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小説「魔王と社長の憂鬱」第六話

「再開の夜」

数年の時が流れ、再び時空の歪みの中、あの不思議なバーで魔王モルダンと田中は顔を合わせた。バーテンダーは二人が初めて会った時の酒を差し出した。

田中は懐かしそうに笑いながら言った。「久しぶりだね、モルダン。魔界での日々は、初めは本当に大変だった。特に、言葉の通じない魔物たちとコミュニケーションを取るのは難しかったよ。でも、彼らが私の命令を疑わず、夜も寝ずに一生懸命に動いてくれる姿を見て、本当に魔物たちのことが好きになったんだ。人間界ではできないことだからね。」

モルダンは目を輝かせながら答えた。「そうか。ワシは、人間界の生活は新鮮で楽しかったぞ。はじめは魔法が使えなくて、腹正しかったが、人間は言葉という武器があるのだな。人間の社長としての役割は未知のものだったけれど、人間たちの努力や絆、そして社会貢献という、魔界にはない文化に触れることができたの。それが私の会社を成長させる原動力となったわ。」

田中は興味津々にモルダンを見つめた。「それは素晴らしい。魔界と人間界、両方の経験を持つ私たちは、お互いの世界の良さや困難さをよく理解しているね。」

モルダンは微笑みながら言った。「そう、人間の力はワシが思っていた以上にすごいものだったし、それがまた魅力だったの。田中は魔界のどの部分が一番印象的だった?」

田中は考え込んだ。「やはり、私が住んでいた人間の世界とは違い、魔法が使えて、私は人間を滅ぼすために魔王の役割を務めることかな。私が人間の世界で社長をしていた時とは逆のことばかりだったからね。」

二人は、それぞれの世界での経験や学びを語り合い、夜が明けるまで時を忘れて話し込んだ。

しばらくして田中はモルダンに、顔を伏せながら言った。「モルダン、正直な話、私は人間界に戻りたい。家族がいるし、やはり、人間の暮らしや人々とのつながりが恋しいんだ。」

モルダンは驚きの表情を浮かべたが、すぐに笑いながら返事をした。「おぉ、そうか。お前が魔界に残りたいと言ったら・・・。まぁ、良い。それなら、私たちを元の世界に戻してくれる魔法を知っている者がここにいる。」

田中はバーテンダーの方を向いた。バーテンダーはにっこりと笑いながら、特別な魔法の杖を取り出した。「この魔法で、二人とも元の世界に戻れますよ。」

モルダンと田中はお互いに頷き、バーテンダーの魔法を受け入れた。一瞬の光の中、二人はそれぞれの世界へと戻っていった。

静かなバーの中、時間が再び動き出すのを待つバーテンダーの姿だけが残されていた。

つづく

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