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ディケンズ生誕200年

イギリスの国民的作家チャールズ・ディケンズは1812年に生まれた。イギリスでは昨年の12月からロンドン博物館での「ディケンズとロンドン」展を皮切りにディケンズ生誕200年を祝うイベントが数多く開かれている。誕生日の2月7日には生誕の地ポーツマスでの祝賀会など大きな盛り上がりを見せることだろう。私も昨年12月に訳書「朗読によるクリスマス・キャロル」(K&Yカンパニー)を出版し、鹿児島でもささやかなお祝いをすることができた。

ディケンズのことをあまりよく知らない人には、日本の国民的作家夏目漱石の(5年後に控えた)生誕150年での日本での盛り上がりを想像してもらえればよいかもしれない。私が97年にイギリスに留学した時、10ポンド紙幣の肖像はディケンズだったが、ちょうど同じ時期の千円紙幣の肖像が漱石だった。両者ともそれぞれの国民から同じくらい(否、ディケンズは漱石以上に)愛読されている。

冒頭の津波のシーンが問題となり、3・11以降日本での上映が中止となったクリント・イーストウッド監督の映画「ヒア アフター」。主人公のアメリカ人ジョージ(マット・デイモン)は、夜眠りにつく際にディケンズ作品の朗読のCDを聴くなど、ディケンズをこよなく愛する人物として描かれている。死後の世界(ヒアアフター)を扱ったこの作品では、津波で臨死体験をしたフランスの女性ジャーナリストのマリー、双子の兄を亡くしたイギリスの少年マーカス、死者と交信する能力を持つジョージの3つのストーリーが別々に進んでいくが、ジョージがディケンズファンであることが3者を結びつけるという構成になっている。

確かに「クリスマス・キャロル」には幽霊や精霊が登場するし、ディケンズ作品には時として超自然的なものが描かれるけれども、200年前に生まれた著者の本を読むこともまた死者との交信(リーディング)といえるかもしれない。

2012年2月1日(南日本新聞コラム「南点」掲載)