【ソーシャルアパートメントのフィールドノート-お城と長屋の間で】2023-8-2


ソーシャルアパートメントに住み始めて10ヶ月が経つ。
ソーシャルアパートメントとは、シェアハウスと一人暮らしのいいとこ取りのような物件だ。シャワーとトイレは部屋の中にあり、キッチンとリビングは各フロアで共用。他にもパブリックスペースに本棚があったり、バルコニーがあったり、スタディースペースがあったりと充実している。

私の部屋に何があるか。
ベッド、レコード数枚、服、靴、本が数冊。あとは身支度するために必要なもの、少しのお酒。皆で飲むように買ってある。
私が部屋で何をしているか。
起きて音楽を聞く。メイクをして出勤する。帰ってきてシャワーを浴びて眠る。振り返ると、本当にそれだけだった。

次に、共用部には何があるか。
大きなテレビ、スピーカー、机、ソファー、デロンギのコーヒーメーカー、電子レンジ、炊飯器、鍋、各食器、バルミューダのトースター、本棚、お誕生日の時に使うステッキや“本日の主役”たすき、ゲーム、ソダシのぬいぐるみ、誰かが持ってきたお酒、“FREE”と乱雑に書かれたお菓子、“東京に行ってきました!よければどうぞ”のお土産。バルコニーに出ると住人が家庭菜園で育てたトマトが陽を浴びてピカピカと光っている。服飾学生が住んでいるフロアのリビングにはぐるぐる巻かれた布やメジャー、トルソー、スケッチが置かれていて、コーヒーメーカーのそばには誰かのコーヒー豆数種類。ダンベルが鏡の前に綺麗に並べられていたり、暮らしの気配がそこかしこに散らばっている。

共有部では何をしているか。
平日午後10時、「おかえり、こんな時間まで仕事?お疲れ様」と声をかけられて重い荷物を下ろす。見知った人がスープを作っていて、振り返ってお疲れ様、って言うからホッとしながらお弁当を洗う。簡単に晩ご飯を作ろうか、疲れたから寝ようかと思っていると「スープ食べる?」とサーモンがたっぷり入ったバジル香るクリーミーなスープを貰えることになって、2人で食べる。「今日こんな事があって〜…」と話す時間がどれだけ疲れを軽減してくれるかをここに来て再認識した。

違うフロアに足を伸ばすと、また違う雰囲気が味わえる。「うわっクソ」「あーーー」と言いながらテレビに向かう人々と、ゆっくり食後のお茶を飲みながらそれを眺める人々。スプラトゥーンとフルーツティー。「そういえば〇〇さんのマンゴー食べた?食べ切られへんから皆で食べてって。あ、あと2つある。切ろうか?」よく熟したマンゴーの瑞々しさ、爪楊枝を刺して皆で「美味しいね」「ジュースみたい」と食べる幸せ。そういえばサングリアを作っていた人たちもいた。ボウルにフローズンベリーやハーブを入れて、ワインやジンをドボドボ。フルーツポンチみたいな赤ワインサングリア。「一緒に飲む?飲まないの?ああ、食事制限!あなた勇敢ね!」とサングラスの隙間からこっちを見て笑うイタリアのお姉さんは素敵だった。毎月開かれる誰かの誕生日パーティー、退居者がいる月はその人のさよならパーティーも。朝ドラを見るために集まったり、ホラー映画も皆で見れば楽しかったり、誰かの部屋で女子会やったり逆にリビングで男子会やってたり、美味しい肉を買って焼肉したり、いい季節にはバーベキューしたり、遊びに行ったりそのまま一緒の家に帰ってきたり、朝早くにヨガをしている人たちもいれば、朝が来るまで飲んでいる人たちもいる。ソーシャルアパートメント内に、ゲーム部、カラオケ部、ランクラブなんてものも出来た。“同じ家”ということを共通点に、個人が流動的に集団を形成して自由に行ったり来たりしている。これが非常に心地いい。

今のこの暮らしは、お城と長屋の中間のように思う。部屋はお城だ。クーラーを効かせて好きに携帯を触って、たまにベッドの上でお菓子を食べてる。ないしょだけど。疲れてる時は部屋から出ないし。それが部屋を出れば一変、長屋暮らしみたいにご近所さんたちとゆるく繋がっている。リビングに出て「どうも〜」「あ、久しぶり」「仕事落ち着いた?」「いやそれがまだ忙しくてさ、…」と、当たり前みたいにご飯や団欒を一緒にする。毎日この時間に顔を合わせる人もいれば、なかなかリビングで会わない人もいて、そういうのも面白い。「〇〇ちゃんにまだ会ったこと無かったっけ?めちゃくちゃお酒強いよ笑」とまた誰かと繋がる事ができる。

個人差はあるだろうけど、このゆるい繋がりが本当にちょうどいい。誰かに話を聞いてもらうと心がスッとするし、ご飯は皆で食べた方が美味しい。誰かの誕生日をお祝いできると嬉しい。1人と皆の絶妙なバランス。お城と長屋のハイブリッドは過ごしやすくてやめられない。

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