VR社長消失事件 最終回 「ある男の最期」

座標が示した場所に到着した青山は、目の前の光景に息を呑んだ。それは墓地だった。ここには古い石碑の代わりに、透明なガラス製の記念碑が並び、それぞれにデジタル表示が施されていた。このディスプレイには故人の名前や生涯の概要、そして彼らの遺した言葉が映し出されている。墓地全体には静寂が漂い、それぞれの記念碑は柔らかな光を放っていた。

青山はゆっくりと中を歩き始めた。そして、一つの記念碑に目が留まった。そこにはなんと「青山孝司」と彼自身の名前が書かれていた。彼はその場で立ち尽くし、信じられない思いでその記念碑を見つめた。彼の心は混乱と驚愕で満たされ、彼は自分の頭を抱えてしゃがみ込んだ。

「これは一体どういうことだ…?」彼は呟いた。

その時、青山は背後に気配を感じ、振り返った。そこには社長と、先ほどのホログラムの女性が立っていた。女性は青山とプロジェクト・エクリプスで一緒に働いたメンバーだった。青山は驚きと混乱の中で彼らを見つめた。

「社長、そして・・・綾瀬?」
青山は声を震わせながら問いかけた。

綾野まゆみは、青山がかつて携わったプロジェクト・エクリプスの重要なメンバーであり、優れた技術者だった。彼女は青山と同じく、仮想現実とAIの分野での専門知識を持ち、プロジェクトにおいて重要な役割を果たしていた。綾野は特に、仮想空間の設計と開発において、その才能を発揮していた。

しかし、プロジェクト・エクリプスが中止された後、綾野は公の舞台から姿を消し、その後の消息は不明だった。青山は彼女の名前を聞いても、記憶の中で彼女の顔をはっきりと思い出すことができなかった。それは彼の記憶がAIに移行された際の影響か、あるいは彼女が意図的に自分の存在を隠していたためかもしれない。

「青山さん、実は君は…」綾瀬の声は重く、言葉を選ぶように続けた。「あなは多忙を極め、健康を顧みることなく、病気に気づかなかったの。君はもうこの世にはいないんです。」

青山は全てを思い出した。。彼は死ぬ間際に、自身の脳をAIに学習させ、プロジェクト・エクリプスで開発した閉鎖空間に保存する決断をしていた。その体は、社長が裏社会から調達した、青山と同じ年代の人間のものだった。青山の脳は、現実世界では生き続けることができなかったが、プロジェクト・エクリプスの世界では、その記憶と意識が保たれていたのだ。

この計画には、社長と綾野まゆみが深く関わっていた。二人は青山の決断を支え、プロジェクト・エクリプス内で彼の意識を維持するための技術的なサポートを提供していた。綾野は、青山の脳波とAIの同期作業において重要な役割を果たし、彼の意識がデジタル世界で正しく機能するように努力していた。

「青山さん、あなたの選択を尊重し、最後まであなたを支えるために、私はここに残りました。」綾野は青山にそっと告げた。
「プロジェクト・エクリプスの世界で、あなたの意識が続くよう、私たちはすべてを尽くしました。」

社長は青山と綾野まゆみに向かって深刻な表情で話し始めた。
「実は、会社を売却することになったんだ。買収条件として、青山がかつて担当したプロジェクト・エクリプスで開発したプログラムの譲渡が求められている。」

プログラムを譲渡するということは、彼の意識を停止させることを意味していた。社長と綾野はこの困難な決断について事前に計画を立てていた。

「プロジェクト・エクリプスの空間にあなた自身が入り、システムを停止させる。」

そのために、社長は自らの行方をくらまし、青山になぞ解きをさせ、プロジェクトエクリプスのシステム停止へと導いたのだった。

青山がプロジェクト・エクリプスのシステムを停止させたことにより、彼自身の存在もまた、やがて終わりを迎えようとしていた。彼の意識は二人の前で徐々に薄れていった。社長と綾野まゆみは、静かに彼の傍らに立ち、青山の後頭部から小さなチップを慎重に取り出した。そのチップは、彼の意識とプロジェクト・エクリプスを繋ぐ最後のリンクだった。

会社は、その後、予定通りに売却された。新しい所有者はプロジェクト・エクリプスの価値を認識し、将来的にそのシステムを再び起動する可能性があった。しかし、青山が再び目を覚ますかどうかは、誰にも分からなかった。

おわり

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