温泉馬鹿

 秘湯マニアと呼ばれる人達が居る。人里離れた場所にある温泉に、最寄り駅と呼べない最寄り駅から向かう猛者達である。その多くは車の通れない道の先にあるため移動手段は徒歩で、時に本格的な登山用の装備を身に着けていることもある。
 ただ、よく考えてみれば秘湯でなくても温泉地や旅館は山奥のことが多い。火山活動によって地下水が温められると考えれば当たり前のことだが、有名な観光地でもよく調べずに宿をとると酷い目にあったりする。逆に考えれば日本の温泉は殆ど秘湯なのかもしれない。手軽な温泉施設であるスーパー銭湯ですら郊外にあるのだから温泉と交通の便の悪さはある種セットなのだ。
 しかし、それでも人は温泉を求める。せっかくの休みに早起きして、電車とバスを乗り継ぎ、さらにそこから十数分歩いて日帰り温泉を堪能する。そしてまた同じ道を同じ時間かけて帰り、家に着く頃にはすっかり日も暮れてあとは寝るばかり。それだけ大掛かりことをしてやることが、たかだかでかい風呂に入るだけと考えると馬鹿馬鹿しいが非生産的な活動を非合理的な方法で成し遂げた時にしか味わえない幸福があるのも確かだ。
 つまり、くつろぎに来たはずのスーパー銭湯でブルーライトをガンガン浴びながらこの文章考えているのも一種の幸福なのかもしれない。書き手がまったくそう感じていないのなんて些末な問題だ。もし仮にこの文章が現国のテストに出て「作者の気持ちを答えよ」という問があれば、早く終わらせてビールを飲みたいが正解だ。ちなみに、アテを何にするか迷っていることまで想像出来ていれば追加で10点を上げてほしい。
 最早何を目的に書き始めたかも見失ってしまったが、人の思考力を容易に奪ってしまうほど温泉は魅力的だということだ。

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