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「弁護士と競う時代」の無資格法務キャリアについて、無資格法務2年生の私が考えていること

このnoteは法務系 Advent Calendar 2021の14日目のエントリーです。aikoさん からバトンを受け取って、無資格法務2年目のいいだが、何かと議論になりがちな「無資格法務」という区分と、そのキャリアについて考えてみたいと思います。

簡単な自己紹介

LAPRAS株式会社で昨年から一人法務をやりつつ、総務等も兼務している、いいだと言います。私は、俗に言う「無資格法務(主に弁護士資格のない法務を指す)」です。キャリアとしては、IT営業→司法書士補助者→士業コンサル人事→LAPRASで初めて企業法務に挑戦しています。

今回このテーマを選んだのは「無資格法務」という単語に対して今年SNSのTLで賛否両論飛び交うのを、不思議な気持ちで眺めていたからです。だって、「無資格経理」とか「無資格労務」って言わないじゃないですか??

でも、あえて「無資格法務」って言うには、何か理由があると思ったのでちょっと調べたり考えたりしてみたら、結果として「無資格法務」であることを意識したキャリア作りって大事だな。と思えたので、今日はそのお話をしたいと思います。

企業内弁護士と無資格法務

弁護士バッチ。一回でいいから触ってみたい。

じゃあどうして法務だけ「無資格」って呼ぶんだろう…?と考えてたのですが、これはシンプルに「企業内弁護士」さんが急激に増加した結果なのではないかと思ってます。JILAさんのデータを見てビックリしたのですが、2000年に66人だった企業法務の弁護士さんが、2021年には2820人に増えてるんですね…。

企業内弁護士が増えた結果①元々の「法律を扱う人=弁護士」という社会的なイメージがそのまま企業法務にも影響を与えた②法務の相手方として弁護士さんが出てくる場面が多くなりその印象になった ということだと思います。実際に、仕事外で知り合った方に仕事を聞かれて「法務です」と答えると「あ、弁護士さん?」とほぼ100%聞かれるので、「法務=弁護士」のイメージって浸透しているなぁ〜というのは体感としてもあります。

「法務のキャリア」セミナーの功罪

また、これは完全なる私見ですが、企業内弁護士のキャリアを「法務のキャリア」として紹介されることに対する違和感から「無資格法務」という肩書きを強烈に意識することがあります。「海外に留学して弁護士資格を取って」とか「事務所での経験を生かして」とか、絶対に選べない選択肢を『法務のキャリア』として提示されることで、法務=弁護士のものだ と暗に言われてる気持ちになり、普段は全然意識していない「無資格法務」というカテゴリを突然意識させられます。

例えるならば…「水泳の上達方法を教えます」ってチラシを見てプールに行ったら、「水泳でオリンピックを目指す方法」について聞かされるみたいな。そして教室は盛り上がっていて、SNSでは「参考になる〜」って感想で溢れていると「オリンピックも目指さない自分が水泳教室に行った方が間違っていたのかな?」という気持ちになるみたいな。そんな感じです(伝わるだろうか…)

無資格法務が「弁護士と競う時代」がやってきたのかもしれない

こういった話から無資格法務の存在や将来を吐露すると、他企業のベテラン法務の方や法務部長の方に「大丈夫だよ!自分はこういうキャリアを無資格でも築けたよ!」と助言をいだだくことも多く、それは心強いです。ただ一方で、前提状況が違いすぎる私たちは、その言葉を鵜呑みにしてはいけないなとも思っています。

だって、20年で企業内弁護士の人数が42倍になってるんですよ!?ひええっ。

そうなると今20~30代の法務は、今後のキャリアで嫌でも「企業内弁護士」と競争する場面が出てくるだろうし、これからさらに司法試験の合格者数が多くなると、後輩も含めて弁護士に囲まれて働く未来もあり得ると思います。

転職の要件でも「資格者限定」の求人や「資格者優遇」の求人が法務の求人を見てると60%くらいの確率(いいだ調べ)で出てきますし、その状態で資格者を差し置いて無資格法務が採用されるためには、「資格分を埋められる何か」を求められる訳です。社内で昇進する際でも、重要な仕事をどちらに振るかという観点でも、弁護士と競わないといけない訳です。

でもというかだからこそ、企業内弁護士と競争する前提で、無資格法務としての自分のキャリアを考えないといけないと思っている最近の私です。

無資格法務のキャリアに潜む「リスク」

落とし穴


弁護士と競う時代の無資格法務のキャリアを考えた時に、まず「何をリスクと捉えるか」を考えてみました。実際に私が考え出したリスクはこんな感じです。

<社内におけるリスク>
・無資格者が法務の仕事に一切関われなくなる(AIとかに代替も含)
・無資格者が一定の役職以上には昇進できなくなる
・無資格者には面白い仕事がもらえなくなる
・無資格者は法務部門に居場所がなくなり、別職種に異動になる
<転職におけるリスク>
・資格がないと転職の際の選択肢の幅が狭くなる
・資格がないと転職の際に給与の条件が悪くなる
・資格がないと法務の求人自体に応募できなくなる

こうやって並べてみると、社内におけるリスクについては「自分が法務部門に必要な明確な理由」や「自分だからできる業務」があれば減らせるし、それは自分の努力次第でどうにかなりそうだと思いました。(特に私は今一人法務なので!)

逆に、「AIによって代替されるような単純作業」や「単価が高い有資格者にはやらせたくない業務」を今後メインでやるような環境になったら、その時点ですぐに舵を取り直そうと強く決意しました。もちろん、全てがAIに置き換わるまでには時間がかかりますが、自分じゃなくてもできる仕事が100%になったら、それ以上の昇進は見込めなくなったり、後輩の弁護士にどんどん仕事を奪われて法務に居場所がなくなるリスクが高い。

また、転職におけるリスクの方は正直、結構辛いなぁと思いました。市場自体が「なんとなく」で有資格者を求め出すと、自然と選択肢は狭まっていきます。そして転職の選択肢が潰れると、今の仕事が嫌でも続けることになる…これは辛い。まぁでも、今できることをやるしかないですよね。

無資格であるリスクを回避するためにやりたいこと

ということで、ここからはリスク回避のために、今後私が挑戦してみたいことをいくつか挙げさせてください。是非、他にもあればガンガン教えてください。

社内事情にめっちゃ精通する

ここまでやったらもはや諜報活動の域ですけどね

例えば、「XX部に話を通すには、YY部長より前にXXさんに持っていかないと」みたいな社内の人間関係やパワーバランス、また過去の経緯や歴史に詳しくなることは、資格がなくてもできます。

また、会社の経営戦略だったり製品の仕様だったり、「法務に使えるけど法務そのものではない」知識については、これから入ってくる人よりも、今いる人に圧倒的にアドバンテージがあると思います。一方で法務知識がないとどういう情報が役立つかわからないので難しく、地味だけどニーズがあって効果もあるポジションだと思っています。

法務と事業部のさらに間に立って橋渡しをしたり、弁護士さんに対して事業部の攻略方法を伝授する存在になるイメージです。または、そのまま経営にコミットする形で、さらに上のレイヤーでの意思決定に関わるようなキャリアだって、目指したければ可能性は0ではないと思います。

資格者の弱みを握って、サポートする

※写真はイメージです。本文とは関係ありそうで関係ありません

これは前に「この人の下に新人司法書士をつければ、3ヶ月で一人前にしてくれる」という補助者の先輩がいて、その人をイメージしています。その人は入所してきた司法書士さんが ①何を知っているか ②何を知らないか ③何を知りたがるか を的確に把握している、いわば司法書士育成のプロでした。

弁護士さんはやはり国家資格者であり、転職や独立しやすい傾向にあるので、ある程度入れ替わりがある想定で法務のチームも設計することになると思います。そこで、入れ替わるそれぞれの弁護士さんの苦手な部分や弱いところを把握して、そのサポートのプロになるという道もあるのかなと思っています。

決して、先生の弱みを握ってゆするとかではないですよ。ないですからね。

ニッチな分野に圧倒的に詳しくなる

例えば、「この業法については圧倒的にこの人が詳しい」のように専門的に深掘ることもできますし、「この業界の法務に詳しい」「この規模の会社に詳しい」等知識や経験を特化させたアピールも可能です。

イメージとしては士業事務所の経営で「何でもできます」だと逆に専門性が薄くて集客ができないので「ベンチャーに強い!」みたいな看板を掲げることで、特定の層にしっかり届けに行く感じです。

業法はマイナーであればマイナーであるほどライバルが減って良いし、書籍がない分野でアウトプットを続けてれば資格に関わらずに第一人者になり書籍を出すことだってできると思います。それが社内での評価に繋がったらラッキーだし、社内で評価されなくても対外的に実績があれば転職で評価されやすいはず。

今の自分が頑張れているとしたらここで、「ベンチャー法務で内側から発信する無資格の女性」みたいなニッチポジションに収まれていることで、お声がかかるセミナーや取材があると思います。今はそれで恩恵を受けていますが、将来的にはやっぱり「知識」に対してもお声がかかるようになりたいという思いもあり、30代のうちには自分の勝ちやすいニッチ領域を探すために、今は勉強を頑張りたいな〜と思っています。

法務以外の転職も視野に入れておく

例えば、「ITに詳しい法務の人」から「法務に詳しいITの人」に軸を移すパターンや、リーガルテック企業に別職種で転職すること、自分がずっと扱っている法律を得意とする士業事務所や渉外コンサルで働くことも、無資格法務のキャリアではアリだと思います。

「企業法務に関わる」場所は企業の法務部だけじゃないですし、「法律知識を活かす」仕事だともっと幅が広がるはず。そういう選択肢も持っておくことで、視野が広がるかな〜と。

あと、無資格法務は弁護士法との兼ね合いで副業で法務をやることができないので、それを逆手にとって全然違う職種の副業をしてみるとか、ソーシャルな活動をしてみるのも面白いかもなと思っています。副業を活かして、経営・事業部視点で法務を見ることができるのは、無資格法務の特権だと思うので。

とまぁ、結局一般的な市場価値を高めろって話ですよね

匙を投げるイラストがなかったので、インク壺を投げるルターさん

ここまで書いて思ったのが、これって無資格法務とかに限らず「自分の市場価値を戦略的に高める意識を持って働こうね!」というシンプルな話なのかもしれません。そしてその前提に、これからのキャリアで企業内弁護士と比較される・競うことを頭に入れておきましょうね、というだけの話。

企業内弁護士は「弁護士」というめっちゃ強いカードを持っているから、それに対して出せる手札を作るか探せば良いだけで、そんなに弁護士さんを怖がったり敵対視する必要はないんだと思っています。(ただし、弁護士の先生の例しか紹介しないなら「企業内弁護士のキャリア」というセミナータイトルにして欲しいのだけは譲れない)

次世代の無資格法務に選択肢を残すために

ここまで無資格法務として書いてきましたが、「資格者」の方が優秀に感じるのは世の常だと思います。さらにそれが最難関の司法試験で、弁護士にしかできない仕事だってあって、実際に優秀な人だらけなんだから...これはもう仕方ない。

じゃあ、そんな状況でも「資格のない人」を採用したり重宝したりする場面って何だろう?って考えたんですが、考えついたのが「だってXXさんも資格持ってなかったけど優秀じゃん」なのかなって。

つまり、我々無資格法務が今頑張ることで、「資格ないけど優秀な法務がいる」という成功体験を、世の中に対して小さく地味に植え付けていくことができたら、未来の仲間の選択肢を狭くならず、何なら広げられるんじゃないかと思うのです。

そうやって実際に無資格法務の先輩達の敷いた道を今の私も走っている訳ですし、その道を自分達が途絶えさせることのないよう、次の世代のためにも良い仕事をしてバトンをちゃんと繋ぎたいと思っています。

ここまでお読みいただき、ありがとうございました。
ということで?、明日の#LegalAC は大変お世話になっている、無資格法務の先輩の@oga10ru です!先輩、よろしくお願いします!!


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