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VR社長消失事件 第二話「メッセージ」

田中部長が青山のデスクへと近づき、深刻な面持ちで話した。
「青山、会議は中止した。それから、社長と連絡が取れないと秘書から連絡があったよ。」
声には焦りが隠せない。
青山は瞬間、言葉を失ったが、すぐに冷静を取り戻し、落ち着いて答えた。「私はシステムのログから社長のVR空間での動向を追っています。何か手がかりがあれば、すぐにお知らせします。」

田中部長は青山のプロ意識を評価しつつも、心中穏やかではない。
「早くしてくれ。しかし、会社の合併を決める重要な会議でなんでこんなことに…」
彼の声は消え入り、独り言のようにオフィスに響いた。

その時、廊下を照らす照明の下で、香川麻衣が青山のオフィスに急ぎ足で近づいてきた。彼女の手には、何か握られていた。
「青山さん、これを…」
と彼女が言いかけたところで、田中部長とセキュリティチームの横田本部長が部屋に入ってきた。

「青山さん、警察が来ています。捜査に協力をお願いします。」
横田本部長の声は、この緊迫した状況を一層引き締めた。

青山は深いため息をついて立ち上がった。「分かりました。今すぐにいきます。」

田中部長が青山に近づき、耳元で囁いた。
「青山、お前が何かを隠していると思っているわけではない。だが、社長の行方が分からない以上、我々への疑いの目は避けられない。しっかりと協力してくれ。」

「はい、もちろんです。私も社長が無事であることを願っています。」
青山の返答は真摯だったが、心の奥底では、この状況が自分のキャリア、いや、人生を左右するかもしれないという重苦しいプレッシャーを感じていた。

警察の調査が終わり、青山がオフィスの席に戻ったのは23時を過ぎていた。彼の心は疲れきっており、終電に乗る気力もない。結局、夜食を買って徹夜でもしようかと思っていたその時、香川麻衣が青山に急を告げた。

「青山さん、すぐに社長室に来ていただけますか。」

社長室に着くと、香川が震える手でUSBメモリを取り出し、隣に置かれたメモを指した。「青山へ、これを見て次の指示を待て」
と書かれていた。

つづく

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