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【令和版】魔女の寄り道(8)

前回の話はこちら。


「いました、あれがきっと悪霊の親玉です!」


神矢かみや 由衣ゆいは、公園の広場に設置されたベンチのあたりを指さした。

沼森ぬまもり 美智子みちこは悪霊が視えないが、それでも体感温度が僅かに下がったような、嫌な空気を感じた。

「先手必勝ね。驚かしてやりましょう」

悪霊に爆発魔法をお見舞いしてやろうと、美智子が前に進んだその瞬間――

沼地に足を取られてしまったかのように、足が動かなくなった。
「あらっ?」
体に思うように力が入らない。
美智子はその場にしゃがみこんだ。

由衣には悪霊がケラケラ笑っているように見えた。

「沼森さん!」
白風しろかぜ 明里あかりが美智子の方に駆け寄った。
余裕ぶっていた悪霊は明里の姿を見るなり、突然逃げ出した。

「大丈夫ですか、沼森さん!?」

「ありがとう、白風さん。一瞬体に力が入らなかったのだけれど、
 もう動けるわ」

悪霊の挙動を観察していた由衣は、悪霊が突然逃げだしたのは、
明里に理由があると考えた。

「悪霊は、白風さんの姿を見るなり逃げだしました。
 おそらく、白風さんの持っていたお守りを嫌がったのだと思います。
 お守りの中には、小さなおふだなどが入っています。
 お守りを使えば悪霊の力を弱めることができるはずです」

「沼森さん、私のお守りを使ってください!
 沼森さんなら悪霊に対抗できます」

明里は美智子にお守りやブレスレット、数珠などを渡した。

「ありがとう、白風さん。あなたの勇気ある行動に感謝するわ。
 お借りするわね」

明里は他の2人に見られないように、
そっと手袋をめくって手の甲を見てみた。
暗くてよく見えないが、わずかに透けているようだった。

親玉の悪霊は、近くの時計塔のてっぺんにいた。

「悪霊が時計塔のてっぺんにいます!
 どうしよう、あんな高い所にいたら手が出せない」

「問題ないわ。私に任せなさい」

「そっか! 沼森さんなら空を飛べるから」

「箒とかがあればいいんだけど、探している暇はない。時計塔を登るわ」

美智子は時計塔に触れ、呪文のような言葉をつぶやいた。
時計塔に引力が付与される。
美智子は時計塔の柱に着地し、真上に歩き出した。

「沼森さん、悪霊が逃げます!」

「逃がさないわ」

時計塔の頂上まで駆け上がり、悪霊がいるあたりをめがけて空中にお守りをかざした。
お守りが悪霊に貼りつく感触が美智子の手に伝わった。

その瞬間、「ビリッ」という鋭い音と同時にお守りに亀裂が入り、真っ二つに裂けた。

悪霊のうめき声が聞こえたような気がした。

美智子は時計台の頂上から飛び降り、
重力を無視した不自然な落下速度でふんわりと着地した。

公園の景色が夕方に戻った。

「この公園は一度ちゃんとお祓いしてもらった方が良さそうね」

「はい、神主に相談してみます。あの悪霊も撤退しただけで
 完全には消滅していないはずですから」

お祓いが行われるまで、しばらくこの公園に近づくのはやめようと思った。
せっかくのお気に入りのお散歩コースが一つ減ってしまうのは残念である。

「白風さん、ごめんなさい。お守りを壊してしまったの。
 新しいのを頂いてね。ブレスレットと数珠は返すわ」

「大丈夫です。お役に立てて良かったです」

「神社の受付時間は過ぎてしまったので、
 日を改めてご参拝されるのをおすすめします。
 沼森さんも、当分の間は厄除けのお守りを
 身に着けておいた方が良いかもしれませんね」

「ええ、近い内に頂くことにするわ」

久しぶりに激しく体を動かしたので、筋肉痛になるかもしれない。
それでも、初冬の夕方に汗をかくのは気持ちが良かった。
たまにはこうして誰かと協力しながらトラブルを解決するのも悪くないと、美智子は眩しい夕日を眺めながら思った。


続きはこちら。

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