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2021年7月12日(月) くもり

梅雨明けを目前に控えて、久しぶりの調布。京王線の乗り換えも迷わなくなった。
学生時代の友人は大事にしろなんて物言いもよく聞いたし、歳をとるごとに友人は減っていくばかりだろうと思っていた。でも、そんなこともなかった。確かに友人づきあいは減っていくかもしれないが、それは必要ないから減っていくのだ。必要なら必ずまた現れる。「おー、待ってたぜ。いままでどこに隠れてたんだよ?」と言いたくなるような出会いが、ときどきある。

サン・ミュージックスタジオに入ると受付のみんこさんが笑顔で迎えてくれた。左を向くと、マツイヒロキくん、でぃるくん、そして今日初めて会う堀口薫くんの姿があった。レッドホットチリペッパーズのコピーバンド練習のために集まったのだ。元々、彼ら三人が中心となって練習していて、ボーカル不在の状況だったので、そこに俺がカラオケ気分でふらっと遊びに来るかんじで参加することとなった。とはいえ、やるなら真剣にやる。遊びならなおさら。俺はこの一週間、大学受験以来の熱心さで、英語のリスニングに取り組んでいた。ふりがなやアクセントを書き込んだA4用紙を15枚ほど持ち込んだ。

それにしても、エレキギター、エレキベース、ドラムスのメンバーが揃っているスタジオ練習なんて久しぶりで、セッティング中の音を聴いているだけで気分が高まってくる。しかも、十代の頃から散々聴いてきたレッドホットチリペッパーズのフレーズがイントロクイズのように鳴っているのだから。
特に薫くんのギターは、音色が紛れもなくジョン・フルシアンテのそれで、技術よりも愛情を深く感じさせた。彼は音符ではなく、ビッグマフの歪みやジョン・フルシアンテの腰つきこそコピーしていた。そんな彼はどこに住んでいるのかと尋ねると、サン・ミュージックスタジオからも近いところだと言う。Twitterで彼と連絡をとったときのことをヒロキくんは興奮気味に話していた。「あー、待ってたぜ。いままでどこに隠れていたんだよ?」と言いたくなるような出会いが、ここにもひとつあったらしい。
2時間の練習はあっという間に終わった。豊富すぎるレパートリーは、同じ曲をもう一度演奏することを許さなかった。楽しかった。初めてのメンバーでスタジオに入るときはたいてい緊張するのだけど、俺がいなくても彼らはレッドホットチリペッパーズし続けるという安心感もあって、俺は俺のレッドホットチリペッパーズをすることが出来た。
 
練習を終えてロビーで休んでいると、ズキスズキがやってきた。彼とヒロキくんとでぃるくんの三人は、potekomuzinというバンドで活動している。このあと彼らは彼らで練習があるのだった。「え、なんで五十嵐くんがいるの?」と、何も知らないズキスズキは驚いていたが、「おー、待ってたぜ」と不敵の笑みで俺は言った。

調布は遠い。俺は外が明るいうちに帰るつもりだったが、彼らの練習が終わるのを待つことにした。夕方、みんなで缶ビールを飲んで、ラルクアンシエルとブランキージェットシティーの話をして笑った。

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