全裸中年男性は文体の舵を取れるか? その3

大学時代の友人連中とやっている「文体の舵を取れ」活動の第三回。
俺はセルフで全裸中年男性縛り。

問3:一段落〜一ページ(三〇〇〜七〇〇文字)で、句読点のない語りを執筆すること(段落などほかの区切りも使用禁止)
テーマ案:革命や事故現場、一日限定セールの開始直後といった緊迫・熱狂・混沌とした動きのさなかに身を投じている人たちの群衆描写。

Zウイルスなんてふざけた未知の脅威が発生したと耳にしてからわずか数日東京都内至る所で汚い声がうおおうおおと響き渡ってこれはまさしく末法の世と言う他はなく渋谷駅前大交差点スクランブルを行き交う者の誰も彼もが尋常でないおよそ人とは思えぬ姿これは駄目だと踵を返し逃げるとするも体は震え這いつくばって吐く息荒くただ気付くなと願い祈るもそれも虚しく首を傾げた一糸まとわぬたるんだ腹の男がじっと俺を見つめる足を踏み出す一歩一歩と近付いてくる怯えに怯え尻もちついて来るな来るなと念仏唱えそれでも俺の前へと迫る全裸中年男性の笑みいや俺はまだ人でいたいと首振る俺を気付けば囲む一十百の全裸中年男性の笑みなにがどうして老若男女誰もがこんな全裸中年男性になど姿を変えてしまったのかは知る由もなく確実なのは俺がもうすぐこんな醜い全裸中年男性どもの仲間となって街をさまようただそれだけがわかる絶望髪は抜け落ち腹はたるんで服を着るのがただ嫌になり自己を解放すれば良いよと内なる声に甘えたくなるそんなの嫌だ俺は人間俺は人間俺は人間俺は人間俺は俺は俺は俺は俺俺俺俺俺俺俺俺おおおおおおおおおおおおおおおおおじさんは全裸でいたいだけなんだよ

七音で区切れる文の連続で構成し(「Zウイルス/なんてふざけた/未知の脅威が」みたいな)、それを人間の理性の表現として据えてみた
「俺は人間」から以後の全裸中年男性に変わってしまう部分でリズムが崩れて"人ではなくなった”事に繋げられれば…という目論見

【講評】
お題に即して一文の中で場面を転換させる、という試みは良い点
他の奴だと夢ネタで脈絡のない話にして区切りの無さを逆手に取ったりもしていた。俺はゾンビ・アポカリプス的な一場面をやりたかった

『一糸まとわぬ』『一歩一歩と』『一十百の』という数字の使い方でメリハリをつけているのも良い
・オチの部分の文字の並びは視覚的に面白いから好き
・七・七だけで連続していくのではなく、日本語的な言葉のリズムを意識するなら五を入れるべき。あるいは八・八などの漢文のリズムを入れていくと良いかも

日本語のリズム的なところは意識していたので、そこに対しての意見は嬉しいところ。
都々逸などのリズムも例に挙げられたが、七での連続というところにこだわり過ぎて日本語でのリズムにまで意識が向かなかったところが悔やまれる

・『Zウイルス』が後から全裸中年男性ウイルスと判明する構成は面白い
まぁお題をセルフ縛りしてたからZ一文字で全裸中年男性なのはバレてたんだけどね

・「なんでこの視点人物はそんな危険なところにいきなりいるんだ?」という舞台設定優先の都合の良さを感じた
それはそう まぁ映画のテイザームービーみたいなのをイメージしてたからそこの背景説明は省いてしまった、書いて良かったのかもしれん

・「なぜ全裸中年男性が嫌なのか?」ってところにちゃんと理由付けがされているからアイコニックな使い方は問題ないかと
・全裸中年男性は人だけどそこまでの恐怖の対象ではないだろ。全裸中年男性には全裸中年男性特有の恐怖の造形があるはず
・「全裸中年男性である意味」を突き詰めて欲しい、広く一般性が欲しい。モノボケに近い
全裸中年男性の在り方を問う感想。もう少し別のアプローチ、例えば哀愁や侘び寂びといった観点で全裸中年男性を表現してみる試みが必要かもしれない

・(上の感想に対し)「街の全裸中年男性屋さん」の看板を掲げてるから別のもの期待されても困るんじゃない?
仕込みは朝三時からですね。早起きは辛いですけど(笑)でもやりがいはありますよ。もう何十年もうちの全裸中年男性が良いって言って、家族で来てくれる常連さんとか見てるとね。あと10年は全裸中年男性で頑張るかって気になりますよね。



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