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現行のiGEM Japan Communityを解散します


はじめに

今年は、日本から出場するiGEMチームも増え、高校生チームの活躍も目まぐるしく、今後の発展への変曲点となる年だったのではないでしょうか。 
さて、そこで2024年からiGEM Japan Communityは現在の運営・組織方式を改めることにしました。現在の現役iGEMer中心のコミュニティを解散し、卒業生のためのコミュニティに移行します。現在の現役生向けコミュニティで運営が積極的に行なっていた大半のコンテンツは廃止いたします。本記事では、この決定に至った背景を記したいと思います。

ご批判等様々あると思いますが、以下のメールアドレスまでご連絡お願いします。igemjapan31@gmail.com 
*本記事は、運営の滝沢と竹内の2人の共著です。
*本記事は、あくまで我々運営の思いと決定事項をお伝えするもので、個人に対する批評では決してございませんし、これからを考えた建設的な考えであることを踏まえた上でご一読ください。

今までのiGEM Japan Communityについて

現行のiGEM Japan Communityは、日本においてiGEM Competition出場を志す人たちが情報共有をする場として設置されました。iGEM Competition(以下、iGEMと略します)を運営するiGEM HQ(本部)の傘下にもiGEM Community(別称: Global Community)と呼ばれる世界のiGEM経験者が集うコミュニティがありますが、これらとは独立で、日本独自のスタイルで運営されています。
*ちなみに、本iGEM Japan Communityは、傘下として動いてはいないものの、名前を使うこと等に関しては本部に同意を頂いております。

今シーズンは、本部の役職を持つiGEM Ambassador1人と、その他2人の計3人で運営を行い、以下のようなことをしてきました。

  • 3度のMeet upの開催

  • 輪読会の定期開催

  • 専門家や有識者を呼んだ不定期の講演会開催

  • 分生学会・超異分野学会において、対外発信

  • 個別のチーム運営上の相談

  • チーム立ち上げサポート

  • (Discord serverの管理)

決定に至った背景

本コミュニティは、日本の学生が、iGEMを通じて合成生物学分野に触れ、知見や志を高めることで、今後の合成生物学界やバイオテックの領域での先駆者たちの繋がりを作りたいとの思いで、設立されました。iGEMは、元来教育ツールとして作られたもので、コンペに勝ってゴール、というわけではありません。

近年のJapan Communityでは、iGEMで疲弊し切って、大会後にプロジェクトを継続する人や、後進のために残る人がいないこと、またほぼ全員が音信不通になってしまうことが課題として挙げられてきました。しかし、運営の身として、今年活動を行う中で気づきがありました。学会などで、より前の世代でiGEMに出場していた方々が、iGEMのPIやアドバイザーなど後進育成に興味を示していらっしゃり、受け継がれるiGEMマインドを感じたのです。そこで、日本でも本部と同じく、iGEM経験者たちを対象にしたコンテンツや、卒業後つながることのできる同窓コミュニティを作ろうと思い立ちました。

そしてもう一つ、重要なこととして、運営サイドにiGEM本部の人間がいなくなりました*。本部では、毎年AmbassadorとProject Headという役職の募集があり、Japan Communityの運営陣の最低1人は役職を持ってきました。今年は1人がAmbassadorとして仕事を行いました。
近年、iGEMはルールや部門ごとの力の入れ方など潮流が目まぐるしく変わっています。そんな中本部に属する人間がいないと、状況判断は非常に困難です。たとえ数年前の古い価値基準でアドバイスを行なったとしても、正しい方向に導けるかについては、懐疑的です。iGEMは、数学オリンピック等の競技科学とは異なり、正解が決まっていません。点数性ではありますが、割り振られたJudgeがプレゼンや資料を見て評価を下します。いわば、フィギュアスケートの採点のようなもので、Judgeの解釈が挟まります。そういった中で、最新の潮流を掴んでいない運営が口出しするより、チーム各々が本部の人間に直接コンタクトを取る形が最適であると考えました。
*この記事の筆者らがやれと言われればごもっともですが、今年は都合上厳しかったです。来年以降はやるかもしれませんが。

最後に、今までの活動が目標に沿ったものではなかったかもしれない、ということを付け加えます。現役生・現役チームが集うコミュニティの目標といえば、コンペティションで最高の成績を残すこと、に他なりません。
現役チームのiGEMに対する向き合い方は二つあると思っています。一つは、本部の思いの通り、世界のiGEMチーム同様、iGEMを通過点として使用し、元々やりたいことがある学生たちが世界中の同じ様な志を持つ者と切磋琢磨する目的で参加する。例えば、iGEMというプログラムを使って自分のやりたいテーマで自由に研究をやってみたい、海外のチームとJamboreeやその他プログラムで交流したいといったものです。二つ目は、そういったことは余り視野に入れず、本気でGrand Prizeを狙いに行く、iGEMの競技性の部分を切り取って楽しむ。運営の中の人間としては、どちらでも良いと思います。どちらも魅力的だと思います。前者を目指すならば、そのような基盤が整っていない日本よりも、思い切って海外に出て積極的に交流しに行くのがいいと思います。世界中のチームが発信ツールを持っているのでコンタクトは容易です。必要なのは勇気と実行力だけです。また、後者を目指すとすると、少なくとも運営が提供するもので、横道に逸れたり、無駄なことは省かなくてはいけません。チームのPIではない立場として運営が提供できることは、その出場経験と”iGEMに関する”知識の共有です。アカデミックなディスカッションや、個人的なある意味趣味の領域の交流などは、大会で勝てるならいいですが、コミュニティの目的からは外れていると考えました。大会後、時間ができた時にそういったディスカッションや交流ができる機会を設けるのはとても良いことだと思うので、そういった面でもiGEM同窓生のコミュニティへの移行を決断しました。

今後、現役生向けに残すコンテンツ

まず、現在運用しているDiscordサーバーは残します。現役生同士が適切なコミュニケーションを図れる環境があることは大切だからです。Twitter等のオープンな場だけではなく、誰でも管理ができて、ある程度閉じているDiscordのようなコミュニケーションツールを使い続けるべきです。今後とも、皆さま、積極的にご活用ください。そして、新しくiGEMに挑戦しようという人がいたら、Discordに招待してあげてください。
次に、現役生向けのMeetupは運営ノウハウを公開し、移行した後の運営がサポートする形で現役生と一緒に行います。オンラインや対面を通して、他チームの全く関わりのなかった人と知り合うことは非常に有意義です。
輪読会や講演会といった企画を運営側から提供しているものについては廃止します。また、Ambassadorがいたことにより行なっていた対外発信も、辞めます。そして、各チームがGlobal CommunityやHQ、世界のチームに直接アクセスする体制に改めます。

残すもの

  • 現在運用しているDiscord server

  • 定期開催のMeetup

廃止するもの

  • 輪読会企画(運営主催のもの)

  • 不定期講演会企画

  • 運営側の学会における発表宣伝

  • 新規チーム等に対する積極的な介入

iGEM Japan Communityの組織体制の概念図(青丸は各チーム)

これからの人に目指してほしいこと、期待していること

少なくとも、2024年はGlobal Communityの役職の人間がいない以上、現役生は個別にGlobalにアクセスし、潮流を掴みましょう。本部から海を挟んだ遠くで我流で頑張るのではなく、情報を掴み、スマートに戦いましょう。感心した海外チームにメールやDMを送ってみるのもいいですし、iGEM Global Ambassadorのメンター制度を使って過去の優勝者に話を聞くのもとても良いです。受け身ではいけません。折角人生の貴重な時間とお金を費やすのですから、野心的に、ハングリーに。各チームのやりたいことを純粋に極め、今まで以上にそれぞれの色を発揮しましょう。

2025年以降は、私(筆者)がGlobal Communityの役職に着くかもしれませんが、それより新たに日本チームからGlobalに飛び込み、他のチームやこれからの世代の日本チームのロールモデルとなるような先駆的なアントレプレナーが生まれることを期待しています。使用言語が英語で、文化もHQに沿えるのであれば、本部の傘下としてJapanの新しいleagueなどを立ち上げるのもいいと思います。海外のプロジェクトに参入してスタートアップを体験してみるのも良いと思います。また、国内のエコシステムを使ってスタートアップまで繋げることを目指すのも、素晴らしいと思います。

バイオテクノロジー分野では、(もうすでに日本は数歩遅れていますが、)ここ最近世界中で巨大なハブ設立や、街単位での開発推進が行われています。この波を逃すと、もう日本は追いつけないかもしれません。

活動の振り返り(反省)

現行の方式で上手くいったこと
現役生間の交流はここ数年で格段に進んだと考えております。しかも、コロナウイルスによる対面でのイベントが行えないにも関わらずです。多くの学生コミュニティがコロナ禍を通じて衰退しましたが、Japan Communityは人の交流が拡大しました。また、YomogyAdvent Calenderによるブログ記事の集積化が進みました。今まで散逸していた、iGEMに関する日本語の記事がまとまって見れる場所が出来ました。これにより、日本語を母国語とする人がiGEMの情報を日本語である程度知れる状況ができました。そして、学会発表やコミックマーケットへのサークル参加を通じて、iGEMを国内で今まで関心の薄かった人に知ってもらう活動を行うことができました。

現行の方式で上手くいかなかったこと
まずはじめに、iGEMに関する知識の共有があまり進まなかったことです。これは、iGEMが大学生が運営するサークル組織でもあるという一面にも依存しています。各チームに常にiGEMを経験し、知識を継承できる卒業生を配置することができませんでした。例えば、新規チームにはiGEMの知識のある方が少ないので、色々分からないことが出てきます。また、チームの代替わりで、卒業生がほとんど残らないチームも存在しています。そのような状況で必要な人材は、iGEMの経験があり、知識を継承できる卒業生です。

また、iGEM本部で働きに行く人を増やせなかったのも課題です。iGEM Japanの運営は別で本業を持っている有志のボランティアで行われています。国内と海外の両方で活躍するのは、時差等の関係もあるので、普通の体力の持ち主では到底困難です。私たち運営自身が海外に出ていく必要もありましたが、国内の環境整備に注力したため、海外に目を向けることが難しかったです。国内で環境が整備されて、iGEMをただの大学サークルではなく、コミュニティとして参加する経験を多くの人が積むことで、初めて海外のコミュニティで働けるようになると考えています。

そして、コミュニティに卒業生がほとんど残らなかったことも課題です。本コミュニティは先ほども述べたように、日本の学生が、iGEMを通じて合成生物学分野に触れ、知見や志を高めることで、今後の合成生物学界やバイオテックの領域での先駆者たちの繋がりを作りたいという考えから始まりました。しかし、コミュニティに残って活動してもらう卒業生に対して、メリットを提示することができませんでした。その結果、残って活動をして頂いた卒業生や、外部でiGEMの発信をしてくださった卒業生は、完全な善意のボランティアになっていました。人が繋がってくれることが目的なのに、卒業と同時に連絡が取れなくなるという課題があります。

さらに、コミュニティの中心メンバ―である学生が主体的に動かすプロジェクトがあまり生まれなかったことが課題です。学生がコミュニティのプロジェクトとしてコミケにサークル参加して同人誌を出版してくれました。主催者のかた、本当にお忙しい中ありがとうございました。このような活動がもっと拡がるような支援策を運営側から打ち出すべきでした。

最後に、新規チームとしてコミュニティに参加してくれる人たちへの支援を十分に行えませんでした。iGEMに挑戦するには多額の資金や、大学を含む地元の方からの大いなるサポートが必要です。しかし、このような体制を築くための、ソフト面での資源を持ち合わせていませんでした。この結果、挑戦したい人にとっては、不甲斐ない感情を抱かせてしまったと思います。

謝辞

まず、iGEM Japanの活動に共感してくださり、大変お忙しい中、色々な活動に参加してくださったiGEMerの皆さまへ、多大なる圧倒的な感謝を申し上げます。iGEM Japan Communityが現行の形になってから数年間もの間、活動がより活発になったのは皆さんのおかげです。本当にありがとうございました。iGEMを卒業した後も、コミュニティに遊び感覚で帰ってきてください。私たちが、iGEMerとして帰ってこれる場所、帰りたくなる場所を作ります。

また、iGEMの学生を受け入れてくださっているPIの皆さま、及び大学の関係者の皆さま、日頃より多大なるご協力をしていただきありがとうございます。PIの皆さまと運営との交流が不足しており、ご迷惑をおかけしたこと、お詫び申し上げます。今後は、よりコミュニケーションを取るように心がけます。

次に、各チームの卒業生として、各チームの支援に当たっているアドバイザーの皆さま、いつもありがとうございます。ぜひ、卒業生向けのコミュニティへのご参加よろしくお願いします。

そして、iGEM 各チームやiGEM Japan全体を支援してくださっている企業や行政の皆さま、今後ともご支援よろしくお願いします。

 最後に、iGEMに挑戦しようという日本の学生を陰ながら応援してくださる皆さま、今後とも応援よろしくお願いします。

文責:iGEM Japan Community2023運営 滝沢・竹内



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