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エンリッチメントってどうやるの?

先日、noteにて「エンリッチメントってなに?」を記しました。

動物園における環境および行動エンリッチメントとは、飼育環境下で飼育する動物に、本来(野生下で)行うであろう自然な行動パターンや行動配分を引き出すためのあらゆる取り組みのこと

動物園で飼育される動物は、野生下での生活と比較すると、捕食される危険がなく、餌を探す労力も必要とせず、病気や怪我の心配が少ない反面、それは、動物にとって余暇を持て余す状態となりがちです。結果、寝ている時間が野生下より増え(結果、体力低下による失病の可能性が上がるなど)たり、無気力や、異常行動(意味のない常同行動や、自傷行為など)につながる可能性もあります。
また、無気力な動物より、活動的な動物を来園者に観てもらうほうが、好感度も上がり、結果的に集客に繋がっていきます。

そこで、エンリッチメントの導入があらゆる動物に必要とされ、実施されているのですが、エンリッチメントの導入には危険性も伴います。

上記の市民ZOOネットワークのページには、このような注意喚起が記されています。

※エンリッチメントは、事故の原因となることもあります。
導入にあたっては、継続して観察をするなど、慎重を期すことが必要です。

今回は、以前紹介したオンライン教材(英国のNGO団体WILD WELFARE発行)と、WILD ENRICHMENTのWebに記された、エンリッチメントの導入手順を紹介します。

オンライン教材のENRICHMENT PROVISION(P.7)に記された図および手順概要は、WILD ENRICHMENTの情報を参照しており、ほぼ同じ図を用いて、より簡略化した手順が記されています。より詳細な手順を必要とする方は、WILD ENRICHMENTの情報を参照してください。

エンリッチメント手順
1:博物学(自然史)の研究
野生動物を飼育している場合、その動物が本来野生下でどの様な行動パターンとその其々の行動配分を調査、または論文などを参照します。

2:目標や行動の確立
1の結果と、飼育下の動物の行動と比較し、より野生動物の行動に近づけるための、目標と行動を決定します。
(個人的な追記:飼育下の動物に行ってもらいたい、目標となる野生下での行動パターンや行動配分は、複数になるはずです。それぞれの行動ごとに、目標を設定します。目標は、回数や時間など、定量的で計測可能な目標を設定することをお勧めします。なぜならば、後述する実施したエンリッチメントの有効性評価が容易になるためです。また、睡眠時間をn時間減らすとか常同行動を現時点からn割減らすといった目標は、代わりに行ってもらいたい行動を目標設定に組み入れてください。これは睡眠時間や常同行動が減った代わりに自傷行為など別の異常行動が増えていれば有効性があると評価できないためです。)

3:アイテムの設計
2の目標や行動を実現するための仕掛けを設計します。

4:安全性の配慮
3で設計した仕掛けにたいして、動物にリスクがあるかを評価します。
(個人的な追記:リスクは、期待との食い違いになります。食い違いはマイナス面だけでなく、プラス面も考慮します。リスクは、発生しやすさと発生した際の結果(コスト)をもとに計算します。例えば発生しやすさ、結果を三段回にわけ、リスクがどこに当てはまるかを評価します。このようにリスクを分類し評価することで、リスク対策の優先度がわかりやすくなります。
その後リスクに対して、対策が必要と判断されれば、発生しやすやを改善するか、結果を改善することで、対策を行います。対策後は、リスクの再評価を行います。対策が必要ない(リスクが受容できる)状態になるまで繰り返します。あくまでもエンリッチメント向けのリスクマネジメント例で、一般企業におけるリスク対策の分散や移転などは触れていません。)

5:仕掛けの作成
3の設計や4の安全性を考慮して、適切な材料を用いて仕掛けを作成します。

6:導入計画の作成
エンリッチメント用の仕掛けで悪影響があった場合の行動計画を策定します。
(個人的な追記:悪影響とは何かをあらかじめリストアップすることをお勧めします。項目ごとに事前準備、影響時の行動などを記します。行動だけでなく、連絡先などの参照すべき情報か参照先も記します。また導入取りやめの判断基準も導入計画に設けるべきです。)

7:導入と観察
エンリッチメント用の仕掛けに対する動物の反応を継続し的に観察します。2で策定した目標や行動に基づいて反応を記録するとともに、仕掛けが操作された時間などの情報も記録します。
(個人的な追記:導入に先駆けて、仕掛けを動物に慣れてもらうなども必要ですね。導入直後は事故などを考慮して、一定時間観察することも多いでしょう。しかし事故は一定時間経過後、動物が仕掛けに慣れた時に発生することもあるでしょう。最初は慎重に扱っているが、慣れると大胆になるとか、仕掛けに対して過剰に反応(興奮状態が長期続くとか)することもあるため、仕掛けは、飼育員さんや観察者がいるときだけ設置することも場合によって考慮する必要があるでしょう)

8:再評価と変更(改善)の実施
動物が仕掛けに対し、どのように反応したかを観察した後、より効果を求めて仕掛けを変更する必要が生じる可能性があります。

9:評価とローテーション
動物の反応を継続的に観察し、エンリッチメントの効果が続いている場合は、その仕掛けの定期的な使用を予定してください。再使用の前に仕掛けの損傷の有無を確認し安全性が低下していないか確認してください。
(個人的な追記:8および9でエンリッチメント用の仕掛けの有効性の評価を行なっています。2で設定した目標に対してどの程度乖離したかが評価ポイントとなります。評価結果をもとに2に戻って、仕掛けを改善したり、場合によっては、目標値そのものを見直すことも必要となります。同じ仕掛けでも種が異なれば動物の反応が変わりますし、同一種でも個体が異なれば反応が変わる可能性も十分にあります。そのため仕掛けに対しての評価だけでなく、個体ごと仕掛けに対する評価も有効です。たとえ有効性が高くても、時間や使用回数とともに有効性が変化します。これは対象となる飼育動物が仕掛けの使い方を学習したことにより、好奇心が薄れたり、慣れたりすることで発生します。そのため、これまでの8、9の評価結果をもとに、2に戻り新たな仕組みを開発し続けます。)

以上が、エンリッチメントの実践手順となります。

最後に、オンライン教材に記されている、以下の文書を紹介します。

WHAT IS ENRICHMENT NOT? (和訳:エンリッチメントではないとは?)Enrichment is not a substitute for poor enclosure design, a poor diet, lack of health care or any other poor management activities. It should not be designed to distract the animal for a short period of time. This can result in short periods of interest interspersed with long periods of boredom. Whilst it is an important aspect of positive animal welfare, it alone cannot compensate for sub-standard care that results in poor welfare.(要約:エンリッチメントは、不適切な囲いの設計、食事、健康管理の欠如などの代用にはなりません。短期的に飼育動物の気を引くことはあっても、低下した動物福祉は変わりません)

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