見出し画像

エンリッチメントってなに?

動物園における「エンリッチメント」は、市民ZOOネットワークが、主催する「エンリッチメント大賞」を通じて、動物園ギークの方々にはお馴染みでしょう。今更ですが、改めて「エンリッチメント」とは何かを記したいと思います。

市民ZOOネットワークでは、エンリッチメントを以下の様に説明しています。

環境エンリッチメント(environmental enrichment)とは、「動物福祉の立場から、飼育動物の“幸福な暮らし”を実現するための具体的な方策」のことを指します。

また、上記の「幸福な暮らし」は以下の様に説明しています。

幸福な暮らし(psychological well-being)
動物の身体的な健康や衛生だけでなく“心“にも配慮した暮らしこそが”幸福な暮らし“であるという考え方。

以前noteで紹介した「動物福祉に関するオンライン教材」に含まれる「ENRICHMENT PROVISION」では以下の様に説明しています。

Environmental enrichment, often also referred to as behavioural enrichment is the act of providing a physical and social environment that encourages species appropriate challenges and optimal mental and physical well-being.(和訳:環境エンリッチメント(行動エンリッチメントとも呼ばれる)は、生物種に適したチャレンジを促し、精神的・肉体的に最適な状態にするために、物理的・社会的環境を整えること。)

市民ZOOネットワーク、オンライン教材ともに「精神的幸福(psychological well-being, physical well-being)」が登場しましたので、復習の意味を兼ねて、以下のnoteの記述を再度記します。

動物の精神的な幸福とは「行動」「健康」「環境」「栄養」が適切に与えられている状態をもって充足していると定義しています。

つまり、エンリッチメントとは、市民ZOOネットワークも、オンライン教材ともに、「行動」「健康」「環境」「栄養」を充足させるための具体的な方策と言い換えることができるでしょう。

では、エンリッチメントとはどのような種類があるのでしょうか?

環境エンリッチメントのカテゴリー

2009年5月に英国で開催された第9回国際環境エンリッチメント会議の参加報告によると環境エンリッチメントのカテゴリーは「社会(social)」「認知(cognitive)」「空間(physical habitat)」「感覚(sensory)」「採食(food)」に収束されているそうです。
このカテゴリーのそれぞれの説明は、市民ZOOネットワークの以下のページにも記されています。

市民ZOOネットワークから抜粋
採 食
多くの野生動物は、一日の餌を探し、取り、食べることに費やしていますが、動物園ではすぐに餌が手に入り、残りの時間を退屈にすごすことになります。動物が、野生本来の採食行動を発現できるよう、餌の種類を増やしたり、与え方を工夫したり、回数を増やすなどの工夫をします。
社 会
群れを作って暮らす動物は、群れで飼育します。オスメスの数や年齢の構成も野生に似せます。また、飼育員さんや他の動物との社会的な刺激も、効果的です。
認 知
知能の高い動物にとっては、頭を使うこともエンリッチメントになります。また、複雑な動きをするおもちゃの設置や、遊具の導入設置もいいでしょう。
感 覚
見晴台を作ったり、新しい動物の匂いをつけたり、他の群れの声が入ったテープを流したりします。五感を刺激して、環境に変化をもたせます。
空 間
木の上で暮らす動物には登ることができる場所、水を使う動物には水場をつくるなど、動物の行動特性に配慮した空間作りをおこないます。平面的な広さだけでなくその空間の内容が重要です。ロープやハンモックを取り付けると、立体的に利用できる空間が広がります。


環境エンリッチメントと行動エンリッチメント
オンライン教材では、上述の様に「Environmental enrichment, often also referred to as behavioural enrichment(環境エンリッチメント、しばしば行動エンリッチメントと呼ばれる)」と紹介しています。
しかし、同教材は、以下の様に環境エンリッチメントと行動エンリッチメントについてそれぞれ説明を変えている箇所があります。

Behavioural enrichment is a way to improve the quality of captive animal care by providing stimulating structures and devices which promote psychological and physiological behaviours and welfare.(和訳:行動エンリッチメントは、心理学的・生理学的な行動や福祉を促進する刺激的な構造物や装置を提供することで、飼育下の動物のケアの質を向上させる方法です。)
Environmental enrichment is the stimulation of the brain by its physical and social surroundings.(和訳:環境エンリッチメントは、物理的・社会的環境によって知能を刺激することです。)

この説明を読むと、環境エンリッチメントには物理的側面と社会的側面があり、行動エンリッチメントは、構造物や装置の提供と、物理的側面の提供が記されていることから、行動エンリッチメントは環境エンリッチメントに内包されていると解釈できます。さらに、オンライン教材では、以下の記述もあります。

Environmental and behavioural enrichment provides species-appropriate challenges, opportunities and stimulation that encourage natural and strongly motivated behaviours to be expressed.(和訳:環境と行動のエンリッチメントは、種に適した挑戦、機会、刺激を提供し、自然で強い意欲を持った行動が表現されるように促します。)

このように動物園における環境および行動エンリッチメントとは、飼育環境下で飼育する動物に、本来(野生下で)行うであろう自然な行動パターンや行動配分を引き出すためのあらゆる取り組みのことと理解できます。

実際に調べ始めて思ったことは、エンリッチメントは、これ!といったものはなく、捉え所がないものでした。ありとあらゆる対策(行為)がエンリッチメントに該当すると言えます。また、導入のしやすさがある反面、効果は種や個体によって異なり、安全性や効果を最大限に求めると、工数が無限に増大する場合もあり得ます。エンリッチメントを導入する際の手順は、上記で参照した「第9回国際環境エンリッチメント会議の参加報告」にてS.P.I.D.E.R. モデルが、「動物福祉に関するオンライン教材」にてPLANNING ENRICHMENT ACTIVITIES(エンリッチメント活動の計画)が記載されています。これらの紹介は、また後日にでも。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?