著名eスポーツ大会における「女子:-2pt」というルールについて

CRカップとは

CRカップ(Crazy Raccoon Cup)という、著名なe-sports大会がある。

Crazy Raccoon Cupは、esportsの発展を目的として開催される、
Crazy Raccoon主催の大会です。(中略)現在では公式配信や参加者の配信を加えると50万以上の同時接続視聴者がいるアジア最大級のイベントに成長しました。Crazy Raccoon Cupはこれからも成長していきます。https://crcup.jp/#about

プロゲーミングチームCrazy Raccoonが主催するe-sportsの大会で、APEX LEGENDSというFPSゲームで優勝を争う第1回大会が2020年8月に開催されて以来、高い知名度と人気を誇っている。人気を反映してか開催頻度も高く、先日(2022年1月16日)第8回が開催されたばかりである。

このCRカップの特徴として、参加者の多様性が挙げられる。プロシーンで活躍しているような競技者だけでなく、人気ストリーマーやYoutuber・Vtuberに加え最近では芸能人が参加することもあり、その結果幅広い視聴者を獲得することに成功している。

つまり、プロの競技シーンのように、トッププレイヤーを集めて勝つことを目的とする大会ではない。経験やスキルは発展途上にある参加者であっても、奇跡的なプレイで魅せたり、土壇場で急成長したりと、毎回様々なドラマが生まれることもCRカップの魅力であると思う。

CRカップのメンバーポイント制

この参加者の多様性とエンターテイメント性を担保するのが、メンバーポイントと呼ばれるルールである。APEX LEGENDSは3人で1チームを作り、20チームで戦って最後まで生き残ったチームが優勝となるゲームであるが、チームごとの力が極端に偏らないように工夫がなされている。

■メンバーポイント
ブロンズ:1pt
シルバー/ゴールド:2pt
プラチナ:4pt
ダイヤ3~4:6pt
ダイヤ1~2:8pt
マスター:10pt
プレデター:12pt
上位プレデター:14pt
競技シーン:16pt
女子:-2pt
日本語が母国ではなくコミュニケーションが困難:-2pt
過去のCR CUPに出場したチームでの出場:2pt
去年の反省と新年の抱負:-2pt
評議会ポイント:Apex Legends有識者によって与えられるポイントhttps://crcup.jp/games/%e7%ac%ac8%e5%9b%9e-crazyraccoon-cup-apex/

APEX LEGENDSには普段のプレイで勝つごとに上がっていくランクシステムがある。そのランクに応じたポイントを上記のように設定し、3人のメンバーのポイント合計が24ptを超えないようにすることで、各チームの強さをなるべく均等にするのである。(ランク以外にも様々なポイント規定があるが、今は説明を省く。)

たとえば、マスターと呼ばれるランク帯(およそ上位1%以内)のメンバーを2人(10pt×2人)集めた場合、3人目をプラチナ帯(およそ上位40%以内)のメンバー(4pt)から選ぶと、これでちょうど24ptとなる。どのようなメンバー編成にするか、チームの作戦も問われるところであり、毎回メンバーの発表時期にはtwitterなどSNSでも話題となる。

「女子:-2pt」というルール

このメンバーポイントに、「女子:-2pt」という不思議なルールがある。これはたとえば、同じマスター帯であっても男性が10ptのところ、女性はマイナス2ptして8ptとする、というルールである。公式サイトでは、第2回からこのルールの記載を確認できる。

筆者がCRカップを見始めたのは2021年からで、当初はこのルールの存在にも気づいていなかった。ルールを知った後も何かおかしいとは思いつつ、はっきりとした理由はわからないまま、大会を楽しんできたというのが正直なところである。

しかし最近になって、CRカップを主催するプロゲーミングチームCrazy Raccoonのオーナーがこの「女子:-2pt」の理由についてはっきり語っているインタビュー記事を見つけ、これは全く看過できないと思い、この記事を書いている。

(魚拓:https://megalodon.jp/2021-1003-2218-42/https://esports-world.jp:443/interview/11884

チームポイントにも実は裏の理由があるんです。例えば、女子選手のポイントをマイナスしているのは「かわいいから」とか「モテるから」とかふざけて言ってますけど、実際にはキャリーされてランクが上がっていることがどうしても多くなりがちだから。実力だけでいうとどうしても今は男子の方が高くなってしまうので、そうすることで、女子が活躍できる場が減ってしまわないようにしたいんです。

「キャリーされる」とは、自分より上手いプレイヤーと一緒にプレイすることで、自分の実力以上の結果を出すことを指す。上述したようにAPEX LEGENDSは3人チームで行うゲームなので、「キャリーする/される」ということが可能である。

実力に差がある友達同士で遊ぶ場合などにはどうしてもこの「キャリー」は起こりうるが、長期的に、また自分のランクを実力以上に見せかけるという明確な意図をもって行われる場合に非難されることが多く、「キャリー」という言葉はしばしば良い意味では使われない。

すなわち上記オーナーの発言は、「女性はキャリーされて本人の実力以上にランクが上がっていることが多い、だから本来の実力に合わせてメンバーポイントを下げている」ということになる。

この発言は、まったく容認できない。キャリーされているはずだからという理由で参加女子選手全員のポイントを一律でマイナスするという措置は、明らかに選手に対する敬意を欠いており、女性という属性に基づく不当な扱いであると考える。 

「女性が活躍できる場」とは何か

しかし、オーナー自身がこの措置を「女性が活躍できる場が減らないように」するためだと考えているらしい点、そしてこのルールによって実際に女子選手の参加が促される一面が生じるように見えてしまう点に、実は問題の根の深さがあると思う。

どういうことかというと、「女子:-2pt」というルールによって、女子選手には「お得感」「コスパの良さ」が生じてしまっている現状があるのである。たとえば仮にマスター帯の男性2人組(10pt×2人)があったとして、3人目が男性ならプラチナ帯(4pt)までしか呼べないが、女性なら一つ上のダイヤ3~4帯(6pt-2ptで4pt)を呼ぶことができる。これはチームの戦力として大きな違いであり、メンバーとして女性に声をかける動機になりうる。

ただ、これを「お得」「コスパが良い」と感じるということは、翻ってその女性選手の実力が、キャリーなどされておらずランク相応だからだとも言える。オーナーの発言にある「キャリーされているから」という理由とは完全に矛盾したままに、CRカップの「女子:-2pt」というルールはすっかり定着し、運用されているように見える。

しかし、このように結果として女性の参加が促される一面が仮にあったとしても、女性の実力を正当に評価しないルールの中で達成された世界を、女性が活躍する場と呼べるのか。私は疑問に思う。

大会を通じて多くの素晴らしいプレイヤーを知り、女性選手の活躍にも何度も魅了されてきた。だからこそ、オーナーの発言を思い出す度に気持ちが暗くなるのである。彼女たちは、なぜ-2ptなのか?インタビュー記事は2021年6月のものだが、オーナーは今も同じ考えを持っているのだろうか。日本のe-sports界に大きな影響力を持つ人物だと思うからこそ、当該発言にはやはり納得ができないし、とても残念に思う。

私はこれからも、CRカップに出場するプレイヤーたちを心から応援し、大会を楽しみたいと思っている。一観戦者としてもたくさんの思い出があり、話題性のある大会だと思うからこそ、「女子:-2pt」というルールに対して自分が抱えている思いを文章にしておきたかった。

私はやはり、メンバーポイントにおける「女子:-2pt」というルールは、参加者への敬意と公平性を欠く不当なものだと思う。e-sportsという世界が、性別をはじめとする様々な属性に関係なくプレイヤーがその実力を正当に認められ、活躍できる場であって欲しいと心から願う。