金曜日は安息日

 今日はまったく運動しなかった。しかし用事があったので中野駅まで往復した。冷たい雨が降る中、歩くのは適度な運動になる。

 しかし歩いていて気になるのは、スマホをイジリながら歩くバカである。本人は「直前になれば避ける」と思っているらしいが、そこまでがウットーシーのである。
 イーズカはワザと直前まで直進する。相手は驚いて横にすっ飛ぶ。
 「このバカが!」と心で呟いて、そのまま歩く。
 こういうヤツに限って、見ているのはゲームとかヒマつぶしをやっている。顔からも知性の低さが滲み出ている。
 「オマエなんぞには何の有用性も無いから、いますぐ死んでしまえ」と思っている。危機管理する必要も無いほど、愚かである。

 午後には昼寝してから整骨院に行った。トレーナーから「今日はカラダが柔らかいですねえ」と言われ、「今日は安息日なので、運動は何もしていない」と答えると、「大事ですね」と言われた。
 適度に休んだほうが筋肉も育つ。

 しかし何故ここまでカラダを鍛えるようになったのか。ルーツは大学時代のゲバルト戦にある。
 学内では多数派を形成していたので、常に優位に立っていた。が、アチコチから恨みを買っていた。
 大学外で一人でいる時が危ない。

 港北署の公安刑事にマークされて、毎日下宿近くの川の橋で待ち伏せされていた。
 「イーズカ君、今日は早いんだねえ」などと軽口を叩かれる。煙草を勧められたことがあったが、吸った後は必ず川の流れに捨てていた。DNA情報を取られると不愉快である。
 コイツは物理的な被害は無いが、大家に告げ口されて引っ越さざるを得なくなった。夜逃げのように引っ越して、しばらくは住民票も動かさなかった。

 マズイのは本気で襲ってくる奴らである。敵が特定できないのでカラダを鍛えるしかなく、腕立てと腹筋と柔軟体操は毎晩やっていた。

 敵が5人以下なら勝つ自信はあった。カバンには木製の綿打ち棒が入れてあり、接近戦なら一撃で脳天を割れる。ひとりを残虐な方法で倒せば、残りは逃げていく。転んだフリして砂を掴み、相手の目に放ってでも、とにかく勝つ。どんなに汚い手を使ってでも一人を半殺しにする。それを心掛けていた。

 それから社会に出て、エアロビクスと出逢った。まあオシャレな空間である。当時は選民の社会で、業界人しかいなかった。
 女性はモデルやコンパニオン、デザイナーにスタイリストなど美人ばかりである。
 それまでの凄惨な世界から、一気に別世界に引きずり込まれた。

 学生時代、「六本木なんかに行ったら、思想が腐る」と思っていたが、思想が腐るだけあって楽しい街であった。

 広告業界に就職したので、遊び場は「銀座・赤坂・六本木」と青山になった。
 いつもモデルやコンパニオンと遊んでいたので、ディスコあたりもフリーパスだった。そこで踊りを覚えた。エアロビクスをやっていたので、どんなステップも自在に踏めた。
 ゲバルトに向けた訓練よりも遥かに楽しく、運動が趣味となった。

 やる以上はナンバーワンにならなくてはダメで、「2位では納得できない」のである。
 そして37年間、周囲を蹴散らしながらエアロビクスの頂点を目指していた。

 これを世間は「精力善用」と言うのだろうか。イーズカとしては、「悪用しながら、自己満足に浸っている」という認識である。


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