伊香保くらし泊覧会 発起人の思い Vol.2 〜つながりを大切にし 世界を目指す伊香保へ〜
伊香保くらし泊覧会の発起人である、伊香保おかめ堂本舗(以下、おかめ堂)の4名。どんな思いで伊香保くらし泊覧会の企画をスタートさせたのか。そして、第一回目の企画が終わった今、どんなことを感じているのか。
改めて、それぞれの立場からお話しいただくことにしました。
2人目の話し手は、ホテル松本楼 3代目・松本由起さん。
ホテル松本楼 3代目・松本由起
1969年、群馬県生まれ。県立渋川女子高等学校卒業、産業能率短期大学で経営能率を専攻(経営者二世コース)、産能大学経営情報学部経営学科編入。英国ウエストミンスターカレッジに語学留学。1993~95年までロンドンのThe Tower Thistle Hotel、コッツワルドのThe Lygon Armsで研修を終えたのち、95年から家業のホテル松本楼に若女将として勤務。97年には、カップルや一人旅など少人数でも伊香保を楽しんで頂きたいという思いから、留学経験を活かし洋風旅館ぴのんを創業する。
ホテル松本楼HP 洋風旅館ぴのん
▲伊香保おかめ堂本舗4名(左から、民芸山白屋 真淵、千明仁泉亭 千明、ホテル松本楼 松本、いかほ秀水園 飯野)
外とつながることで得られた 新たな視点
2005年から始めたおかめ堂での活動。はじめは石鹸やスプレーなどの「ものづくり」をして、次に旅の栞を通じて「ことづくり」(=伊香保観光情報を発信するフリーペーパー)を行いました。そのくらいのことは自分たちおかめ堂でできたのです。
いくつか形になってきた頃、それぞれの結婚・出産があり、物理的に動くことが難しい期間もありました。しかし、その経験があったからこそ、社会を見る視点、町に対する期待がとても変わりましたね。
「結婚っていいな」という実体験があったので、子育てが少し落ち着いた頃に伊香保で「街コン」を行いました。このイベントでかなり多くの反響をいただき、県や民間企業から企画を頼まれる様になりました。私たちの活動が徐々に認められはじめたことを実感しました。(例:ぐんま赤い糸プロジェクトなど)
おかめ堂として、外の人とコラボレーションすることがとても面白いと気づき始めた頃、器屋を営む田口さんや、デザイナーの彩華ちゃん(蛭子)との出会いがありました。(田口さんは、千明仁泉亭さんと元々つながりがあり、彩華ちゃんは田口さんの姪っ子ということで知り合いました。姪っ子ということもあり、ちゃん付で呼んでます)
数年前、とある時に田口さんから「くらしの美を感じ取れるような道具展を旅館でやったら面白いのに」と言われ、ずっとそれが頭から離れずにいました。
そして彩華ちゃんとは初対面にも関わらず「伊香保の地域の特性を活かして、何か面白いことを一緒にやろう!」と盛り上がり、いつか仕事という形で何かでれきばなとずっとタイミングを見計らっていました。
コロナで内向きになったからこそ気がついた
地元に根付くヒストリーの魅力
2020年4月〜5月。コロナで休館せざるを得なくなったため、ホテル松本楼では、月曜〜金曜の9時〜18時で社員研修を行なっていました。「松本楼学校」ですね。研修内容は、社員の希望を反映させ、会計の勉強やお土産のラッピング方法など様々なジャンルの講師を招きました。
▲ホテル松本楼(2021年2月現在でも、松本楼学校の研修は継続されている)
とりわけ希望が多かったのが、「竹久夢二伊香保記念館」へ行きたいという声でした。私自身は伊香保を訪れたお客さんを案内するために何度も行ったことがあったのですが、この機会に改めて訪問すると、沢山の発見がありました。
中でも、竹久夢二の「榛名美術研究所構想」についての趣意書を読んだ時に、ハッとさせられたのです。
榛名山美術研究所構想
あらゆる事物が破壊の時期にありながら、未だ建設のプランは誰からも示され ていない。吾々はもはや現代の権力闘争および政治的施設を信用し、待望してはいられない。しかも吾々は生活せねばならない。
快適な生活のためには、各々が最単位の自己の生活から立ててゆかねばならない。まず、衣食住から手をつけるとする。そういう吾々の生活條綱を充たしてくれるために、今の所僅かに山間が残されていた。幸い榛名山上に吾々のため 若干の土地が與えられた。美術研究所をそこに建てる所以である。
吾々は地理的に手近な材料から生活に即した仕事から始めようと思う。吾々は 日常生活の必要と感覚は、吾々に絵画、木工、陶工、染色等々の製作を促すであろう。同様の必要と感興をもつ隣人のために、最低労銀と材料費で製作品を 別つ頒つことができる。或いは製作品と素材とを物々交換する便利もあろう。
そこで、商業主義が作る所の流行品と大量生産の粗悪品の送荷を断る。また市場の移り気な顧客を強いて求めないがゆえに、吾々は自己の感覚に忠実であることも出来る。
こういう心構えから、生活と共にある新鮮な素朴な日用品を作る希望をもつ隣人のために研究所を開放する。
吾々の教師はあくまで自然である。しかし吾々は既成品を模倣するためでなくに、人が自然から学んだ体験をきくために、時に講演会、講習会を開く。また 吾等の製作品を人々に示すために、時に展覧会を開く。
榛名山美術研究所を設ける所以である。
1930年5月 竹久夢二
「これ、田口さんが言ってたくらしの美のことだ!」と自分の中で全てがつながり、記念館を出て興奮冷めらやぬうちにおかめ堂のみんなに電話をかけました。
竹久夢二がやりたかったこと・田口さんが言っていたこと・彩華ちゃんと一緒に仕事をしてみたい・おかめ堂としてコロナ禍での現状を打破したい。
その全部がぴゅーん!とつながって、すとんと腑に落ちたんです。これぞ神のおぼしめしだなと感じました。
そんな矢先に、群馬県のニューノーマル補助金の応募を発見したのです。そこで、田口さん・彩華ちゃんにも実行委員に加わっていただき、伊香保くらし泊覧会の構想を県に提案。2020年10月には実行に結び付けました。
まじまじと感じた
おかめ堂そして旅館の可能性
採択されてからは、実行委員で週1回Zoomを活用してオンラインミーティングを行ないました。今までは「対面で集まらないと会議なんてできない」ということが常識だと思っていましたが、ミーティングの全てをオンライン化したことで、自分自身がニューノーマルを実感した機会となりました。
そして、伊香保くらし泊覧会を終えた今、自分自身の展望が開けたなと感じています。さらには、おかめ堂の伊香保での立ち位置。旅館の使われ方。その全てに置いて、さらなる可能性を感じています。
1人または1旅館でやると全然話題にならない話も、4人で連携し、協力することで広がり、マスコミも幾度も取り上げてくれた。当事者ながら、正直に言ってすごいことだと思います。
おかめ堂の一人ひとりが得意分野を発揮し、相乗効果を生み出せたと思いますし、みんなと一緒なら「伊香保で世界を目指せるかも!」と本気で感じました。
[伊香保くらし泊覧会 メディア掲載]
2020年12年18日 朝日ぐんま「群馬の手仕事 作家の作品に 出合える」
2020年12月28日 FMぐんま番組内 イベント告知
2020年12月31日 上毛新聞「泊まってアート体感」
2021年1月9日 上毛新聞 三山春秋内
2021年1月10日 NHKマイあさラジオ マイあさ便りコーナー内 イベント告知
2021年1月13日 群馬テレビ「県内作家の作品を周遊しながら堪能」
2021年1月14日 上毛新聞「空いた時間活用し挑戦 ニューノーマルに挑む」
2021年1月14日 上毛新聞「地方の夢 歩む道とは 作家ら3人観光、文化語り合う」
2021年1月17日 上毛新聞 農業カメラマン網野文絵さん個展紹介での記事内
2021年1月19日 NHK NEWS WEB
2021年1月20日 NHKほっとぐんま「県内作家の焼き物 楽しむ企画」
2021年1月25日 上毛新聞「自分だけのこけし完成 伊香保で絵付け体験」
ホテル松本楼の これからの夢
ホテル松本楼としては、改めて「社員は宝」ということを感じました。そして最終的には、「旅館業の働き方改革を行い、業界全体の底上げをしたい!」という目標を持っています。
具体的に言うと、旅館業界ではできっこないと言われていた中抜け制度(※)を社内で研究し、うちでは通し勤務に移行しはじめています。(※仲居さんが、夜担当したお客さんに、翌日朝食を提供するという制度。朝6時半から11時。また午後3時に出勤し、夜まで働く。労働時間が8時間といっても、朝晩に分けて働くのが業界内では一般的)
業界の常識と思われていることにも挑み、社内を変える。そして社員がたくさん研修を受けられる環境を整え、自分の頭で考えて行動に移せるようになってもらう。それができれば、社員一人ひとりが旅館業界のコンサルティングができるようになる。困っている旅館があれば、うちの社員が現場に入って、改善提案ができるようになればと考えています。
外への発信としては、旅館甲子園と呼ばれる「旅館で働くスタッフが主役の全国的なイベント」が2年に1度あるのですが、ホテル松本楼は3回連続で出場し、3回とも準優勝を果たしています。(全国の応募の中から3軒に選ばれ、最終プレゼンテーションは東京ビックサイトで行います)
旅館業は同じことを繰り返す単純作業に思われがちですが、とにかく人が売りなとても魅力的な仕事。そういった全国的な場に出ている影響もあってか、新入社員には、広島大学・群馬大学など国公立の大学からの志願者が増えてきていますね。
将来的には、社員のお給料をさらにあげ、旅館=水商売というマイナスなイメージを払拭し、「みんなが就職したくなる旅館」を目指したいと思っているんです。来年度は、伊香保くらし泊覧会に社員にも関わってもらい、みんなで世界を目指したいですね!
こうして目指したい夢を言葉にして発信すると、どんどん叶うと感じています。伊香保くらし泊覧会を通じて、社内・社外がつながって、みんなを巻き込んでさらに私もがんばらなきゃな!と思っています。
文・聞き手:蛭子彩華
蛭子彩華
伊香保くらし泊覧会 実行委員
一般社団法人TEKITO DESIGN Lab 代表理事/クリエイティブデザイナー
公益社団法人日本マーケティング協会発行 月刊マーケティングホライズン編集委員
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?