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「自然」の思想と自然利子率

 「止まらない円安」とか「利上げの必要性」とか言ってた人お元気にされてますか? 本日のお話は,

・現時点の日本に利上げが必要ない理由

について,

・「自然な金融政策」なんてものはないよ

という点から説明します.
 数日前まで利上げ時期尚早論を主張すると「永遠に金融緩和を続けることはできない」のような意味不明な批判をうけるものでした.しかし,永遠に短期金利を0や0.1%に据え置くべきだと主張しているひとは非常に稀です.GDPギャップが+1%を超え,基調インフレ率(≠コアコアCPI,こんなの→)が2%を超えている(または両指標の将来見込みが高くなっている)状態での利上げであれば...少なくとも私はまったく反対ではありません.
 
 また,利上げ後即の株価急落をうけて……正面からの弁護は難しくなったとの思いからか「米国の指標悪化などの不運はあったがいつかはやらなけれなならないことだった」という言い訳的な解説もあります.ナンセンスです.現下の日本は利上げを急がないとインフレが止まらないとか,資本逃避が起きているという状況ではありません.そもそも日本銀行自体が2024年~2025年のコアコアインフレ率は2%に届かないと予想しています(→日本銀行「経済・物価の展望」).

 今次の日本銀行の政策変更は一般的な金融政策論が示す「利上げすべき状況」にないにもかかわらず利上げを断行したことが問題なのです.

 こうなると利上げ論の次の主砲(?)は「このような長期にわたる低金利は"異常"である」から「"自然な"金融政策に"戻さ"なければならない」というものになる.これは金融政策論争の古参にはおなじみの「自然論法」というやつです.
 2003年(ネットを含めると前世紀^^)から金融政策論争にコミットしていた身からすると...懐かしい論点です.これ2000年のマイナス金利解除論争でも,2006年の量的緩和解除論でも,2010-2013年頃の論争でも何度も出てきた.そして,このいずれにおいても「他に利上げを推す理由がなくなってきた」ときに活気づくんだよね.

 なお,私は今回の利上げで景気が急速に悪化する/円高不況になる/デフレに逆戻り系の話には組しません.週明けもしばらくは株価調整の局面になると思われますし,米国の景気が曲がり角に差し掛かったことでこれまでのような一本調子の株価上昇は望めませんが.
 長期の低金利が維持されるという期待が転換したという話にも懐疑的です.長期国債の利回りはむしろ低下しています.
 私の懸念は今後それなりには株価が回復し,実体経済への影響が軽微(単に影響が顕在化するのに時間がかかるだけなんだけど)であることをもって本格的な高金利レジームを目指す主張が活発化するところにあります.これは中長期的な日本経済に大きな悪影響をもたらす.

 現在安定的な市場予想である緩和的な金融政策の維持(低金利レジーム)を壊してしまうか否かは日銀の次の一手にかかっています.


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