見出し画像

VR社長消失事件 第三話「脅迫電話」


社長室に着くと、香川が震える手でUSBメモリを取り出した。それは、社長が消えたときに使っていたVRシステムから回収されたものだった。隣に置かれたメモを指して、香川は青山に言った。

「青山さん、これを見てください。『青山へ、これを見て次の指示を待て』と書かれています。」

青山は、USBメモリと一緒に見つかった不吉なメモをじっと見つめた。
-なぜ、私なんだろう。社長とは特別なつながりがあるわけでもないのに。-
青山は心の中でつぶやいた。彼は社長の秘書である香川に目をやった。香川は不安そうに青山を見つめていた。

「香川さん、これは警察に届けましょう。」

青山は深くため息をついて言った。
彼はUSBメモリに何が入っているのか気になったが、自分で開くのは危険だと思った。もしかしたら、ウィルスや危険な仕掛けがあるかもしれない。それに、警察に任せた方が早く社長の行方を突き止められるかもしれない。

香川は心配そうにうなずきながら、応じた。

「はい、そうですね。ですが、田中部長に承認を取ってからにしましょう。」

香川はなずくと、田中部長に電話をかけた。

部長はすぐに社長室にやってきた。その表情は疲労に満ちていた。彼は社長の消失事件の責任者として、警察やマスコミの対応に追われていた。
青山は田中部長に電話をかけた。部長はすぐに社長室にやってきた。その表情は疲労に満ちていた。

「青山、そのUSBメモリに何が入ってるんだ? しかもお前宛てにだと? 何か心当たりはないのか?」

田中部長は青山に詰め寄った。彼は明らかに青山を疑っていた。

「心当たりはありません。でも、これは犯人からの手がかりになるものです。警察に任せるべきです。」

青山は首を振り、断固として答えた。彼はUSBメモリを田中部長に渡した。田中部長はそれを受け取り、しばらく眺めた。

「わかった。今日はもう遅い。青山、警察には連絡だけしておいてくれ。USBは青山が金庫室に保管すること。他のことは明日対応しよう。まだ、終電に乗れる時間だし、今日はお疲れ様。明日も朝一から対策会議をよろしく頼むよ。」

田中部長はそう言って、オフィスへと消えていった。
青山は今日くらいタクシーで帰らせてくれよと思ったが、反論する気力もなかった。

青山は自分の席の荷物を取りにオフィスに戻った。自席に戻ると、青山の席にある電話が鳴っていた。こんな時間にしかも、電話とは誰だろうと思いながら、受話器を取ると、無機質な声が聞こえてきた。

「青山君、USBは開きましたか?」

青山は電話の声に驚き、手が自然と震えだした。彼の心臓は激しく打ち始め、オフィスの静寂が突然重く圧迫してくるように感じられた。

「USBに書いてある指示を2時間以内に実行しなければ、社長の命はありません。もちろん警察に連絡しても同じです。」

社長の命が危ないというのか。それに、警察に連絡してもダメだというのか。青山は怒りと恐怖を感じた。この声の主は、一体何を企んでいるのだろうか。彼はなんでもいいから手掛かりを得ようと必死に声を絞り出した。

「あなたは誰ですか? なぜ私なんですか?」

電話の声は少しの沈黙の後、答えた。

「それは答える必要がありません。あなたが作ったシステムがきっかけで事件がはじまっています。警察はあなたを疑っていますよ。従わなければ、この事件の主犯をあなたにすることだってできます。さぁ、今から2時間。スタートです。」

電話は切れた。青山は受話器を置き、自分の頭を抱えた。一体、これは何なんだ? こんなの推理小説の世界じゃあるまいし…警察に連絡するべきだ、社長がどうなろうと、これはもう俺の問題ではない。だが、電話の声が言った通り、もし自分が犯罪者に仕立て上げられたら?

長い葛藤の末、青山はパソコンにUSBメモリを差し込んだのだった。

つづく

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?