題となるのは、「使用者の責に帰すべき事由」の解釈です。

この点について、ノースウエスト航空事件判決(最高裁昭和62年7月17日・労働判例499号6頁)において、最高裁は、以下のとおり判示しています。

「使用者の責に帰すべき事由」とは、取引における一般原則たる過失責任主義とは異なる観点をも踏まえた概念というべきであつて、民法五三六条二項の「債権者ノ責ニ帰スヘキ事由」よりも広く、使用者側に起因する経営、管理上の障害を含むものと解するのが相当である。

ポイントは、「債権者の責に帰すべき事由」(民法536条2項)よりも広く、使用者側に起因する経営、管理上の障害を含むという点です(民法536条2項の「債権者の責に帰すべき事由」とは、故意・過失または信義則上これと同視すべき場合とされています)。

つまり、労基法26条の「使用者の責に帰すべき事由」には、使用者に過失がない場合(親会社、元請け、取引先等の事情)も含むことになります。


他方で、不可抗力(自然災害等により被災したなど)の場合には、「使用者の責に帰すべき事由」に当たらないことは争いがありません。どこまでの事情であれば不可抗力といえるのでしょうか。

この点については、令和元年に発生した台風19号の際に、厚生労働省がQ&Aを出しています。

Q1-5  今回の台風により、事業場の施設・設備は直接的な被害を受けていませんが、取引先や鉄道・道路が被害を受け、原材料の仕入、製品の納入等が不可能となったことにより労働者を休業させる場合、「使用者の責に帰す
べき事由」による休業に当たるでしょうか。

A1-5  今回の台風により、事業場の施設・設備は直接的な被害を受けていない場合には、原則として「使用者の責に帰すべき事由」による休業に該当すると考えられます。ただし、休業について、①その原因が事業の外部より
発生した事故であること、②事業主が通常の経営者として最大の注意を尽
くしてもなお避けることのできない事故であることの2つの要件を満たす場合には、例外的に「使用者の責に帰すべき事由」による休業には該当しないと考えられます。具体的には、取引先への依存の程度、輸送経路の状況、他の代替手段の可能性、災害発生からの期間、使用者としての休業回避のための具体的努力等を総合的に勘案し、判断する必要があると考えられます。

このように、令和元年の台風19号のようなケースでも、事業場の施設や設備が直接的な被害を受けていない場合には、原則として「使用者の責に帰すべき事由」に当たることになり、上記の①、②の要件を満たした場合に例外的に「使用者の責に帰すべき事由」には該当しないとされていることから、事業者としては、休業回避のための具体的な努力をすることが必要となります。

個別事例においては、判断に苦しむケースもあると思いますが、従業員のモチベーション低下にも配慮しつつ、会社としての方針を検討する必要があるでしょう。

5 今回のまとめ


・「使用者の責に帰すべき事由」による休業の場合には休業手当を支払わなければならない

・使用者に故意や過失(落ち度)がなかったとしても「使用者の責に帰すべき事由」に当たることもある

・大規模な自然災害等の場合であっても、事業場の施設や設備が直接的な被害を受けていない場合には、原則として「使用者の責に帰すべき事由」に当たることになる

・①その原因が事業の外部より発生した事故であること、②事業主が通常の経営者として最大の注意を尽くしてもなお避けることのできない事故であることの2つの要件を満たす場合には、例外的に「使用者の責に帰すべき事由」による休業には該当しない

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