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長いと安くなる、電子書籍の魔法?

 紙の出版物では、400ページほどの分厚い単行本が税込み350円ならば、とんでもない安さです。自力で電子書籍化すると、これが可能になります。そもそも、電子書籍市場には対価なしで読める本すらあります。

 Amazonのページでかねて予告していた通り、価格を改定しました。税込み500円に値上げです。この記事は元の価格を前提に書かれていますが、それでも十分に安いので(たぶん?)、記事はそのままにしておきます。

 河口慧海えかい『チベット旅行記』の青空文庫版を、私はAmazon Kindleで無料で入手しました。19世紀末、鎖国を破った外国人は拷問の上で死刑になるチベット王国に、ひとり無断で入り込んだ日本人僧侶の実録です。

 慧海は超人的な能力と忍耐力、無限の謙虚さと仏への篤い信仰で苦難を乗り越えて行きます。痛快なスーパーヒーローものとしても読める面白さですが、すでに著作権が切れており(慧海は1945年没)、青空文庫のボランティアのおかげで無料で読めるわけです。

 私は、これを電車や駅での待ち時間を使ってスマホのみで読み切りました。上下二巻の文庫にした出版社もあるほどの長さですが、何も問題ないどころか、携帯性や文字拡大で老眼鏡なしですむなどの長所があり、本文を読むだけなら電子書籍は悪くないと納得しました。

 その頃、私は新作長編小説をKindleで出そうかと考えていたのです。これで迷いがふっきれました。小説は、たいてい本文だけを読めばいいものですから。

 で、400ページくらいの単行本になりそうな長編『宮殿のアルファベット』を、Amazon Kindleに税込み350円という価格でアップしました。

 発売日は12月3日となっていますが、その直後からしばらく発売を停止していました。本の造作に問題が生じて、それを訂正し「再出版」するのに思った以上の手間と時間がかかったのです。この辺り、参考になる人がいるかもしれないので、後日別記事にしてアップしようと思っています。

 長い小説を電子書籍なら安く出すことができます。長いほど安くすべきかもしれません。紙代など造本の費用が少なくてすむから? そればかりでなく、電子版にするとネット上に溢れる莫大な情報と直接の競合関係になるためです。

 ネット環境が一般化して以来、新旧、多種多様のコンテンツが人々の時間の奪い合いをしています。このことは多くの識者やマーケッターが指摘しています。ネットを使うようになって時間の余裕がなくなった、と現代人の多くが実感していることでしょう。

 もちろん、電子書籍であっても高い値段をつけてかまわないのです。面白いと思う読者がたくさんいれば、その価格は正当化されます。逆に、値段が安いからコストパフォーマンスが高いとも言えません。たとえ無料であっても、面白くなければ限られた人生の時間という貴重な資源の無駄遣いになるからです。

Amazonへはこちらから

 作者としては、『宮殿のアルファベット』は、私史上最高の面白さかも……と考えているのですが、私史上最長クラスの長さでもあります。350円という価格が導き出された理由です。最後まで読んでくれれば、これを「高い」と思う人はいない! と信じています(冷汗)。

 冒頭で、無料の慧海『チベット旅行記』という強力コンテンツを紹介したのはまずかったかなあ、と思いつつ。以下、『宮殿のアルファベット』の目次です。

第一章 エタル、学校に行く
第二章 エタル、宮殿に行く
第三章 エタル、宮殿の式典に参列する
第四章 エタル、地獄に案内される
第五章 エタル、アルファベットを発明する
第六章 エタル、図書館で平伏する
第七章 エタル、祭日に外出する
第八章 エタル、王室書記方から追放される
第九章 エタル、牢屋で暮らす
第十章 エタル、王の御前で平伏する
第十一章 エタル、耳を傾ける
第十二章 エタル、バビロン人に出遭う
第十三章 エタル、またもカブカブに出遭う
第十四章 エタル、王の悲劇に立ち会う
第十五章 エタル、ロバ部隊の一員となる
第十六章 エタル、ドゥドゥに進言する
第十七章 エタル、戦場に行く
第十八章 エタル、王女の逃避行を助ける
第十九章 エタル、言葉の井戸の夢を見る
第二十章 エタル、地中海を巡る旅に出る

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