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人事労務担当者のための労働法解説(12)

【賃金保護のための法規制】
賃金は、労働者の生活の糧となる重要な労働条件であることから、賃金の全額が確実に労働者の手元に渡る必要があります。
そのような観点から、労働基準法は、賃金の支払方法について規制を設けています。

1 賃金支払に関する4つの原則

労働基準法では、賃金が確実に労働者の手元に渡るようにするために、

 ①通貨払の原則

 ②直接払の原則

 ③全額払の原則

 ④毎月1回以上定期払の原則

という4つの原則を定めています(①~③は労働基準法24条1項、④は24条2項)。

以下、この4つの原則について説明します。この4つの原則は労働基準法の原則の中でも重要性が高いものなので、しっかりと押さえておく必要があります。

2 通貨払の原則

(1)通貨払の原則の目的

ある日勤務先の会社から、「今月の給料は米で払います」とか「今月の給料は株式で払います」と言われたらどうなるでしょうか。

まず、給与を米で払うとなった場合、本当にその米が給与に相当する価値があるのかという問題が生じます(そもそも米では何も買えません)。

また、株式で払うとなった場合、給料日には、給与相当額の価値があったとしても、1週間後には価値が下がることもあるため、労働者の生活の原資としては不安定です。

このように、給与を現物支給とした場合、価額の不明瞭、換価の不便・困難、賃金の実質的低下によって生活の不安定を招くことになります。

このような弊害を防止するために、通貨払の原則が定められているのです。

(2)「通貨」とは?

通貨払の原則にいう「通貨」とは、日本国内で強制通用力を有する貨幣をいいます。外国貨幣による支払いや小切手による支払いは、禁止されます。

賃金支払い方法は、現金払いか口座振込みとなります。
口座振込みは、厳密にいえば労働者が銀行に対し預金の払い戻し請求権を取得することになるにすぎないため、銀行口座が一般に普及していなかった時代には、通貨払の原則に反するという見解もあったようですが、現代では、むしろ口座振込みが一般的となっています。

なお、口座振り込みに関しては、行政指導により、労働者からの同意、過半数代表者との労使協定の締結、労働者への賃金支払日における賃金支払計算書の交付、所定の賃金支払日の午前10時頃までに払出しが可能となっていること等を必要されています(平成10年9月10日基発530号等)。

3 直接払の原則

(1)直接払の原則の目的

労働者Aさんの給料日に、Aさんの友人と名乗るBさんがやってきて「Aさんの代わりに給料をもらいに来た」と言われたらどうしたらよいでしょうか。

この場合、BさんにAさんの給与を支払ってしまうと直接払の原則に違反することになります。

直接払の原則とは、給与は労働者に直接支払わなければならないという原則です。

戦前に、労働者の親方や仲介人などと名乗る人たちが労働者の給与をピンハネするということが横行していたことから、このような原則が規定されたものです。

(2)直接払の原則の例外

労働者以外の者に給与を支払うことが認められる場合はあるのでしょうか。

労働基準法24条は直接払の例外を認めていませんので、労働者以外の者が代理として給与を受領することは認められていません。

労働者が未成年者の場合に親権者や未成年後見人が「代理人」として給与を受領することはできません(労働基準法59条)。

また、労働者の配偶者についても、夫婦関係が悪化しており、配偶者が労働者の給与を持ち逃げしてしまう可能性もあることから、配偶者からの請求であっても漫然と応じることは避けるべきでしょう。

もっとも、労働者本人や病気や行方不明の場合に家族が「使者」として受領するにすぎない場合には適法とされる余地はありますが、どのような場合に適法とされるのか曖昧であるため、使用者側としては、本人の口座に振込むことが無難でしょう。

日常的にはあまりないケースですが、給与が裁判所の差押命令によって差し押さえられた場合には、差し押さえた債権者に支払うことになりますので注意が必要です。

4 毎月1回以上定期払の原則

(1)毎月1回以上定期払の原則の目的

給与の支払いの感覚が空きすぎてしまうと、労働者の生活がやりくりできなくなってしまうため、毎月1回以上、一定の期日を定めて支払わなければならないとされています。

(2)「毎月」とは

「毎月」とは暦上の各月をいいます。最低必ず1回は各月内のいずれかに賃金支払いがなさればければなりません。

その月分の賃金は必ずしもその月中に支払う必要はなく、翌月以降に支払うことは可能です。

(3)「一定期日」とは

「一定期日」とは、「期日が特定されるとともに、その期日が周期的に到来すること」が必要とされています。

月給制の場合には、「毎月20日」という定め方でも「毎月末日」という定め方でもよいとされています。

「毎月第2水曜日」という定め方は、月によって7日間の開きがあるため認められません。

所定し支払日が休日に当たる場合に繰り上げ・繰り下げを行うことは定期払の原則に反しませんが、支給日が各月内に存在する必要があるため、毎月1回払いの場合で月末払いの場合には繰り下げが認められないので、注意が必要です。

5 全額払の原則

全額払の原則は、文字通り、「全額を払わなければならない」というものです。
全額払の原則に関する論点は多岐にわたるので、別の機会に書きたいと思います。

6 今回のまとめ

◇通貨払の原則
・日本の貨幣で支払わなければならない
・小切手、株式、外国貨幣での支払いはNG
・口座振込みは認められているが、行政指導により、労働者からの同意、過 半数代表者との労使協定の締結、労働者への賃金支払日における賃金支払計算書の交付、所定の賃金支払日の午前10時頃までに払出しが可能となっていること等が必要

◇直接払の原則
・労働者への直接払が原則
・代理人への支払いはNG(親権者や未成年後見人であってもNG)
・本人行方不明等の場合であっても本人の口座へ振り込むことが無難

◇毎月1回以上定期払の原則
・最低必ず1回は各月内のいずれかに支払う必要がある
・「毎月末日」はよいが、「毎月第2●曜日」はNG
・支払日が休日の場合に繰り上げ・繰り下げをすることは可能だが、月末払いの場合には注意が必要

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