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おもいで

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モノクロームの想い出に色を点けたもの。
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#エッセイ

−香色− 手作りティラミスをもらった

友人から、手作りティラミスをもらった。 ぼくは今、大学の研究室にいる。この居室では、7、8人がデスクワークをしている。 ぼくは、ここで、ティラミスを食べる。 ティラミスの瓶を開ける。 刹那、幸福の香りが我が鼻腔をつく。この香りは、拡散方程式に従って、やがて部屋中に行き渡り、他の人たちのもとへ届くだろう。ぼくは幸福の伝道師である。 否、人々が享受する幸福は、嗅覚のみに制限されている。 ぼくだけが、それを味わう特権を手にしている。ぼくは飯テロリストかもしれぬ。 特権は、直

−深縹− かつて道だったところ

畳縁。 たたみべり。 かつて、ぼくと兄にとって、そこは道だった。 ぼくらは畳の部屋で、ミニカーを走り回らせるのが大好きだった。 ミニカーが通っていいのは、畳縁の上。 畳縁とミニカー1台の幅が、ちょうど同じくらいなのだ。 畳の道には、対面通行の区間と片側交互通行の区間が存在する。 6畳の部屋だと、畳はこんなふうに敷かれているから。 さらに、ぼくらの道には踏切も存在する。部屋と部屋を仕切る敷居。 敷居を横切るときは、しっかり一時停止。 思い起こせば、次々に蘇ってくる。

−卵色− 半ゆで卵同盟

ぼくは、ゆで卵が嫌いだ。 あの、モサモサした黄身と、モチョモチョした白身。嫌いだ。 生卵なら食べられるのに。 黄身と白身をかき混ぜて、卵焼きにしてもおいしいのに。 なんで茹でるの??? 嫌いなものは他にもある。 貝。 小学生だったある日、給食で、貝の佃煮が出た。 「嫌いなものも一口は食べるように」という、迷惑この上ない決まりがあったので、素直なぼくは貝を一粒だけ食べた。 その日の夕方。家に帰ったぼくは、3次会後のサラリーマンのごとく、さめざめと吐いた。 それ以来、