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『なぜ今、管轄レベルのREDD+クレジットが求められるのか。今後の見通しは?』

ウェビナー「森林カーボンクレジットの動向:管轄REDD+とは何か?」フォローアップ その2

先月、IGESでは「森林カーボンクレジットの動向:管轄REDD+とは何か?」と題したウェビナーを開催し、多くの方にご参加いただきました。ありがとうございました。事後アンケートで、「ぜひ文面でも議論の結果をまとめてほしい」、「可能な範囲で答えられなかった質問にも回答をしてほしい」などの温かいご要望をいただきましたので、こちらのノートで、2回に分けて議論の結果と質疑の回答を公開します。

このノートはウェビナーの内容に基づいて執筆していますので、まだウェビナーをご覧になっていない方は、ぜひウェビナーの動画をご覧になってからお読みください。

その2では、管轄レベルのREDD+クレジットが求められる背景について、先日のウェビナーで議論した内容を振り返りたいと思います。

瀧本さんのご講演の中では、考えられるクレジットの使途として次の4つが挙げられていました。

  • 企業の気候変動対応コミットメントのためのオフセットとして

  • CORSIA達成に

  • 先進国政府がNDC達成のために

  • ブローカーが扱う商品として

  • 公的資金で行ってきたR+成果支払いに

ARTでは、2020年にガイアナに対して世界で初めての管轄REDD+クレジットを発行しており、現時点で、ART以外の管轄クレジットは他にないため、管轄REDD+クレジットの売買が成立し、情報が公になっている例としては、今のところ、このガイアナの例だけと考えられます。

この例に関しては、2022年、Hess(ヘス)という石油や天然ガスを取り扱う米国のエネルギー会社がガイアナ政府から購入しています。同社のサステイナブル・レポートによると、TREESのクレジットは、同企業はネットゼロ目標達成の一環として、従業員の出張に伴い発生する排出量をオフセットするために活用したと報告しています。

この他、2030年までに熱帯林減少ゼロに向けて、LEAF Coalition という官民パートナーシップが今後ARTのTREESクレジットを購入することを宣言しています。ノルウェー、イギリス、米国、韓国の他、アマゾン、ネスレ、ユニリーバといった国際的企業が名を連ねています。2023年11月時点、まだTREESのクレジット購入には至っていません。

ARTでは、現在、13の国の政府と、5つの準国政府が参加主体として登録しており、今後、ガイアナに続き管轄レベルのREDD+クレジット発行が増えていくことが期待されます。

また、瀧本さんのご講演の中では、ARTでは、炭素を超えて、生物多様性保全の付加価値を加えたクレジットの創出に向けて準備を進めているとのことでした。REDD+クレジットは、森林減少防止に伴う二酸化炭素の排出削減量に対して発行されます。実際には、森林減少防止は、カーボンのみならず、生物多様性といった様々な森林の機能の保全に繋がり、これらの効果を踏まえ森林に対して適正な価値が付与されることが期待されます。


謝辞:ARTアソシエイトダイレクターの瀧本さんに本稿をレビューいただきました。感謝申し上げます。

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「もっと知りたい世界の森林最前線」では、地球環境戦略研究機関(IGES)研究員が、森林に関わる日本の皆さんに知っていただきたい世界のニュースや論文などを紹介します。(このマガジンの詳細はこちら)。
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文責:梅宮 知佐 IGES生物多様性と森林領域/気候変動とエネルギー領域 リサーチマネージャー(プロフィール

ウェビナー「森林カーボンクレジットの動向:管轄REDD+とは何か?」フォローアップ その1はこちら


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