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SF創作講座2023非公式梗概「火力発電のケミー」

裏SF創作講座への投稿を目的とした、SF創作講座の非公式梗概です。
形式や文字数上限はSF創作講座2023に倣っています。

ゲンロンSF創作講座2023
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裏SF創作講座


第5回テーマ:
「変なペットが出てくるお話を作ってみてください」

梗概

「火力発電のケミー」

 ある雨の日、中学生の「私」は野良の火力発電生体を拾う。名前はケミー。煙突から吐き出した煙が煙たかったのでそう名付けた。犬ぐらいのサイズで、他の発電生体と同じく四本の脚がある。

 発電生体は百年ほど前、人間の手によって創られた。動物のように自ら動き、体内に備えた発電器官で電気を発生させて命を保つ。長い年月をかけて改良されていった。発電生体の中で火力発電は最もスタンダードだったらしいが、現在では他のタイプに置き換えられつつある。

 自分の家で「私」はケミーを飼い始めた。ママには内緒だ。もしバレたら旧型のケミーはエネルギー局に回収されてしまう。「可愛そうだ。発電生体には何の罪もない」と「私」はケミーを匿っている。

 中学生一人で火力発電生体を飼うのはなかなか大変ではあった。餌になる木炭を確保したり、煤っぽくなる煙突を風呂場で洗ったり。一番大変なのは密室だと煙が部屋に籠ること。窒息するので窓を開けて寝ている。

 ママにはバレそうになかった。安堵していたが、やがて寂しさに変わっていく。興味がないのだ。「私」とママはパパが死んでから疎遠になっていた。仕事で忙しいママを「私」と繋いでくれたのがパパだった。

 心に残っている思い出は近くの山でキャンプをしたこと。焚火を囲んで星を眺めた。その山も開発され小さな公園しかない。それを思い出して物置を探ると、パパが使い残した木炭を見つけた。ケミーにあげるといつもより喜んでいた。

 眠る前、ケミーが「私」のベッドに駆け寄る。タービンが唸り、「私」のお腹を温める。風が差し込み、煙が鼻先を掠めるこの夜が、あの日のようで「私」には懐かしかった。

 翌日、ケミーは消えていた。「私」はケミーの捜索を始めるが、見つからず途方に暮れる。すると電柱の変圧器が爆発。爆発は連続して発生し、山の公園に向かって続く。ケミーだ、と「私」は確信した。

 山の公園、送電塔のてっぺんにケミーはいた。助けようとするが、ケミーは拒否して「私」を登らせない。やがて知り合いから知らされ駆けつけたママが「恥だから」と「私」を引き止めようとする。親子喧嘩が起こり、「私」とママが正面衝突。夕暮れが辺りを包んでいく。

 ケミーのタービンが轟く。電力を放出し、電線から高出力の電力が送り込まれる。空に瞬くケミーは一等星のようで、「私」もママもみんな黙ってしまう。やがて出力を終え、ケミーが落下。駆け寄ろうとする「私」にママは振り向くよう言う。

 微弱なはずの街の電気は送り込まれた電力のせいで眩しいくらいに輝いていた。

 エネルギー局の人によると、ケミーは自分の寿命が少ししかないと理解していたらしい。なぜ記憶が伝わったのかはわからない。発電生体はいつも人の近くにいるから、思いも汲み取れるのだろうか。

 公園で、「私」とママはパパの古い木炭を使って火を点けた。次々移り変わっていく世界でも、火はやっぱり暖かくて、煙は煙たいのだと思った。

(1198字)

アピール

「火力発電所、ペットにしましょう。絶滅危惧種ですよ」

それがこのアイデアの発端でした。
お題は「変な存在」ではなく「変なペット」です。人間と共生し、互いに愛情を向け合う関係が「ペット」だと自分は考えます。燃料を食べて煙突から煙を吐き出すケミーを愛らしく思ってもらえるよう、可愛さに重点をおいて描写しようと思います。「煙突掃除なのに羨ましい」と思わせたい。

同時に、この話は「熱」と「光」を軸に展開しようと決めています。
エネルギーや環境問題、老朽化が原因で火力発電所は数を減らしつつあります。仕方ないとは思うのですが、悪人扱いして切り捨てるのも寂しいな、と構成しながら考えました。人間の根源だった火が置き換えられていくけど、やはりそこには熱があり、暖かさを秘めている。
死んだペットを埋めたときのような切なさを、発電所に感じ取っていただければ。本来接続しえない感情が接続するのが小説だと思いますので。

(395字)

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