全裸中年男性は文体の舵を取れるか? その2

大学時代の友人連中とやっている「文体の舵を取れ」活動の第二回。
俺はセルフで全裸中年男性縛り。

問2:一段落くらいで、動きのある出来事をひとつ、もしくは強烈な感情(喜び・恐れ・悲しみなど)を抱いている人物を描写してみよう。文章のリズムや流れで、自分が書いているもののリアリティを演出して体現してみること。(~400文字前後)


傘を買うのは嫌だから近道して早く帰ろう、その選択は路地の角を曲がった時に後悔する事になった。
「やあ」
全裸の中年男性がそこにいた。
最低限の下着すら身に着けない体、泥にまみれた素足。小さなビニール傘だけは差していて、けれども薄い頭髪は汗か湿気かでぺっとりと額に張り付いている。
“怪異”、そう脳が判別した時には、全裸中年男性はペタペタと近寄ってきていた。
「傘が無いんだね」
喉から抜ける空気は声にも言葉にもならず、ヒュッと鳴って雨音にかき消される。
背中に貼り付く衣服は雨ざらしだからか、それとも冷や汗だからなのか、それすら考えられない。
この場を離れなければ、という思考だけが走り回る。
「おじさんの傘、使うかい」
思わず後退ってしまうと、全裸中年男性はわずかに目尻を下げる。
「そうか。君はまだ服を着ているものね、なら大丈夫だよ」
脳が言葉と状況の理解をついに拒み、全裸中年男性に背中を向けて一目散に駆け出した。

ずぶ濡れでコンビニに駆け込んでから、自分の肌に貼り付いたシャツの感触に気付き、入り口で腰を抜かした。
ふと横を見ると目に入る安物のビニール傘が、なぜか知らない物のように思えた。

【講評】
「実話怪談っぽい」
「わけのわからない不審者の戯言に謎のリアリティがある」
理解出来ないおっさんは実質怪異

「傘の出自が気になる、売り物なのか傘立てにあるものなのか。ホラーなら傘立てに見た傘が刺さってる(全裸中年男性に先回りされてる)方が怖い」
俺は売り物想定で書いていた。気にも留めなかった日常に全裸中年男性という異質物が侵食する恐怖、みたいなものをアプローチしたかったが…

「傘で始まって傘で終わる話だけどどこにフォーカスを当てたいのか」
「傘or全裸中年男性から服にもフォーカスが当たってしまっている」
「全裸中年男性との接触にフォーカスするのなら要素を絞るべきだった」
要素がとっ散らかって見せたい物がブレた、という耳が痛い意見その1。

「全裸中年男性という存在をアイコニックに使いすぎている」
「『構造がそうだから全裸中年男性でも怖いよね』というアプローチを感じるが、全裸中年男性に対して信頼を置きすぎ」
「文章単体で評価するとしたら全裸中年男性をアイテムとして使いすぎて逆に全裸中年男性に向かい合えていない」
インパクトあるワードに頼り過ぎて文章面・構成面の詰めを放棄しているという耳が痛い意見その2。
全裸中年男性という要素に侵食されていたのは俺だったというホラーなのかもしれない

レアピックに振り回されすぎた失敗ドラフトのような感のある回だった
次回は頭を切り替えてより真摯に全裸中年男性に向き合っていきたい


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