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DAOで地域課題の解決に挑む!「おさかなだお長崎」

伊藤忠インタラクティブ株式会社(以下、IIC)では、2020年から長崎県の地場企業とタッグを組み、事業創出を目指す「おさかなサブスクプロジェクト」に取り組んできました。このプロジェクトがきっかけとなり、2023年には、長崎大学が中心となって推進する「ながさきBLUEエコノミー」のブランド戦略策定を担当。そして同年、東急不動産ホールディングス株式会社とMeTown株式会社が展開する「DAO(ダオ)」(※)プロジェクトの第一弾として、長崎の漁業を盛り上げる「おさかなだお長崎」を立ち上げました。Web3テクノロジーを活用した自律型分散組織「DAO(ダオ)」の実証実験事業に参画し、これまでIICが取り組んできた地域課題の解決を目指す活動の一環として力を注いでいます。
 
そこで今回は「おさかなだお長崎」発足の経緯や活動内容とともに、DAOの魅力と可能性についてご紹介します。プロジェクトの運営を担うMeTown株式会社の田中一弘様、DAOの運用ツールを開発した株式会社Unyteの上泉雄暉様、当社デザインマネジメント事業部のメンバーにインタビューしました。
 
※インターネットとブロックチェーン技術に基づく仕組みをベースに、居住地域に縛られずに様々な人々が集い、トークンを活用しながらプロジェクトを進めていくオンラインコミュニティ。従来の組織とは異なり、特定の管理者がおらず、メンバーのみで意思決定して進めていくのが特徴。

◎interviewee ----------------------------------------------------------------------
MeTown株式会社 代表取締役 田中一弘 様
株式会社Unyte 代表取締役 上泉雄暉 様
IICデザインマネジメント事業部 マーケティングデザイングループ 松本純一
(以下、敬称略)
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左から Unyte 上泉様 MeTown 田中様

■「長崎の水産業を盛り上げたい」地方創生への思いがさまざまな事業へと発展
 
――これまでIICが取り組んできた、長崎の地方創生事業について教えてください。
 
松本:IICでは、2020年から長崎の地場企業とチームを組み、「おさかなサブスクプロジェクト」に取り組んできました。このプロジェクトは、オープンイノベーションで長崎の地域産業を活性化させることを目的にしており、長崎で獲れる新鮮な魚を、刺身にして毎月お届けするというものです。2023年5月には累計1万食を達成し、好評いただいています。
 
また2023年より、長崎大学が取り組む「ながさきBLUEエコノミー」のブランド戦略をIICが担うことになりました。これまでのサブスクプロジェクトで得た知見やデータなどを活かし、流通面での課題を改善するとともに、コミュニケーションにおいて、プロジェクトの推進を加速させるためにブランディングを進めていく予定です。
 
――「おさかなサブスクプロジェクト」と「ながさきBLUEエコノミー」の取り組みが、「おさかなだお長崎」に結びついたのでしょうか?参画までの経緯を教えてください。
 
松本:主に「おさかなサブスクプロジェクト」の取り組みに着目していただき、東急不動産ホールディングスさんからお声がけいただきました。MeTownさんは、Web3テクノロジーを活用して地域課題解決を目指す「Local DAO」に取り組んでおり、皆さんの「DAOのコミュニティを使って地域課題を解決したい」という思いと、我々の「長崎の水産業を盛り上げたい」という気持ちが合致し、2023年12月、「おさかなだお長崎」というプロジェクトを発足することになりました。
 
■地方創生の課題をDAOのコミュニティで解決。実証実験として「おさかなだお長崎」が始動
 
――なぜ地域課題の解決に、DAOというコミュニティを選んだのでしょうか?
 
田中:DAOなら、従来の地方創生における課題を解消できると期待したからです。
 
現在、感じている課題は3つあります。1つは、地方創生は「現場に行かなければ活動できない」という考えが根付いている点。何かしらの活動をしたくても、「現場主義」に偏ってしまうため、遠方にいる人が参加しにくい状態にあります。
 
2つ目は、「活動における新規参加者が増えない」という点。従来の活動は、ボランティア思考の強いメンバーで固定化してしまう傾向が見られてきました。これを解消するためには、参加者に対して「参加するとどのような報酬があるのか」を示す必要があると考えています。
 
3つ目は、「活動が継続しづらい」という点です。始まったばかりの頃は、メンバーの熱量が高く積極的に活動できるのですが、時間とともに疲弊してしまい、進捗が鈍くなりがちです。
 
しかし、DAOの仕組みを活用すれば、遠隔で誰でも参加することができます。「トークン」というデジタルコインを発行することで、参加者に報酬を与えることも可能になります。さらに、報酬のメカニズムを構築すれば、モチベーションも維持しやすくなり、活動の継続が叶うのではないかと考えています。
 
――今回のプロジェクトでは、株式会社Unyteが開発したツールを活用しているということですが、ツールの特徴について教えてください。
 
上泉:弊社で開発したツールは、DAOの運営を総合的にカバーできる仕組みになっています。例えば、チャットを使った交流や、意見を表明できる投票機能、日々のタスク管理など、コミュニティ内でのアクションをワンストップで実現することが可能です。
 
――さまざまなDAOを支援してきた立場として、「おさかなだお長崎」の取り組みをどのように感じていますか?
 
上泉:これまで 70以上のDAOを支援してきましたが、「おさかなだお長崎」では新しい仕組みを取り入れており、「めちゃくちゃ面白い!」と感じています。
 
従来のコミュニティでは、NFTという有償のデジタルアートを購入することで、地域に貢献できる仕組みを構築しているところが多い印象でした。一方で、「おさかなだお長崎」では、「継続的にリワードがもらえる」という設計になっており、ありそうでなかった斬新なアイデアだと感じています。今後の展開が楽しみですね。

■徐々に交流が活発化。メンバーからの提案で「長崎ツアー」も催行
 
――運営を始めて約3カ月が経ちますが、進捗はいかがですか?
 
田中:100人の参加者から、30個のアイデアが生まれ、そのうちの2~3個は企画として動き出しています。
 
特定のリーダーがいないことが、DAOの大きな特徴です。そのため、動き出したばかりの頃は、参加者が遠慮し合ってしまい、意見がなかなか出ないこともありました。しかし、徐々に交流が活発になり、アイデアが出始めるように。その中で「長崎に行こう!」という企画が立ち上がり、メンバーを募って2024年5月に長崎ツアーを開催しました。他にも「大阪でオフ会をしよう」など、オフラインでの繋がりを持つメンバーも増え、ますます活気が高まっているように感じています。
 
松本:「長崎ツアー」では、市場や養殖場の見学、漁業関係者との懇談会などを行いました。プロジェクトメンバーにとっては、長崎の水産業の課題をリアルに知る機会となり、現地の方々にも、我々の熱意が伝わったのではないかと感じています。
 
長崎とは、「おさかなサブスクプロジェクト」を通して、2020年から関わり続けてきましたが、「おさかなだお長崎」の活動により、一つの壁を越える瞬間を感じており、今後がとても楽しみです。
 
――「おさかなだお長崎」が目指すゴールとは?
 
田中:1年間という期間の中で、「長崎のうまいサカナの未来をつくる」というテーマに沿った企画を、1つでも軌道に乗せることをゴールに掲げています。あくまで実証実験というスタンスなので、明確なKPIを掲げているわけではなく、「できる範囲でやっていこう」という考えのもとで進めています。すでに進行中の企画もあるので、その後の進捗を観測していきたいと思います。

キックオフイベント
長崎ツアー

■「自分の好きなことに集中できる」DAOの魅力と将来性とは?
 
――DAOの魅力と将来性についてお聞かせください。
 
上泉:DAOの面白さは、「自分の好きなことに集中できる」ということだと思っています。これまで当たり前に感じていた「生活のために仕事をする」という概念は、将来的にはなくなっていくと考えています。技術がどんどん発展し、AIやブロックチェーンという言葉が浸透しつつある現在、そう遠くない未来で、僕らの業務の多くを機械が担えるようになるはずです。
 
一方で、人としての「このコミュニティ面白いな」「この人面白いな」という好奇心や、「一緒に活動したい」という思いは絶対なくならないと感じています。そういった意欲や思いを、DAOでの活動に還元できるようになれば、今よりも自由に働くことが可能になるのではないでしょうか。
 
さらに2024年の法改正により「合同会社型DAO」の設立が可能になりました。法人格を作って外部の企業と契約したり、銀行口座を開設したりできるようになったことで、活動の幅がますます広がっていくのではないかと期待しています。

田中:好きな地域や組織に対して、自分のスキルで貢献できて、それに見合った報酬を得られる構造がDAOの魅力だと思っています。このような“DAO活”が広がっていけば、今よりもっとポジティブな働き方やライフスタイルが叶うはず。国内・海外関係なく、利害が一致することで新しい価値が生まれる可能性に、大きな魅力を感じています。 また、現在進行中の「おさかなだお長崎」において、事務局の存在を消し切ることも実現したいと考えています。特定の管理者がいない状態でも運営できるようになり、その再現性が高まれば、日本全国でDAOが発生していくと思います。まだまだ課題が多いですが、挑戦し続けていきたいですね。